第221話 帝国軍の片鱗

 「<財宝の巣窟トレジャー>......ここが、あの......」


 『ぱっと見、ダンジョンって感じしねぇーな』


 『ダンジョンと言っても、色々とありますからね』


 魔族姉妹の感想を他所に、僕はダンジョンと言われても全然想像できない光景を目の当たりにしていた。


 僕の感想も妹者さんと似たようなものだ。元居た世界でも見たことのある鉱山に近い。


 ここで働いている人も、僕らが居る場所が場所だからか、あまり多く居るようには見えない。


 帝国に来た当初は、国民の大半がここで採掘してたと聞いていたので、活発にその産業が行われていると思っていたのだが、王国との開戦前だからか、やけに静かだ。


 「さてと、あまりゆっくりしてられないし、お城に戻ろっか」


 と、あっちこっち眺めていた僕に、マリさんが声を掛けてきた。


 彼女は<四法騎士フォーナイツ>のエンブレムが描かれた軽装備の鎧に身を包んでいるのだが、先の闇組織の拠点襲撃作戦でかなりボロボロである。


 傷こそ癒えているようだが、それでも全快とは言えないのが目に見えてわかった。


 そんな彼女が痛々しかったので、僕はつい聞いてしまう。


 「歩けます? 肩を貸しますが」


 「っ?! い、いい! 大丈夫だから! マリに近寄らなくていいから!」


 「あ、はい」


 なんでだろ、今の一言で僕のガラスのハートにヒビが入った気がする。


 別に好きじゃないけど、女性に近寄らなくていいとか言われたらショック以外のなにものでもない。


 そんな状態の僕に追い打ちでもかけるかのように、マリさんは僕の後ろをついてきているのだが、すんすん、すんすん、と自身の腕やら服を忙しく嗅いでいる様子が視界の端に映った。


 アレか。さっき着地するまで僕と密着してたから、臭いが移ったかもと気にしているのか。


 かなり激しい戦闘をやったのは事実だ。汗はもちろんのこと、僕は血だって尋常くらい流してたし、生臭いに違いない。


 自分の体臭って気づきにくいと聞いたことあるけど、できれば僕が見えないところでやってほしかった。


 「すんすん......に、臭ってないよね、マリ」


 「ぐす」


 『ナエドコさん、あなた、おそらく勘違いしてますよ』


 『なんか良い感じに勘違いしてくれたな』


 何が勘違いなのだろうか。


 僕はとぼとぼと重い足取りに鞭を打つのであった。



*****



 「な、なんですか、あの鉄の塊......」


 『おおー!』


 『これはまた......圧巻ですね』


 僕らは眼前に広がる重圧感溢れる巨大な機械に感極まっていた。


 帝都に戻る道中、だだっ広い敷地に丸みを帯びた屋根が特徴の施設......格納庫のようなものがあったので、興味本位でマリさんに寄ってみていいか尋ねると、難なく許可してくれた。


 無論、マリさんはこの国のトップである<四法騎士フォーナイツ>の一人。現場の管理者っぽい人に顔パスで入室の許可を得ていた。


 どっからどう見ても兵器だ。戦車のような形状だが、戦車たらしめる砲台は空洞になっておらず、先端が円錐状になった物が取り付けられている見た目である。おそらくそこがポイントだろう。


 またキャタピラーというこの世界にはあるのかと驚く技術も見受けられた。


 そんな黒光りする重機が何台も並べられていた。


 控えめに言って、男心が擽られる光景である。


 「<特級殲滅兵器:ミリオン・レイ>。王国との戦争で使う兵器だよ」


 やはり兵器だったらしい。僕はこの巨大兵器について知識のありそうなマリさんに聞いた。


 「どんな攻撃をするんです?」


 「あまり詳細は知らないけど、一発撃つと、あの砲弾が落下するまで空中で分裂を繰り返して、【雷電魔法:雷槍】の雨が降るらしい」


 うわ、なにそれ。地獄じゃん。


 マリさんが示すのはあの円錐状の先端だ。


 アレがやっぱり砲弾......形状はミサイルみたいだけど、おっかないことこの上ないな。


 「......ナエドコさんは、戦争が始まったらどうするの?」


 と、マリさんが僕に対してそんなことを聞いていた。


 以前、皇女さんにも似たようなことを聞かれたな。


 皇女さんにはこの戦争を止めることに全力で協力すると言ったしな。もし戦争が始まっちゃったらどうしよ。


 帝国のお姫さんを連れて逃亡? いや、帝国が負けるとは決まってないし、下手に城から連れ出したら危険か。


 うーん、あんま現実的じゃないけど、一応、打つ手が無いわけじゃない。


 けど、その内容を<四法騎士フォーナイツ>のマリさんに伝えるのもなぁ。


 適当に答えとくか。


 「できれば逃げたいですね」


 「マリたちと戦ってくれないの?」


 「僕は帝国の人間じゃありませんから」


 「......殿下に雇われただけだもんね」


 僕のその言葉に、マリさんはどこか暗い表情で、それでいて納得した顔つきになっていた。


 そして冗談めかして、苦笑しながら彼女は言った。


 「ならマリが今ここで、ナエドコさんをマリの【固有錬成】で魅了しちゃおっかな〜」


 などと、とんでもないことを言ってきたが、もちろん、彼女にはそんな気は無いと信じているので、僕は触れられないよう、距離をあけることはしなかった。

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