第202話 ヘラクレアスの【固有錬成】

 「『【多重凍血魔法:螺旋一角】!!』」


 僕と姉者さんが発動した多重魔法により、ヘラクレアスの巨体を飲み込むほどの氷塊が、まるで巨大ドリルのように、突き出した左手から放たれた。


 その巨大ドリルは一直線にヘラクレアスを目指し、着弾する。


 ヘラクレアスは手にしていた大剣でこれを防ごうとするが、残念、僕らの【螺旋一角】は貫通力に特化した魔法だ。


 切断力に特化した【抜熱鎖】とは訳が違う。


 『っ?!』


 目も口も無い人造魔族だが、【螺旋一角】の威力に驚いたのか、盾にした大剣では防ぎ切れず、再び遥か後方へ吹っ飛ばされる。


 さすが【多重凍血魔法】というべきか、通常の魔法よりも圧倒的に火力は高く、ヘラクレアスを壁へ叩きつけた直後、一気に周囲を氷漬けにした。


 僕らの目的は元々、<4th>とヘラクレアスの相手をすることだ。


 オムパウレはマリさんに任せる。


 「ナエドコさん、マジでナイス!」


 マリさんは後方に居る僕に向けて親指を立てながら、ショートソードを片手に、オムパウレへと距離を縮めていった。


 そして、


 「マジで面倒だな、てめぇ!!」

 「っ?!」


 背後から<4th>の声がした。


 接近を許してしまった僕は、首に<4th>の短剣を刺されてしまう。


 僕が抵抗する前に、奴は僕の首に差し込んだ短剣を横薙ぎに振り、僕の頭を身体から切り飛ばした。


 「はッ。断頭されたらさすがに死んだろ」


 <4th>がにやりと不敵な笑みを溢した。


 死ぬ間際、頭が宙を舞う中、目まぐるしく回転する視界に、僕は分離された身体を目にする。


 僕の首無しの身体は――


 『【冷血魔法:氷棘】』

 『【紅焔魔法:閃焼刃】!!』


 両手からそれぞれ氷属性、火属性の魔法を繰り出していた。


 「はぁ?!」


 <4th>が死体と化したであろう僕の身体から、魔法が放たれたことに驚愕する。


 右手が突き出した【閃焼刃】はあと一歩のところで届かなかったが、地面から突き出た【氷棘】は奴の右肩を貫いた。


 それでも<4th>はこれ以上被弾しないようにと、瞬時に転移して僕から距離を取る。


 それから妹者さんが【固有錬成:祝福調和】を発動して、地面に落下する僕の頭を回収してくれた。


 どうやら今の攻撃は<滞留>の能力を使わなかったみたい。僕の頭を切り飛ばせば終わりだと驕ったのだろう。


 傷一つ無く回復してみせた僕を前に、<4th>は出血する自身の右肩を抑えた。


 「いい加減死ねや......」

 「嫌です」


 ヘラクレアスが復帰する前に、どうにかして<4th>を倒したいところだが、どう出たものかと考えていると、何かが砕ける音がした。


 僕らは音のする方へ振り向いた。


 「『『え゛』』」


 僕と魔族姉妹は思わずそんな間の抜けた声を漏らす。


 僕らの視線の先――氷漬けされたヘラクレアスが、自身に纏わりつく氷塊を砕きながら前進していた。


 ちょ、【多重凍血魔法】だよ?! もう復帰できるの?!


 あ、でも無傷ではないみたい。多少、怪我した様子が見受けられる。でももう動けるってどういうこと......。


 そんな僕の驚きは、ヘラクレアスが手にしている武器で更に増していった。


 ヘラクレアスの手に握られているのは先程の大剣ではない。


 弓だ。


 あの巨体を遥かに超える大きさの、何か巨大な獣の双角から作られた弓のような物を手にしている。


 「弓?」

 『『っ?!』』


 魔族姉妹が最大限の警戒をしたことで、僕も意識を切り替える。


 ヘラクレアスはそっと弓を構えた。その弓に矢は無い。が、ヘラクレアスが構えを取ったと同時に、淡い光が収束していった。


 「っ!! 【冷血魔法:氷壁】!!」

 『ばッ!! 避け――』


 ギュン。


 何か光線のようなものが、【氷壁】をあっさりと貫いて、僕を通り過ぎていった。


 そして自身の胸の中央から、ぼたぼたと血が流れ落ちるのを目にする。一気に逆流してきた血の塊を、僕は口から吐き出した。


 「がはッ」

 『苗床さん!』

 『【祝福調和】!!』


 すぐさま妹者さんが治してくれたが、僕は痛みよりも先に疑問を覚えた。


 【氷壁】があんなにもあっさり貫かれるなんて......。


 僕が困惑していると、魔族姉妹が静かに答えた。


 『あの攻撃はヘラクレアスの【固有錬成】です』

 『【固有錬成:牙槍】......たしか防御無視の効果を付与するスキルだ』


 そんな妹者さんの一言に、僕はある種の絶望感を抱いた。

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