第220話 華麗に着地!
「実は今の私は【固有錬成】を使えない。......風を操れない」
と、高度約千メートル上空地点にて、落ち着いた様子で告げたのはシバさんだ。
陽の光を一身に浴びながら、僕はそんな彼に虚ろな眼差しを向けていた。
え、ちょ、風を操れないって......なんで?
「マジすか」
「マジ」
もう着地まで一分を余裕で切ってますが。
おそらくだが、シバさんの【固有錬成】にも条件や制限があって、今が使えない状態なのだろう。
何が発動の引金になっているのかわからないが、僕よりも付き合いの長いミルさんとマリさんの様子から、使えないのはマジなのに違いない。
にしても、少し前までは使えてたのに、なんで今は使えないんだろ。
「どうすんの?! ねぇ、どうすんの?!」
と、今一番、この中で余裕の無いマリさんが、器用にも近くに居たミルさんの胸倉を掴んでぐわんぐわんと揺らしていた。
理不尽に攻められたミルさんは渋い顔をしている。
あまり言いたくないけど、この状況を作り出したのはシバさんなので、できれば彼を問い質した方がいいと思う。
マリさんに問い詰められて、ミルさんは渋々と言った様子で答えた。
「ふむ。私に関して言えば、この高さから落ちても問題無い。マリも自力で魔法を使って、どうにかできないか?」
「マリ、もうそんな魔力残ってないんだけど!!」
「そ、そうか。シバはどうだ?」
「マリを安全に着地させるなら風魔法を使うのが最適。でも私は風魔法を使えない」
「なんで使えないのよぉ! この馬鹿ぁ!」
「ごめん。【固有錬成】で風を操れるから魔法なんて知らない」
すげぇ無慈悲。マリさんが不憫で仕方ないよ。
じゃあ、シバさんはどうやって着地するのか。
聞けば、彼はミルさん程ではないが、身体能力を強化できる魔法があるので、それを使って無事に着陸するとのこと。
マジで無慈悲。一人だけ熟したトマトが落下して原型を留めてない未来しか視えなくなった気がする。
「よし。なるべく大怪我を回避できるよう、私がマリを抱えて――」
「死ぬわ!!」
「マリのことは忘れない。今までありが――」
「死んだら呪い殺すから!!」
<
仕方ない。
「二人とも、サポートお願いできる?」
『おう』
『ま、妹者が助かったのも、このピンクビッチのおかげなんです。助けてやりましょう』
ピンクビッチって......。
二人ならそう言ってくれると思った。
さて、もう落下まで時間無いし、さっそく行動するか。
僕は姉者さんの口から勢いよく吐き出された鉄鎖をマリさんに巻き付けて、強引にこちらに引き寄せて左腕でキャッチした。
「きゃッ」
「マリさんの命、僕に預けてください。なんとかしてみせますので」
「っ?!」
「しっかり掴まっててくださいよ」
抱き寄せた彼女から熱い視線を受ける。急に抱き寄せたことによる抗議の眼差しだろう。でも律儀に応答する暇は無いので、彼女の意思は無視だ。
僕はフリーの右手をやや後方下へ突き出した。
瞬間、
『【紅焔魔法:爆散砲】ッ!!』
右手から爆風が吹き荒れ、落下するベクトルを少しだけずらした。
「くッ」
「きゃぁぁああ!」
同時に自由落下に逆らう衝撃が、僕の身体を襲う。マリさんが耳元で叫んでるが、それが気にならないくらいの激痛だ。
妹者さんの魔法発動に合わせて、【固有錬成:力点昇華】を使っているのだが、それよりも落下中の速度の力が勝って、僕の右腕を魔法発動と同時にぐちゃぐちゃにした。
肩とか骨が突き出て右頬に刺さったしな。
妹者さんによって即治せるけど。
「【紅焔魔法:爆散砲】ッ」
今度は僕が魔法を使う番。
小刻みにこの魔法を僕と妹者さんで交互に発動していくのだ。
二人で交互に繰り返すのは連射するためである。
それも威力を考えて、できるだけ徐々に落下速度を落とせるように。
また【爆散砲】を放つ向きも斜めにして、できるだけマリさんの負担を減らすようにするんだ。
『【紅焔魔法:爆散砲】ッ!!』
「【紅焔魔法:爆散砲】!」
『【紅焔魔法:爆散砲】ッ!!』
「【紅焔魔法:爆散砲】!」
『【紅焔魔法:爆散砲】ッ!!』
「【紅焔魔法:爆散砲】!」
幾度となく繰り返された、本来の用途とは違う使用法で、僕らの落下速度と降下するベクトルは徐々に変化していった。
そして終いは、
『【冷血魔法:氷壁】』
姉者さんが作り出した氷の滑り台の上に着地である。
普段の用途は敵の攻撃を防ぐのに使うの壁なのだが、こうやって形状を変えて氷の滑り台にすることもできる。
僕はその上をものすごい勢いで滑っていった。
やがてその滑り台は終着点が円を描くように曲がっているので、必然と地面に叩きつけられるのではなく、再び上空へと放り出される羽目になる。
が、十分威力を殺し切っているので、華麗に着地できた。
まぁ、着地後、地味に踵からジーンと痺れと鈍い痛みがやってきたが、妹者さんに治してもらうほどでもない。
着地した場所は帝都から少し離れた場所にある......鉱山? なんか人の手によって変えられた地形に見える山に辿り着いた。
見渡せば、ちらほら人が居て、こちらに注目していることに気づく。妹者さんが氷の滑り台を作ったから目立ってしまったのだろう。
「ふぅ。ひやひやした」
『いや〜、そこそこスリルあって楽しかったわー』
『ですね』
二度と味わいたくないスリルだったよ。
僕はお姫様抱っこしているマリに無事を確認すべく、彼女を見やった。
すると彼女は目が点になった様子で、空を見上げていた。
「マリさん?」
「っ?!」
僕の呼び掛けに、ビクッと身を震わせた彼女は、視線を見上げていた空から僕の顔に移した。
「あの、怪我はありませんか?」
そして彼女は途端に顔を真っ赤に染めた。
「だ、だい、だだだだだい、じょう、ぶ......です」
なんとか返答してくれた彼女に、特にこれといった怪我は無さそうである。なんか顔赤いけど。
ふむ、腕の中で美少女が死んでたら一生もんのトラウマになってたな。無事でなによりである。
「下ろしますね」
「あ、うん」
少し蹌踉めいていたが、マリさんは自身の足で立つことが出来た。
『しっかし帝都からかなり離れたな。関所は微かに見えるからそこまで遠くねぇーがよ』
『ええ。たしかここ、帝国城から見えた岩山の一つでしたね。何か採掘できる鉱山地帯のように見えますが』
と、魔族姉妹が辺りを見渡しながら、そんなことを言っていた。
「あの、マリさん、ここって......」
「ああ。ナエドコさんは帝都に来て間もないんだっけ? ここは帝国が所有する鉱山の一種――いや、元はダンジョンだった場所だよ」
「『『っ?!』』」
マリさんの一言で、僕らは驚いてしまった。
僕らが帝国に来て、日銭を稼ぐために探索したのは、帝国領土内に二つあるダンジョンうち一つだ。
名を<
で、もう一つのダンジョンとは、
『<
姉者さんの言う通り、ダンジョンとは思えない危険性の無い場所だ。
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