第216話 得られなかった戦果
「『『ハァハァ......』』」
「い、生きてる......」
「たす、かったぞ、シバ」
「さすがに死ぬかと思った」
結論から言うと、僕らは無事に逃げ切れた。
覚醒状態のヘラクレアスが【固有錬成:牙槍】という防御不可避なスキルを付与して放った【天啓魔法:断罪光】の雨から、命からがら逃げ出すことに成功したのである。
マジでシバさんのおかげだ。僕らはただただ彼に運ばれていただけになる。
そんな僕らは戦場となった山の二つ隣の山へ避難していた。
「それにしても......もう拠点なくない?」
「「「......。」」」
マリさんがとある方向を見ながら呟いた一言に、僕らは何も言えなかった。
なんせ僕らが逃げ出してきた場所......闇組織の拠点は付近の地形ごと消え去っていたのだから。
『まぁ、【天啓魔法:断罪光】の雨なんか降ったらそうなるわな』
『腐っても蛮魔ということですね』
魔族姉妹がなんとなしでそう言った。
蛮魔ヘラクレアス。後で二人に聞いたけど、生前のヘラクレアスはああやって【断罪光】などの魔法による遠距離攻撃を得意とし、相手が逃げられない防御不可避の範囲攻撃をするのが戦法らしい。
予め言ってくれたら警戒できたんだけど、そもそも肉体がヘラクレアスなだけであって、中身は別の魔族だから、そんな戦法取るとは思えなかったとのこと。
それにあそこは闇組織の本拠地。商品となるものが山程あって、主人であるオムパウレもまたあの場に居たのだから――
「あ」
僕は間の抜けた声を漏らす。
その声に、皆が僕の方を見てきた。
「オムパウレ! あの場に残してきちゃいましたよ!」
そう、今回の襲撃作戦の目的は大きく分けて二つある。
一つは戦力の確保。奴隷所有者たちから、その権限を奪って、王国との戦争に利用するとのこと。
もう一つは闇組織の主要人物を殺害すること。特に名前が上がったのは<4th>とオムパウレ。<4th>は僕が灰にするまで焼却したからいいとして、問題はオムパウレの方だ。
マリさんが【固有錬成】で操ってから、オムパウレは放置されたまんまだった。
「そうだな。死体を確認したいところだが......」
僕の言葉に返答してくれたのはミルさんである。
戦闘ではあまり苦戦を見せなかった彼だが、先の【断罪光】の雨で気疲れしてしまったみたいだ。
「......さすがに死んだんじゃない?」
「「「......。」」」
ミルさんの続く言葉を代弁したのは、マリさんである。
彼女もまた傷こそポーションによって癒やされているが、精神的にダメージが蓄積されていた様子で、立っているのがやっとという感じだ。
僕らは本拠地があった場所を眺めた。
そこは確かに山を人が開発したような場所で、面積的には申し分なかったのは言うまでもない。また地下にも奴隷を収容しておく空間がったので、その全貌は決して外からじゃ計れないものであった。
が、今となっては、【断罪光】の雨で跡形もない。
何を思って、あの範囲攻撃を行ったのか定かじゃないが、僕らが奪いに来た奴隷諸共破壊しつくされたので、今回の作戦のうち一つは失敗に終わることになる。
「......とりあえず、戻ろ?」
シバさんが普段の調子でそう言って、僕らを再びあの場へ運んでくれた。
*****
「これは......酷いな」
「あの人造魔族......蛮魔だっけ? たった一体でここまでやれるものなの?」
「私なら不可能じゃない」
「なに競い合ってんですか」
若干一名、外見美少女の美男子が先の人造魔族と張り合おうとしたので、思わずツッコミを入れてしまう僕である。
【断罪光】の雨が一頻り降った後、再びその地に戻ってきた僕らは、その惨状に唖然としていた。
今は夜間帯ということもあって、月明かりを頼りに周辺を調査する予定でやってきた。
本拠地はほぼ瓦礫すら残らず消し飛ばされている。地下施設があったから、【断罪光】の雨の後は本拠地があった場所は大きな大穴と化していた。
それを成したヘラクレアスがどこにいるかと探してみれば、奴の上半身だけが見つかった。
死体である。いや、元から死体みたいなもんだったけど。
少し前まで奴の身体に宿っていた紫檀色の輝きも今は失われており、生々しい肉塊が転がっていたのだ。
半ば予想はしてたけど、あの範囲攻撃は自身諸共対象にして撃ったのだろう。
「人造魔族は死んだか......」
「だね」
「死体はほっとこ。それいよりも、もう少し辺りを調査しなきゃ」
と、<
この惨状じゃ、大して手がかりなんて見つかりそうもないのは明白なんだけどな。
『おい、鈴木』
「?」
すると妹者さんから声を掛けられたので、僕は<
『ヘラクレアスの核を回収しとけ』
「え゛」
『正確には、ヘラクレアスの【固有錬成】が宿った別の核、ですが......まぁ、【牙槍】がまだその核に残っているかもしれません』
マジすか。例のアレですか。他者の核を体内に入れて、その核に宿った【固有錬成】を得るというアレですか。
僕は乗り気じゃない視線で、死体となったヘラクレアスの上半身を見やった。
その胸の中央には核がある。無傷というか、無事っじゃ無事だ。
この核を飲み込まなきゃいけないのか......。砕いて喉が通るようにしても、その破片が刺さるからなぁ。
でもトノサマゴブリン、ドラゴンゾンビ、トノサマミノタウロスと、彼らの【固有錬成】を活用できているのは事実だ。
使えるかどうかは賭けだけど、【牙槍】が使えたらさらなるパワーアップに繋がるのは明白である。
「はぁ......仕方ない」
僕はそう呟いて、<
大きさは僕の拳よりも二回りほど大きい。死体から剥ぎ取ったようなものなので、黒い血がべっとりである。
「......これ、いつ飲み込めばいい?」
こんな地味に大きいもの、<
そう思って、魔族姉妹に聞いてみたのだが、
『トイレ行ってくるとか言って、そこで砕いて飲み込めばいいんじゃね?』
『ですね。さっそく取り込んじゃいましょ』
「え、ええー」
い、今からそれやるの......。
が、これを収納できるものは持ち合わせていないので、僕は二人の言うことに従うことにした。
なので、少し先を歩いている<
「すみませーん。ちょっとトイレ行ってきまーす」
「おう」
「もう敵は居ないと思うけど、気をつけてね」
「......。」
僕の申し出に、ミルさんは快く返事をしてくれたが、如何せん距離が少しあるせいか、シバさんとマリさんの声が聞き取りづらかっった。
マリさんに至っては何も言ってすらいない気がするけど、まぁ、男がトイレするんだ。ノーコメなんだろう。
「この辺でいいかな」
僕は【断罪光】の雨の後の惨状地帯から抜け出して、岩の裏などに移動した。
そして即座に姉者さんが【紅焔魔法:
威力を抑えたからか、これまでの戦闘時で多用してきた【打炎鎚】からじゃ想像もできな小規模な爆発が起こる。
と同時に、ヘラクレアスから取り出した核はあっさりと砕かれた。
結構な破片の量である。
『苗床さん、一気です。男を見せてください』
などと、姉者さんがここぞとばかりに煽ってきたので、僕は言われるまでもなく、それらの破片を両手で掬って、一気に口の中に入れ込んだ。
これが飴玉だったら時間を掛けて、口内で溶かしていけたんだけどなぁ。まぁ、妹者さんが怪我しても即治してくれるから、痛みは一瞬で済むんだけど。
僕は口の中で起こる激痛に絶え、数回に分けて飲み込んだ――その時だった。
「『『っ?!』』」
僕の足元から赤、青、紫色からなる幾重にも重ねられた魔法陣が浮かび上がった。
何事かと魔族姉妹と慌てていたら、この魔法陣に見覚えがあることに気づく。
あ、これ、【転移魔――。
と、思ってたところで、僕の視界は暗転した。
――――――――――――――――
次回から新章になります。
また可読性を向上させるため、改行を加えます。
引き続きよろしくお願い致します。
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