閑話 [ルホス] 落下して潜入?
「おい、これはなんの真似だ、マーレ」
「おほほほ〜」
マーレの家で晩ご飯を食べ終えた私は、そのタイミングでマーレが担ぎ上げられ、一緒にこの場へ転移させられた。
転移先は......どこだ、ここ。
ただ遥か上空の位置に居るのはわかる。頭上には満点の星空が広がっていた。......夜風が寒い。
「あ、安心してください。別にあなたを落下死させる訳ではないので」
なんか物騒なこと言ってるんだけど。
月明かりに照らされながら、私はジト目でマーレを見やった。
今のマーレは普段の人間の姿ではなく、魔族の姿に変身していた。いや、元々マーレは蛮魔だから、人間の姿の方が仮なので、今の姿が本来の彼女である。
頬には何か赤色の文様が浮かんでいて、耳は人間のときの姿とは違って先が長く尖っている。それでもって服装も一変して、ほぼ裸みたいな格好になっていた。
痴女だ。紛うことなき痴女。
何よりも目立ってしまうのは、腰から生えている真っ黒な翼だ。
それをバタつかせて私たちはこの位置を維持しているんだけど......なんで急にここへ転移してきたんだろう。
すごく嫌な予感がする。
「さて、ルホスちゃん。以前、私があなたを帝都まで送り届ける術がある話をしたことを覚えていますか?」
「え、あ、うん」
マーレはニコニコと微笑みながら、そんなことを私に聞いてきた。
ただその笑みが全く笑っていないことは、私でもわかった。
「今夜、さっそくそれを実行しようと思いまして」
「急だな」
「ええ。色々と限界だったので」
すごいぶっちゃけてくるぞ、この蛮魔。
なんだ、そんなに私が側に居て邪魔だったのか。さすがに傷つく。
マーレの家に居て、特に迷惑をかけた覚えは私には無い。
ちょっと彼女が毎晩、食費のせいで貯金が無いと苦しんでいたが、それを迷惑だなんて自覚する気は無い。
だってマーレより長く一緒に居たスズキは『全然大丈夫』って言ってたから。スズキよりも大人なマーレだし、私が並の人より食べても迷惑にならないと思う。
でも実際はそうじゃなかったみたい。
「今日の晩ご飯が豪華だったのって......」
「はい。最後の晩餐というやつです」
「......。」
なんかこれから起こる出来事が色々と予想できちゃうんだけど。
「で、ですね。私たちが今居るここの真下には、帝都の中央に位置する城があります。見えますか?」
と、言われたので、私はマーレから視線を真下に移した。
そこには確かに一際大きい建造物があった。たぶん、アレが帝国の城だ。
「見える」
「そこのとある一室にナエドコさんが居ます」
「なッ?!」
私はマーレのその言葉に驚いた。
が、マーレはそんな私を他所に話を続けた。
「で、今からあなたをここから落とします」
「ふぁ?!!」
な、何を言い出すんだ、こいつ。
「実は私の転移で帝都の中に入れても、城の敷地内までは入れないのです。転移魔法の発動と同時に探知されちゃいますからね」
「い、いや、だからってなんでここから......」
「あなたを真正面から城の中に入らせる方法がありませんので」
どうしよう、マーレが何を言っているのかよくわからない。
というか、わかりたくなくない。
マーレは依然としてニコニコしながら話を続けた。
「ナエドコさんに会いたいのでしょう? 潜入作戦はこうです。あなたはここから落下します。良い感じに着地して、ナエドコさんの居る部屋へ向かってください。以上です」
「作戦じゃなくて殺害予告の間違いだろ。我、死ぬぞ」
「鬼牙種のルホスちゃんなら大丈夫ですよ」
そう言って、マーレは私の両脇腹を掴んで持ち上げた。
......マジか。躊躇いを一切感じないんだけど。
「ルホスちゃん、短い間でしたが、あなたと過ごした日々は楽しかったです」
「その涙、絶対嬉し泣きだろ」
「おほほ〜」
そして次の瞬間、私はマーレの頭上に持ち上げられ、一気に真下へ投下させられた。
「日頃の恨みぃぃぃいいぃぃいい!!!」
「ぬおぉぉおおおおぼえていろぉぉおおおお!!!」
マーレ、次あったら絶対に殺す。
そんな恨みを抱きながら、私はすごい勢いで落下していくのであった。
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