閑話 [ルホス] 大嫌いの中のスキ
「ちッ」
私は舌打ちと共に、横へ飛ぶ。
その瞬間、私がさっきまで居た所に、一人の巨漢が突っ込んできて、その剛腕を地面に叩き込んだ。
抉れた地形がその破片を辺りに飛ばし、土埃を上げる。
そんな中、巨漢がゆっくりとこちらへ歩んできた。
「ちょこまかとうぜぇな」
「【岩石魔法:螺旋岩槍】!!」
「ぬお?!」
私が放った螺旋状の槍が、巨漢目掛けて放たれるが、奴はそれを両腕に纏う鉄の塊で防いだ。
騎士の鎧とは違う、分厚くてより頑丈な両腕だ。
それを防御だけではなく、攻めにも使われて非常に面倒くさい。
私は続けて魔法を次々と撃ち込んだ。
「ははッ!! そう何発も当たらねぇな!!」
が、奴は巨漢に見合わぬ素早い動きで、私の攻撃を次々と躱している。
躱しながら私の方へ近づいてきた。
私はまた距離をあけようとするが、
「喰らえ! 【紅焔魔法:天焼拳】!!」
「っ?!」
炎を纏う奴の拳が、地面に着弾すると同時に、辺り一帯を炎の柱で埋め尽くした。
「ぐぅ!!」
「まだまだぁああああ!!」
巨漢は両腕に纏う炎でラッシュしてきた。
私は鬼牙種の身体能力を引き出して躱し続けるが、ほぼ一発一発が範囲攻撃なので、避けきれない。
「そこぉ!!」
「がはッ!」
すると、私は腹に重たい一撃を食らって、遥か後方へふっ飛ばされた。
教会の壁を壊し、その内部に瓦礫の山を作りながら、私は倒れ伏した。
「うぅ。いだい......」
殴られた腹を見たら、赤黒く焦げてた。血が流れてもおかしくない傷なのに、それすら焼け焦げてしていなかった。
私はそれを【回復魔法】で癒そうとしたが、
「おらおらおらおら!! へばってんじゃねぇぞッ!」
「っ?!」
前を見ると、大量の火球が視界いっぱいに広がっていた。
「あぁぁぁああ!!!」
私はそれ両腕を交差させて防ぐも、受けきれずに火球に呑まれる。
「ヘドナさんッ! これ以上派手にやったら騎士の連中が来ますって!!」
「ああ?! 知ったこっちゃねぇよ!!」
「がは!!」
仲間の盗賊が、巨漢に顔を殴られて、その頭部をおかしな形に歪ませた。
あいつ、見境なさすぎだろ。
「おらガキぃ! 出てこい! まだ死んでねぇんだろ?! 諦めたかぁ!!」
荒れ果てた教会内に身を埋める私を、巨漢の男は怒号混じりに呼んできた。
私は瓦礫の山の陰に隠れた。
「はぁはぁ......どう、しよ......時間稼ごう......かな」
これだけ派手にやったんだ。騎士共が来るのも時間の問題だろ。
てか、戦闘を始めてから結構経ってるけど、全然騎士たちが来る気配がない。どういうこと?
「出てこねぇか?! じゃあ、お前の大切な家族を殺そうか!!」
私の家族? んなのお祖父ちゃんだけだ。この場に居るはずもない。
私が巨漢の言葉を無視していると、聞き覚えのある男の子の声が響いた。
「うわぁぁああ!!」
「っ?!」
「まずはこのガキだッ! 頼むから早めに出てきてくれよ! ガキ共はこれから商品にするんだからよぉ! ぎゃははははは!!!」
この声、リベットだッ!!
レニアと舌入れるキスしたリベット!!
「まず一人ぃ!!」
「っ?! させるかッ!!」
私は物陰から飛び出て、【死屍魔法:封殺槍】を速攻で巨漢に撃ち込んだ。
「やっぱり生きてたんじゃねぇか!!」
「あ!!」
巨漢が、頭を鷲掴みしていたリベットを盾にして、私が放った【封殺槍】を防ごうとした。
そのことに咄嗟に気づいた私は、放った魔法を一瞬で霧散させる。
「あ?」
「危ない危ない......。もう少し遅かったらリベットが死ぬところだった」
私がそう呟くと、ヘドナが不思議そうに口を開いた。
「なんだ、鬼牙種のガキ。この小便臭ぇガキが好きなのか?」
「貴重なサンプルだ。次はちゃんとキスの先までヤッてほしい」
素直にそう答えたら、ヘドナが盛大に吹き出した。
「ぶはははは!! なんだお前、マセガキかよ!!」
「ち、ちがッ! 私とじゃなくて――」
私が奴の甚だしい勘違いを正そうと抗議の声を上げようとしたら、リベットが私の方へ投げ飛ばされていた。
「じゃあ、ちゃんと受け止めないとなぁ!!」
「わぁぁぁああ!!」
「ちょ!!」
急なことだったが、私はリベットをキャッチすることができた。
が、
「捕まえたぞ!」
「っ?!」
その間に、巨漢が私の目の前に現れ、その鉄の塊の左手で私の胴体を掴んできた。
「ぐぁ!!」
「る、ルホス!!」
「はは! このままゆっくりと握り潰してやろうかぁ!!」
奴の手に力が徐々に込められ、掴まれた私の胴体が悲鳴を上げた。
「あ、がッ、あぁあ」
「そこそこ楽しかったぞ! 安心しろ! 内臓をこのまま潰しても、貴重な上級ポーションを使って治してやるからな! なんせお前も商品になるんだからよぉ! ぎゃはははは!!」
ミシミシと体内で何かが軋む音、グチャリと何かが形を変えつつある音......。
全部私の叫び声で掻き消えていくけど、感触が激痛となって私を襲ってくる。
「いやしっかし元とは言え、Aランク冒険者のこの俺がこんなガキに梃子摺るとはなぁ......なぁ?!」
「あぁぁぁああ!!」
男が更に力を入れてきた。
もう痛みでどうにかなってしまいそうだ。
「いいかぁ! お前の大切な家族といってた、傷の舐め合いをしてたガキや女共はこれから
何が面白いのか、男は下卑た笑みを浮かべながら言ってきた。
「今のうちに、そこで腰抜かしてる男に甘い言葉でも囁いとけッ! 女供は誰一人例外なく、この先、身体でいろんな男に奉仕しなきゃいけねぇんだからよぉぉおお!!」
これだ。
人間は、こういうことを平然とする。
世の中には、いろんな人間が居るということは、身をもって知ったことだ。
ババアみたいに親切の塊も居れば、シスターのように優しさで溢れる奴も居る。
そして目の前で狂ったように、人の不幸を嗤う者だってこの世には居るんだ。
自分の【固有錬成】を通して見る度に、赤かったり黒かったり不快な色ばかりで染まっているのがわかる。
だから私は――人間が嫌いだ。
こういう奴がせっかく楽しいと思えた日々を、平気で踏み躙る。
踏み躙って、嫌な思い出に上書いていく。
それが堪らなく......腹立たしい。
「ていせい、しろ」
「あ?」
私は、私を掴んで放さない鉄の塊を、自由に動かせる左手で掴み返した。
奴の手と比べてすごく小さい私の左手が、鉄でできた左手の甲にめり込む。
手が食い込んで、食い込んで、食い込んで食い込んで食い込んで食い込んで食い込んでいって――
「っ?!」
「訂正......しろ。私が......我が好きなのは!」
そして、
「スズキだッ!!!」
破壊した。
「ぬあ?!」
解放された私はその場にどさりと落とされた。
奴は自身の頑丈な腕が破壊されるとは思ってもいなかったのだろう。
砕いたが、部位破壊された程度で、完全に使い物にならない訳では無い具合である。
ヘドナは驚きのあまり、即座に私から距離を取った。
「はぁ?! ちょ、なんで俺の手が?!」
私は戸惑う敵を他所に、大きく息を吸い込んだ。
そして、唱える。
「ぶった斬れ――【棍牙】」
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