第222話 お城へ帰宅
「失礼しま〜す」
現在、帝国城に帰還した僕とマリさんは、とある客間の扉の前に居た。
僕らの落下地点<
マリさんはノックをした後、おそらく室内に居るであろう人物から、入室の許可を得ること無く部屋の中に入った。
中には、<
相も変わらず薄緑色のロン毛イケメンで、生理的に受け付けそうにない僕であった。
「ただいま戻りました」
「マリ! 無事だったか!」
「ナエドコさんのおかげでね〜」
「さすがナエドコ」
ミルさん、シバさんは僕らの帰還に快く応じてくれたが、ムムンという人は表情を一切変えていない。
いや、マリさんに対してじゃないな。僕だけだ。僕だけに、その嫌そうな顔つきを向けている。
なので、僕は煽った。
「とりあえず、言われた通り、ムムンさんが倒せなかった<4th>を倒してきましたよ」
「......。」
緑ロン毛の眉間に皺が作られた。
なんだ、言い返す気もないのか。大人だな。かッー、ぺッ。
『かッー。男のくせにロン毛たぁキモいなぁ、おい』
『あなた、その発言は差別ですよ。ここが地球じゃなくてよかったですね』
『んだよ。姉者はあんなのがいいのかよ』
『いえ、全く。ロン毛は受け付けません』
などと、魔族姉妹が好き勝手言っているが、僕は無視した。
「で、この後、僕は他に何かした方がいいことあります?」
一応、闇組織の本拠地を襲撃して壊滅させてきたんだ。
事後報告とかしなきゃいけないと思ったので、そう聞いてみた。
僕の問いに答えてくれたのはミルさんだ。
「いや、それには及ばない。私とシバでたった今終えたところだ」
「なるほど」
「ナエドコはもう休んでていいよ」
「マリも〜」
「マリは駄目だ。<
「差別!! もう疲れたんだけど!! 明日でいいでしょ?!」
「駄目」
マリさん、今日何度も死にかけたのに......。
やはり国のトップに立つ人間は違うな。絶対、身分とか上げないでいよ。ずっと平民が一番だ。
シバさんからのお気遣いもいただいたので、僕は素直に応じることにした。
適当に挨拶してから、僕は踵を返す。
その時だ。
「あ、あの!」
マリさんが一際大きい声を出して、部屋を後にしようとする僕を呼び止めた。
「『『?』』」
僕が振り返ると、マリさんは急に僕の手を両手で握ってきた。
顔を真っ赤にして。
無論、僕の手のひらに寄生している魔族姉妹は、即座に各々の口を消している。
「きょ、今日は本当にありがと!!」
どうやらお礼を言いたかったらしい。かなり赤面しているので、照れているのが丸わかりだ。
一応、依頼された仕事だし、気にしなくていいのにね。
そんな彼女に、僕は笑みを浮かべて答えた。
「こちらこそ。マリさんは僕の命の恩人です。何かあったら、いつでも言ってくださいね」
「っ?!」
ぼしゅん。何かが爆発したような湯気が、マリさんの頭から吹き出した気がした。
き、気のせいだろう。よくわからないけど、傷を癒やすためにポーションを飲んでから、彼女の様子はどこかおかしい。
ポーションって副作用あんのかな。
変に余所余所しいというか、なんというか......。
早く身体を休めてほしいと思うばかりである。
「ご苦労。帰っていいぞ」
すると、緑ロン毛が僕らの方へ、そんなことを言いながら歩んできた。
なんか殺気がダダ漏れなんですけど。
「ほら、何をしている。用は済んだろう? 早く殿下の下へ向かったらどうだ、Dランク冒険者」
お? お? 煽られてる? 僕、煽り返されてる?
『苗床さん、喧嘩売られてますよ? 黙ってていいんですか?』
『買うぞ! てか、買え!! クソロン毛潰すぞ!』
魔族姉妹もいつになく喧嘩越しだ。
やれやれ。疲れてるから、すぐにでも休みたいところなんだけど仕方ない。
生理的に受け付けないイケメンに喧嘩を売られたんだ。
ここで買わなきゃ、僕の異世界ライフに不満が混じってしまう。
そう思って、僕が緑ロン毛の方へ振り向いたら、
「ちょっとムムン。横からなに?」
マリさんがいつの間にか、緑ロン毛の腹部に手を当てていた。
握っていた僕の手をいつ放したのだろうか。
彼女は先程の赤面さがまるで嘘のように冷ややかなものになっていて、鋭い目つきをしていた。
言うまでもなく、彼女がムムンさんに手を当てているということは、【固有錬成:犠牲愛】をいつでも発動できるわけだ。
そのスキルが発動してしまえば、一定時間、彼女の傀儡と化すのは、ムムンとしても例外じゃないのだろう。
緑ロン毛は舌打ちしてから踵を返した。
「じゃあね〜、ナエドコさん」
「あ、はい」
そしてマリさんはころっと表情を変えて、媚びるような甘い声で言いながら、僕に手を振ってきた。
退室後、僕はぼそりと呟く。
「女の人って怖いね」
『今更気づいたか』
『気をつけてくださいね』
などと、僕ら三人の会話をきっかけに、闇組織襲撃作戦は終わりを迎え、また皇女さんの護衛役に復帰するのであった。
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