第237話 親バカに一撃入れるには・・・
「う、ウズメちゃんのスキルで、僕の【固有錬成】を殿下に?!」
僕のそんな驚きの声は、皇女さんがまだ私室に居るときに上げたものだった。
この後、皇女さんは皇帝さんとの一騎討ちに挑むのだが、これはそれよりも前の話である。
「ええ。......ウズメ、できるわね?」
「で、できますが......」
「ならお願い」
僕の戸惑いの言葉を他所に、皇女さんは話を進めた。もちろん僕は待ったをかける。
「い、いや、そんな無茶な......」
「仕方ないじゃない。剣術でパパに勝てるわけないでしょ」
「そうかもしれませんけど......」
『たしかに、皇位継承権のあるこのお姫さんには決闘を申し込むことはできます。それも騎士の存在を重んじるこの国ならば、魔法を使わずに純粋な武力で決めるでしょう』
『魔法は駄目だが、【固有錬成】はいいってか? んな訳あるか』
妹者さんに同意見だ。そんな屁理屈通らないだろ。が、僕のその考えを姉者さんが否定する。
『観点が少し違いますね。メリットは二つあります。まずは魔法を使わないという暗黙の了解が、皇帝にとって“剣のみの仕合”と認識させることができます』
『まぁ、そうだな』
『そして皇帝は娘の【固有錬成】を知っています』
『ああ、野郎が娘を監視してたときに、“他者の姿に変身できる”っていうスキルを知ったもんな』
『ええ。それ故に、直接対峙したときに戦闘に不向きなスキルのため、油断を招けるのです。なんせ決闘の時点で、“誠意”として意図を受け取るはずですから』
な、なるほど。たしかにメリットっちゃメリットだ。姉者さんはそのまま続けて語った。
『二つ目のメリットは、物にもよりますが、【固有錬成】には予備動作が無い』
『ああー。たしかに条件さえ満たしちゃえば発動できるしな』
そう、【固有錬成】は条件さえ満たせば発動できるというメリットがある。
故に魔法を使おうなんて不意打ちは、魔法陣という術式の展開と同時に感知されてしまう。
そして何より――
「僕には決闘にお誂え向きなスキルがある......」
最近覚醒した初見殺しにも程があるスキルだ。
「そ。あの<4th>をいとも簡単に倒すことができたスキル......【縮地失跡】だったかしら? それをウズメの力で私に付与してちょうだい」
「『『......。』』」
マジか。
【固有錬成:縮地失跡】。相手の視界から自身の姿が消えれば発動させられるスキルだ。
内容は至ってシンプル。その発動条件を満たした時点で、相手の死角に転移できちゃうスキルである。
正直、所見でこれをやったら絶対に防げないと思う。
ゼロ距離で致命傷になる攻撃が直撃してみろ。ヤバいなんてものじゃない。
そのスキルに目覚めた僕は、たしかに闇組織の拠点の襲撃から帰還した後の報告で、皇女さんに教えちゃったけど。
「それで決着をつける気ですか......」
「ええ。それにマイケルが持っている【固有錬成】の中で他に使えそうなスキルは無いでしょう?」
「いやまぁ、そうですけど」
僕が使える【固有錬成】は次の二つがある。
【力点昇華】。身体の一部を力んで発動させると、そこ部位にとんでもない膂力が宿る。これで暴力を行使したら、常人は死んじゃうだろう。
却下である。
【泥毒】。発動条件はともかく、その効果はえげつない。その毒を常人がもろに食らったら、肉体がずるずるに溶けちゃう。
却下だ。
後は魔族姉妹の【固有錬成】だろうか。鎖を吐き出したって仕方ないし、唯一、次点で使えそうなのが、妹者さんの【祝福調和】ではなかろうか。
傷を癒やす使い方の他に、相手の身体能力を完コピできるのは、決闘に向いているかもしれないが、きっと技量の差で押し負けるだろう。
てかそもそも、僕が知っている【固有錬成】の中で一番発動条件が多いスキルだから付与できない。
その点、【縮地失跡】は相手の死角を取るだけで発動できちゃうので、使い方次第で勝機は充分に見出だせる。
「もう話し合いなんて無理よ。パパの油断を突いて、一気に全て奪い取るわ」
「で、殿下......」
もう話はほぼ決まったようなもんで、ウズメちゃんが皇女さんに命令されて僕らの下へやってきた。
僕はこれでいいのかと戸惑いつつも、皇女さんに従うことにした。
「で、では奉仕します。......【固有錬成:依代神楽】」
ウズメちゃんが【固有錬成】を発動する。
それにより、皇女さんが露出させた片腕に、例の術式が刻まれるようにして浮かび上がった。やがて発動中の輝きは失われ、終わりを迎える。
「ど、どうでしょう?」
エルフっ子の問いに、皇女さんは僕をじっと見つめてきた。
「たぶん使えると思うわ。......マイケル、お願いしていいかしら?」
皇女さんの言葉に僕は首肯した。目を瞑って開いた
【縮地失跡】の発動条件は、対象者の視界から自身が消えること。
それは僕が皇女さんを視界に入れないよう、余所見しても良いし、目を瞑ってもいい。
それだけで発動しちゃうスキルだ。
でも、
「あ、あれ? 発動しない」
それは付与する前の、僕だけに限った発動条件だ。
ウズメちゃんの【固有錬成】で他人に付与しようとすると、何かしら別の条件が追加されててしまう。
おそらくそのせいで、ただ僕が皇女さんを視界から外しても発動しないのだろう。
『もしかしたら時間が関係あるかもしんねぇーな』
かもね。
僕はそのことを皇女さんに提案した。
「以前、僕が実験でアーレスさんからスキルを受け取ったときは、オリジナルの発動条件である“魔法を使わない”から、“約五分間の魔法発動禁止”に変わってましたし、時間が関係しているのかもしれません」
「それもそうね」
ということで、僕は皇女さんを視界に入れてから、少しだけ長く目を瞑った。
瞼を閉じて約三秒後、エルフっ子とバートさんの驚く声に、僕も驚いて目を開けてしまう。
すると目の前に居た皇女さんが、いつの間にか姿を消していた。
そして次の瞬間、
「えい」
「っ?!」
なにやら背後から可愛らしい声と共に、何かがぶつかって来た感触を覚えた。振り返るまでもなく、皇女さんが僕にぶつかって来たのである。
いや、体当たりじゃない。ハグだ。ぎゅーっとしたやつじゃなくて、そっと身を寄せてくるような軽いやつ。
「ちょ、ちょっと殿下」
「殿下ッ! お戯れをお止めください!! その男は汚いです!!」
『そうですよ、ばっちぃですよ』
『おいこらくそガキぃ!! 離れろ!! ぶっ殺すぞ!』
「あ、あわわわ!」
僕を汚いとかばっちぃとか言ってくる者と、激怒する者、どうしたらいいのかわからない者と三者三様だ。
僕はというと、背後から美少女に抱きつかれて満更じゃないと言ったところ。
正直に言えば、至福の時間。ずっと抱き着かれていたい。
てか、彼女を抱きたい。ベッドイン的な意味で。童貞だけど、そういう行為に走りたくて仕方がなかった。
が、皇女さんはそんな僕らを他所に、静かに口を開く。
「ねぇ、マイケル。私......本当にパパに勝てるかしら......」
「......。」
僕は彼女の弱々しい声に、何も言えなかった。
たぶん隙を突くことはできる。が、それでもおそらく、皇女さんは殺意なんてものを抱いていないから、その意思は読まれてしまうだろう。
それでも僕は言った。
振り返って、彼女の頭の上にぽんと手を乗せて。
「大丈夫ですよ。きっと上手くいきます。あの親バカにぎゃふんと言わせましょ」
そう微笑みかけて言うと、彼女は苦笑しながら『うん』とだけ応えてくれたのであった。
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