第212話 敵の怒りと僕の怒り
「殺す!!」
突如、<4th>の姿が消えた。
それを合図に僕も姿を消す。
前者は【転移】を、後者は【対象の死角へ移動】へ移動を。
僕は<4th>がスキルを使用しないと、ほぼ発動できないので、どう足掻いたって後出しになってしまう。
というのも、それは僕が離れた位置に居る相手の瞬きなんかを意識して見ていられないからだ。
故に<4th>の転移を合図に、僕もスキルを発動して、
「後ろ、がら空き!!」
「っ?!」
僕は<4th>の死角――背後へ移り、奴の背に手にしている炎の剣を斬りつけようとした。
「うるせぇ!!」
が、またも<4th>が転移して、僕から離れる。
「【固有錬成:縮地失跡】」
そして僕も離れた奴の背後へ移動する。
連続使用は自分だけだと思ったのか、<4th>は驚愕の色を顔に浮かべるのを目にした。
「っ?!」
再度、転移する<4th>に、またも僕も【縮地失跡】を使用して後を追う。
完全に鼬ごっこだ。
「ちッ!」
先に痺れを切らしたのは<4th>である。
舌打ちと共に、転移した矢先、振り返って僕が移動したタイミングで短剣を振ってきた。
が、僕はそれを【紅焔魔法:閃焼刃】で受け切る。
僕の方が攻撃の重みはあったらしく、そのまま<4th>を力で押し切ると、奴はその勢いを利用してバックステップしていった。
「マジでうぜぇなぁ!!」
『これ、もうあいつの転移スキル封じれたんじゃね?』
『ですね。何度転移しても、私たちが消えたら攻撃が当たりませんので』
姉者さんの言う通り、<4th>は転移を駆使しての攻撃ができなくなっていた。
圧倒的に僕らの方が有利である。
特にそれを示すことができるのは、僕が傷を負う必要が無いということ。
それ即ち、
「妹者さん」
『おう。済ませたぜ』
妹者さんの【固有錬成】が、攻め手として使えることだ。
そしてまた――<4th>が消えた。
「またか」
僕が呆れて、【縮地失跡】を再使用とすると、それよりも早く、<4th>の姿があるところに現れたことにより、その行動を止めてしまった。
その先は――
「ヘラクレアス!!」
蛮魔の人造魔族、ヘラクレアスだ。
奴は未だに、漆黒の鉄鎖で四肢を縛られているけど、覚醒状態なのは変わりない。
<4th>はそんなヘラクレアスを転移させて、縛られている状態を解放しようとしてるんだ。
ここに来てヘラクレアスの相手もするのは厳しいぞ。
が、もう遅い。
<4th>は再び余裕を取り戻したかのように、ヘラクレアスに触れた。
そして、
「......は?」
間の抜けた声を漏らした。
<4th>はヘラクレアスに触れても転移していなかった。
今まで転移できたものが、急に転移させることができなくなった。その事実に、理解が追いついていない様子である。
その光景に僕は戸惑う。
『落ち着きなさい。あの男はヘラクレアスを転移させられません』
「え?」
彼女のそんな落ち着いた言葉に同意したのは、妹者さんだ。
『鈴木、あの黒い鉄鎖、なんだかわかっか?』
そう言われて、僕はあのヘラクレアスに巻き付いている鉄鎖に注目した。
......なんだ、あの鉄鎖。いつも姉者さんが吐き出している鉄鎖とは違って、光沢の無い真っ黒な鉄鎖だぞ。
「なにアレ」
訳がわからず、そのまま口に漏らすと、姉者さんが誇らしげに言った。
『アレは全盛期の私が使っていた【固有錬成】です。今のと比較すると、進化した【固有錬成】と言えばいいでしょうか』
「し、進化?」
え、ちょ、ここに来て、とんでもない初耳が生じたんだけど。
『まぁ、詳しい話はまた今度。しばらくは大丈夫だと思いますが、アレに縛られた時点で、ヘラクレアスは移動することができません』
「......転移も?」
『ええ。【固有錬成:
ぐ、ぐれいぷにる?
ああもう、後で聞くことにしよう。
それよりも、
「おいッ! どうなってやがる!! 何をしたぁあぁぁあ!!!」
<4th>の相手だ。
<4th>がヘラクレアスを転移させられなくて、僕に向かって怒鳴り声を上げていた。
「知らない」
「はぁぁぁあ?!!」
「それよりもさ、僕はこれからあんたを殺す訳だけど、もういいよね? 特に言い残すことはないよね?」
僕のその言葉に、<4th>はぽかんと口を開けて間抜け面を晒していた。
「お前が俺を殺す? はは......」
乾いた笑い声を漏らした奴は、ふるふると震え出した。
それが激怒から来るものだと、僕は察した。
「俺の背後を取れるのがそんなに嬉しいかぁぁぁあ!! このクソガ――」
「嬉しいよ」
瞬間、僕は<4th>の懐に飛び込んでいた。
奴との距離は十分にあった。
だから<4th>は、僕がこうもあっさりと目の前に現れるとは思ってもいなかったのだろう。
事実、あいつの視線は、僕が先程まで立っていた位置に向けられている。
こんな高速移動できたのは、言うまでもなく、妹者さんの【祝福調和】と僕の【力点昇華】が合わさったからである。
妹者さんは覚醒状態のヘラクレアスの膂力を僕に付与し、僕はその底上げされた膂力に、更に【力点昇華】を使用した。
故にかつて無い俊足移動となり、<4th>が反応することはできなかった。
低姿勢のまま接近した僕は、下段に【閃焼刃】を構え、そのまま下から斜めに、<4th>を斬った。
「......は?」
<4th>の胸から鮮血が飛び散る――ことはない。即死するような両断もされていない。
【閃焼刃】によって、瞬時に傷が焼かれたからだ。
目が点になっている<4th>は、自身が斬られたことを、今になって気づく。
「ぐぁあぁぁぁああ!!」
そして<4th>は絶叫した。
胸を大きく斬り裂かれ、その痕跡がくっきりとわかるように焼き焦がされた痛みで絶叫した。
地面に倒れる<4th>を、僕はただただ見下ろしていた。
『あんなちっちぇー怪我したくらいで、何騒いでるんだ、こいつ』
『まぁ、常人なら無理もありませんが......』
魔族姉妹はまるで地を這う羽虫を見る目で<4th>を見下ろしていた。
羽虫は羽をもがれたのか、飛んで逃げることすらできない様子である。
“転移”という羽があるのに、それを使わないのが......いや、使えないのが滑稽である。
「転移で逃げないの?」
「っ?!」
僕のその言葉に、<4th>は叫ぶ声を止め、途端に歯を食いしばり始めた。
食いしばった奴の唇は、歯がこれでもかと肉に食い込んでいて、血が流れ落ちている。
『逃げられないんだろ。【固有錬成】っちゅーのは、条件や制限を満たして使えるのは一般常識だが、それを満たす前提条件として“集中する”必要がある』
『はい。しかし今のこの男は、激痛によってそれすらできない。痛みに慣れてない証拠です』
そう、僕も【力点昇華】を使えるようになってからわかったことだ。
【固有錬成】ってのは、使いたいって心の底から意識しなきゃ、そもそも発動しないんだ。
それが前提条件。それすらも今の<4th>は痛みでできない。
「くそがぁ。なんで......なん、でぇ......」
うつ伏せのまま、這って僕から離れようとする<4th>を、僕は視線だけで追っていた。
先程まで、瀕死だったのは僕の方だった。完全に立場は逆転した。
でも僕は......<4th>が憎いけど、嬲り殺す趣味は無い。
「これでお終いだ。......妹者さん」
『おう』
僕は妹者さんを呼んだ。
それだけで、彼女は僕がやろうとしていることをわかってくれたみたいだ。
以前、<
もうそんな不始末が起こらないよう、今回は念入りにやるよ。
「『【多重紅火魔法:閃焼紅蓮】』」
手にしていた【閃焼刃】から、【導火紅柱】をかけ合わせて、さらなる火力の塊を生み出す。
「なん、でぇ......俺が......俺がぁぁあ!!」
<4th>は今から自分に死が訪れることを悟ったのだろうか。嘆くように、同じ言葉を繰り返している。
僕は【閃焼紅蓮】を逆手に持ち、両手で強く握り締めた。
そして――直下の地面に突き刺す。
「<4th>、あんたの敗因はたった一つ」
倒れ伏す<4th>の地面に、奴を覆うような円形が発生した。
その色は徐々に赤みを増していき、熱を孕み、限界を迎えた瞬間に――噴火した。
「ぁぁぁああああぁああああ!!」
その灼熱の火柱に飲み込まれた<4th>は断末魔を上げるが、それも束の間のことで、すぐに灰と化して共に消えていった。
そんな跡形もなく消え去った<4th>に、僕は告げる。
「女の子を泣かせたことだ」
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