第201話 善戦のように見えて苦戦?
「ひゅ〜。格好つけるねぇ」
「ひゅーひゅー」
「『『......。』』」
<4th>、オムパウレが余裕そうに僕を馬鹿にしている。
現在、僕らは<4th>、ヘラクレアスと戦っているんだけど、状況は芳しくない。
ヘラクレアスは僕の重たい一撃を食らったからか、まだ戦いに復帰できていないけど、<4th>だけで手一杯なこの状況じゃ、ジリ貧もいいところだ。
「マリさん、すみませんが、自衛だけでもお願いします。最悪、奴らは僕を最優先で殺しにきているみたいなので、ここから離れるのも有りです」
「え? あ......うん、わかった」
できればマリさんにはこの場から離脱してほしい。
当初は僕と分断したら<4th>に狙われる危険性があったけど、相手も馬鹿じゃない。
少し頼りないけど、今のマリさんは動ける。彼女の魅了の【固有錬成】のことを考えれば、迂闊に近接戦に持ち込めないはずだ。
マリさんが<4th>に触れれば“魅了”が発動し、逆に<4th>がマリさんに触れたら“強制転移”が発動する。
近接戦が互角に近しいなら、<4th>にはリスクしかない。
それに今日は<4th>を僕に釘付けする秘密兵器がある。
僕がそんなことを考えていると、マリさんが僕の横に立った。
......え、何してるの?
「あの、マリさん?」
「マリも一緒に戦う。これでも<
あ、さいですか......。
正直、マリさんはあまり戦闘面では頼りにできないから、ここから離れてくれると彼女の存在を気にせず【泥毒】とか【抜熱鎖】を多用できて戦法が広がるんだけど......。
まぁ、二人で頑張るしか無いか。
「ナエドコさん、一つお願いがあるんだけど......」
「?」
するとマリさんが視線を敵に向けたまま、真剣な面持ちでそう言ってきた。
僕は彼女に続きを促す。
「少しの間、<4th>の相手をしてて。マリはあのハゲデブの相手をしたいの。......おそらく人造魔族もマリの邪魔をしてくるから、そっちの相手もお願いしたい」
「......。」
マリさんがあそこで余裕そうに観戦しているオムパウレを?
まぁ、当初の予定では、闇組織の親玉の首を狙っていたから、彼女の頼み事はなんら不思議ではない。
にしても、あんな何するか不明で胡散臭い野郎の相手をたった一人でするなんて......。
無論、僕も<4th>とヘラクレアスを同時に相手して、どこまでやれるか、時間が稼げるかはわからない。
僕が押し黙っていると、魔族姉妹から賛成の声が上がった。
『まぁ、このままあの不気味な野郎が大人しくしている保障はねぇーしな』
『ええ。彼女を人柱にして情報を集めましょう』
「......。」
魔族姉妹は相変わらず他人に厳しいな。
『鈴木、作戦は?』
『サポートしますよ』
どのみちやるしか無いんだ。
そう思って、僕はマリさんや敵の存在を気にせず魔族姉妹に語りかける。
「<4th>が持ってるあの短剣......二人はどう見てる?」
『斬撃を残してんのは、“振った場所”にだな』
『より具体的に言えば、空を斬れば“空中”に留まり、動くものを斬れば“それに付与される”ような感じです』
「同感。斬撃を残せる回数は?」
『わっかんね』
『あの男が先程、転移した回数分振るったのであれば、この空間には最大で九回分斬撃があります。もちろんブラフ分は抜きで』
「......斬撃を残せる時間は?」
『『不明』』
「わかった。......ヘラクレアスの弱点は?」
『ねぇー。強いて言えば、近接戦を得意とする敵じゃねぇーから、距離はあけんな』
『
「りょ。ならこうしよう」
僕が二人にだけ聞こえるよう作戦を伝え終えると、隣に居るマリさんにも、こちらのお願いを伝えておく。
彼女はそんな僕を不思議そうに見つめていたが、わかった、とだけ返事をしてくれた。
またオムパウレもさっきのマリさんと似たような表情で、首を傾げて僕を見ている。
<4th>はというと、
「なーにブツブツ言ってんだよ。キメぇな、おい。来ねぇなら......こっちから行くぜ?」
転移して仕掛けてきた。
僕は合図する。
「マリさん!!」
「任せた!!」
マリさんが駆け出したと同時に、僕の死角からバスケットボールほどの大きさの岩石が無数に飛んでくる。<4th>の魔法だ。
それを全て姉者さんが【氷壁】をもって防ぎ切る。
そして定石と言わんばかりに、僕の背後へ転移してきた。
「【紅焔魔法】――」
だから奴の短剣が届くその至近距離にて――僕も狙う。
<4th>の――死角を!
「【螺旋火槍】」
「っ?!」
静かに唱えた魔法が、僕の腹部を貫いて、背後に居る<4th>へと襲いかかる。
ジュッ。高火力の螺旋状の火の槍が、呆気なく僕を貫いて、奴を穿とうとした。
意外なことに、自分で自分の腹を貫いたことに痛みはそれほどない。すぐに治るって思い込みもあるし、アドレナリンがドバドバ分密していることも、その要因なのだろう。
しかし<4th>はそれを既の所で気づいたのか、身を捩って回避する。
体勢を崩した<4th>に、僕は【固有錬成:力点昇華】込みの回し蹴りを決めようとするが、これも転移によって回避された。
それと同時に僕は叫ぶ。
「マリさん!」
回し蹴りの反動を活かし、僕は回転しながら抜刀のかまえを取る。
「二人とも合わせて!」
『姉者ッ!!』
『うぷッ』
妹者さんが右手で握れるほどの長さで、姉者さんが鉄鎖を口から吐き出した。
それを右手が掴むと、僕は右腕に力を込めて、再度、【力点昇華】を発動する。
「『【烈火魔法:
高温に熱せられた鉄鎖が、姉者さんの口から抜刀のように吐き出されて、綺麗な弧を描きながら切断を始めた。
石造りの壁から切断していき、障害物を障害と感じさせない斬れ味は、まさに熱したナイフをバターに差し込んでいる滑らかさだ。
その切断に巻き込まれないよう、マリさんに合図をしたら、彼女は身を地面スレスレまで低くして回避してくれた。
「ひッ?!」
が、やはり後ろから敵への攻撃とは言え、頭上スレスレで攻撃が通り過ぎていく様は怖かったらしい。
それでも振り返らずに回避してくれたのは、ある種の信頼があっての行為ではなかろうか。
こちらの期待に応えてくれた彼女に感謝する。
そしてそんな【抜熱鎖】は彼女を過ぎていき、周りを切断しながらある者を狙った。
――オムパウレだ。
「およよ」
戯けた様子で迫りくる【抜熱鎖】に驚くが、その表情からは余裕の色が消えていない。
なんせ――
「ヘラちゃ〜ん」
『......。』
オムパウレの目の前に、人造魔族ヘラクレアスが飛んでやって来たからだ。
ヘラクレアスの巨体は、僕がさっき与えたダメージが微塵も残っていないほど無傷である。
そんな奴が主人を守るため、僕が抜き放った【抜熱鎖】に立ち向かう。
そしてヘラクレアスの手には、先程まで持っていなかった大剣があった。
『......。』
『ちぃ! かってぇーなぁーおい!!』
ガキンッ。切断力に特化した【抜熱鎖】が、ヘラクレスが振り払った大剣によってあっさりと防がれる。
妹者さんがそのことに苛立ちを覚えるが、んなもん想定済みだ。
あの不気味なオムパウレを容易く倒せるとは思っていない。
目的は人造魔族に防がせること。
つまり、再び僕の射程圏内に誘き寄せるためだ。
「姉者さん! 速攻!!」
『合わせます!』
姉者さんが既に構築を始めていた魔法陣の展開を、僕が加速させるべく手伝った。
左手に薄浅葱色の魔法陣を構築させながら前へ突き出す。
そして唱えた。
「『【多重凍血魔法:螺旋一角】!!』」
直後、まるで巨大ドリルのような鋭利な氷塊が、ヘラクレアス目掛けて高速に回転しながら螺旋状にぶっ放された。
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