第226話 まずは戦力増強!

 「で、アーレスの力を頼りにしていることは否めないわ。ただそれともう一人――」


 「レベッカか」


 皇女さんの言葉を遮って、アーレスさんがその人物の名前を呼んだ。


 その言葉に、皇女さんは首肯する。アーレスさんは続けた。


 「あの女はどこに居る?」


 「この城の地下よ。フォールナム邸で襲撃を受けたときに、戦闘で毒に侵されたみたい。自滅みたいだけど」


 アーレスさんにはレベッカさんがどんな状態なのかを事前に伝えてある。だから特に言及はされなかった。


 「なぜ地下に?」


 「ああ、それは地下の方が気温が低くて、氷漬けにした僕の消費魔力が少なく済むからです」


 「一応、私の直属の護衛騎士をつけているわ」


 皇女さんの言う護衛騎士は、ニコラウスさんやオリバーさんたちのことだ。


 魔族姉妹曰く、今も尚、レベッカさんを氷漬けにしている【冷血魔法:氷刻之棺】は、周辺環境の影響を受けやすいらしい。


 だから比較的冷暗な空間の地下に置かせてもらった。


 『あのドS女、なんだか傷みやすい野菜みたいな扱われ方してるよな』


 『ですね』


 失礼な。


 「なら、今からそこに行って、レベッカを連れてくればいいのか」


 「そうしたいのは山々だけど、レベッカを復活させる方法が現状ではないのよ」


 「皇帝に頼んだらどうだ? 治せる伝手くらい、いくらでもあるのだろう?」


 「う、うーん、どうかしら。パパ、レベッカに限った話じゃないけど、傭兵や冒険者には厳しいから......」


 正直、今から謀反を企てている対象の皇帝さんに頼むのも憚れるよね......。


 本当は僕が、レベッカさんの相棒である<討神鞭>から貰った、【転写】スキルが宿った核を使いこなせれば、彼女をすぐにでも復活させられるんだけど。


 発動条件も制限もわからなければ、使えるようになるきっかけすら思い浮かばない。


 「ふむ。それならアレしかないか」


 「「「「?」」」」


 この場に居る全員がアーレスさんの言動に注目した。


 「ウズメ」


 「ひゃい?!」


 名前を呼ばれただけなのに、部屋の隅っこに突っ立っていたエルフっ子がビクンと肩を震わせた。


 そんな彼女に、アーレスさんは問う。


 「君の【固有錬成】は他者の【固有錬成】を複製できる能力だな?」


 「は、はい。付け加えるなら、オリジナルの【固有錬成】の発動条件に追加しないといけません」


 「その追加条件は任意か?」


 「い、いえ、勝手に決まります。それを私が複製後に知る感じです」


 「そうか。スキルの効果範囲に制限や差異は?」


 「と、特に無いと思います」


 そう一頻り聞き終えると、アーレスさんは「決まりだな」と言って、頷いた。


 どうしたんだろ。誰かの【固有錬成】を複製するのかな?


 ちなみに一番確実に治せるであろう、妹者さんの【固有錬成:祝福調和】は複製することが非常に困難だ。無理に近い。


 妹者さん曰く、発動させるのに事前準備が非常に多いらしい。【祝福調和】の対象者の身体的な情報や魔力量を知らないと発動ができないのである。


 イメージ的にはデジタルコンテンツのデータのバックアップと復元だろうか。


そのバックアップに該当する事前準備が”発動条件”とするならば、そこに一つでも条件が加わると難易度が跳ね上がる。


 「もう一つ確認したい」


 「は、はい。なんでしょう」


 「ウズメが付与したスキルは強制的に剥奪、もしくは取り消すことが可能か?」


 「で、できます。私が触れればですが」


 「接触が条件か......」


 アーレスさんが顎に手を当てて何やら熟考していたが、それも束の間のことで、納得のいく結論を導けた顔つきになった。


 「レベッカを復活させる方法はある」


 「「「「『『っ?!』』」」」」


 この場に居る全員が驚いた。


 アーレスさんはあまり乗り気じゃなさそうだが、仕方なくといった様子で答えた。


 「レベッカに......私の【固有錬成】を付与させる」



******



 「口外しないと誓えるか?」


 アーレスさんは目を細めて皇女さんたちを一瞥した。


 おそらくこの場に居る全員に対して言ったのだろう。短い言葉だが、それはアーレスさんの【固有錬成】の内容についてだ。


 すると皇女さんが真剣な眼差しでアーレスさんを見つめた。


 「誓うわ。できれば【誓約魔法】を使いたいところだけど......」


 「私もその方が安心できるが、使える者はこの場に居ない」


 なんだ【誓約魔法】って。


 僕が知らない単語を疑問に思ていると、魔族姉妹が補足してくれた。


 なんでも【誓約魔法】で誓いを立てれば、違反すると苦しみの果てに無条件で絶命する魔法らしい。思ってたよりもすげぇ魔法だ。


 アーレスさんは躊躇うことなく語った。


 「【固有錬成:万象無双】。私の常時発動型の【固有錬成】だ」


 彼女は自身の手のひらを見つめながら語り続けた。


 「効果は自身を害する魔法及び物理攻撃、状態異常の一切を無効する」


 それを聞いて、僕は彼女が化け物じみた強さを誇る理由を察した。


 「発動条件はシンプルだ。”魔法の使用禁止”......より的確に言えば、魔力消費を伴う何かをしなければ、常に発動していることになる」


 発動条件が単純な割に、破格の効果をもたらすのか。


 正直、チートにしか思えない。


 『じゃあなんだ。アーレスが魔法を使わない限り、どんな攻撃を食らってもノーダメってことか』


 『化け物ですね』


 同意見な僕だけど、失礼なことを口走った姉者さんを軽く叩いた。


 アーレスさんには声聞こえているんだから自重してほしい。いや、聞こえてなかったら言っていいわけじゃないけど。


 「そ、それでレベッカを蝕むあの猛毒も?」


 「私の【固有錬成】が発動してしまえば、無効化されるな。状態異常など効かん」


 「問題はウズメによって付与された際に、どんな発動条件が追加されるかだな」


 「いきなりレベッカさんで試すのはリスクありますよね」


 僕のそんな呟きに、この場に居る全員が僕に注目した。


 ちょっと嫌な予感してきた。


 「マイケル、あなたが実験台になりなさい」


 「貴様しかいないだろう」


 「ザコ少年君、死にはしないから安心しろ」


 『ま、そりゃあそうなるわな』


 ですよね。わかってました。


 ということで、さっそく僕が実験台になることになった。


 ウズメちゃんが僕の手を握ってきて、もう片方の手でアーレスさんの手を握った。


 「で、では――


 緊張した面持ちのウズメちゃんは、深呼吸してから【固有錬成】を発動する。


 「【固有錬成:依代神楽】」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る