閑話 ナエドコの・・・ファン?
「でねでね! ナエドコさんが決め台詞を言ったの!!」
鈴木が過ぎ去った後、ムムンは報告を受けるために<
ミル、シバからは既に報告が上がっていたので、残るはマリのみだ。
特に鈴木という謎の多い男と共に行動していたマリの報告は、些細なことでも聞き流せない。
聞き流せない、のにだ。
「<4th>、あんたの敗因はたった一つ――女の子を泣かせたことだ......って!! 超格好良くない?! ヤバくない?!」
マリは......先程から鈴木の武勇を語るのみであった。
全くと言っていいほど、件の話をしてくれない。
<4th>の生死とか、蛮魔の人造魔族とか、オムパウレの行方とか全く報告してくれない。
ムムンとミルが、もう何度目かわからない深い溜息を吐くのも無理はなかった。
「あれ聞いたとき、マリの全身痺れたわ〜」
何を隠そう。<
「マリが何度、【犠牲愛】を使ってナエドコさんを手に入れようか迷ったことか!! わかる?!」
否、その念には、少なからず恋慕が混じっていた。
そう思わせるくらい、マリは興奮した様子で、熱烈に鈴木の武勇を語ったのである。
「さすがナエドコ」
「あ、シバにはわかる〜? ほんっと最高だよね!」
「ん」
と、相も変わらず、無表情な顔つきで相槌を打ったのは、美少女のような容姿のシバである。
ムムン、ミルとは違い、彼だけはマリの話に深く頷いてた。
「マリ、もうその辺にしてくれ」
「ええ〜。ミルはマリの報告を聞く気無いの〜?」
「そもそもまともな報告をしてないじゃないか」
この場でミルの言葉に深く同意したのはムムンだけであった。
話を変えるべく、ムムンがその鈴木のことを探るべく、マリに質問する。
無論、粗方はミルとシバから報告されている。
蛮魔の人造魔族の自爆行為により、オムパウレの生死の確認は取れていないが、マリの最低限の報告から<4th>が死んでいることは確認できた。
故にこうして興奮するマリの無駄話に付き合っているのである。
「マリ、あの冒険者は、君の【固有錬成】が何なのか知っているのか?」
ムムンのその質問に、マリは一瞬で恍惚とした笑みから、無機質で冷徹な顔つきへと変えた。
そして答える。
「うん。ナエドコさんは、私の【固有錬成】を知っている。実際に目の前で見せたし、内容も伝えた」
「それであの態度か」
「ね。おかしいよ。正直、常人の思考じゃない」
マリが冷静にそう告げると、この場に重たい沈黙が訪れた。
それもそのはず、マリの【固有錬成:犠牲愛】は他人を操る力がある。
条件は対象に触れること。それを知った上で、マリと距離を置かずに、あたかも同年代の友人と接するように、親しみを持って行動を取っていた。
それは出会った当初から、【固有錬成】の内容を知った今でも変わらない。
言い換えるのならば、鈴木はいつ操られて、自害を命じられてもおかしくない状況に置かれていたのである。
マリと初対面になる人物は大抵、彼女の【固有錬成】を知った時点で距離を置く。そして触れられないよう警戒をする。
この場に居るミルもムムンも、当初はそうせざるを得なかった。それが普通の反応だ。
シバだけはなぜか例外だったが、鈴木はそれとは別の反応である。
沈黙の中、ミルが口を開いた。
「ナエドコは危機感が非常に低いのか?」
「かも? 実際、何度死んでも生き返ってたし、仮に私に自害を命じられても殺しきれるとは思っていなかったのかもしれない」
「それでも常軌を逸しているな。さっきもマリが手を握っても、顔色一つ変えること無く応じてたぞ」
「あれ、マリが狙ってやったの?」
「い、いや、普通に興奮して手を握っちゃった。......キモがられたかな? き、嫌われてないよね?」
「もしかすると、ナエドコはマリの【固有錬成】を無効化する術を持っているのか?」
「まだそっちの方が信じれるな」
「ねぇ、ちょっと! 無視しないでくれる?!」
などと、マリがまた話を脱線させそうになったが、ミルとムムンによるコンビネーションでそれを防ぐことができた。
「まぁいい。その件は保留だ。それとは別に、まだ言っていないことがあるだろう? マリ」
ムムンがそう言って、ナエドコの心情を解読することをやめて、再びマリへ問い質した。
それに対し、マリが首肯する。
「ナエドコさんは......彼の中には、魔族の核がある」
「「「......。」」」
マリの静かな言葉に、再度、沈黙がこの場を支配する。
驚く者は居ない。半ば予想していたことだ。
その後押しとなったのは、件の人造魔族。他者の核を他者の肉体に入れるという禁忌が、人間の肉体にも同様なことをされたと考えれば、無理も無い話だ。
原理は不明。そもそも同一の話とは限らない。
しかし、事実、マリが先の戦闘で、鈴木の肉体に魔族の核が取り込まれたことを確認している。
無論、本人はそのことを他者に打ち明けていないはずだ。公に言いふらす理由などデメリットしか存在しない。
そしてその場に居たマリに知られても、鈴木は許容している。
おそらくそこには、マリが自身の命の恩人だから、という一種の信頼があるのかもしれない。
そう考えれば、マリのこの事実の吐露は、鈴木に対する裏切りに等しいだろう。
それでもマリは、<
そのことに、マリは罪悪感で胸が苦しくなった。
(大丈夫。嫌われるのは、恨まれるのは......慣れているから)
そう彼女は心の中で自身に言い聞かせた。
「であれば、複数の【固有錬成】を持っているのも頷ける」
「ああ。一般的に【固有錬成】は核に宿るらしいからな」
「......。」
「シバ?」
ムムンとミルの会話に、独り浮かない顔をするシバが居た。
それに構わず、シバはいつになく真剣な顔つきで言った。
「私が知っている限り、ナエドコの所有している【固有錬成】は5つ。全回復できるスキルと、鉄鎖を生み出すスキル、高速移動......いや、膂力が跳ね上がるスキル」
シバは続けた。
「そしてマリから聞いた。猛毒を撒き散らすスキルと、転移できるスキル......後半2つは判明している。猛毒は<屍龍>から。転移は――<4th>から」
シバが言葉をそう切ると、一同は絶句した。
ミルは険しい顔つきになり、マリも渋い顔を作ってしまっている。ムムンは――なにやら疲れ切った表情となっていた。
鈴木が猛毒を撒き散らせるのはシバの言う通り<屍龍>から得た力だ。
が、転移は違う。
マリが目にした鈴木の転移能力は、後出しによるもので、<4th>がスキルを使ったと同時に発動したのは考察に難しくないことだ。
それ故に、勘違いする。
<4th>と同じく、瞬時に死角へと転移できた鈴木にも、<4th>と全く同じの【固有錬成】が使えるのだと。
戦闘中にその力が覚醒したのだと。
しかし効果は同じでも、発動条件や制限は<4th>のものとは別物だ。
それもそのはず、鈴木の転移は、トノサマミノタウロスから得た力なのだから、<4th>は全く関係が無い。
「もしかしたら......ナエドコが複数の【固有錬成】を使えるのは、なにも“核”をトリガーにしているわけではないのかもな」
「ん。最初から転移スキルを駆使して、<4th>とやり合えばいい」
「そうしなかったのは、“できなかった”ってこと?」
「その線が濃いな」
「その仮説が正しければ――」
そう言いかけて、シバは続けた。
「ナエドコは、戦闘中、何らかの手段で対象から【固有錬成】を模倣することができる」
そう、間違った見解で結論づけるのであった。
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