第197話 魔法具<滞留>

 「お前に復讐するって決めたんだぜ? 対策しないわけねぇだろぉ! ばぁぁあか!!」

 「『『......。』』」

 「なによそれ......」


 ウザい発言をする<4th>に、僕と魔族姉妹は沈黙し、マリさんは驚いていた。


 現在、僕らは闇組織<黒き王冠ブラック・クラウン>の本拠地にて、<4th>と戦っていた。


 転移の【固有錬成】を使う<4th>に対し、序盤は善戦できていたと思っていた僕だけど、奴が使う魔法具<滞留>とかいう短剣のせいで苦戦を強いられている。


 <滞留>......その能力は未だ不明だらけだけど、はっきりと言えることは、短剣が斬りつけた場所に、斬撃が残るという能力である。


 正直、不可視だし、マジでこの空間のどこに<滞留>によって斬撃が残っているのかわからない。


 またそれは僕の左肩に負った傷もそうである。


 奴によって左肩を斬りつけられた僕は、斬撃が肩に残ったままのため、妹者さんの【固有錬成】によって全回復ができていない。今も血がドクドクと流れている。


 『苗床さん、私の鉄鎖を傷口に当ててみてください』

 「?」

 『いいから早く』


 が、僕の戸惑いを他所に、姉者さんが口から鉄鎖を吐き出して、患部にそれを巻き付けろと指示を出してくる。


 僕はそれに大人しく従うことにした。


 「あ? てめぇ、どっから鎖なんか......」


 <4th>が何か言っているが無視して、僕は肩に鉄鎖を巻き付けた。


 「「「『っ?!』」」」


 すると左肩から鮮血が飛び散った。今まで何か栓のような物によって塞がれていた傷口から血が吹き出たのだ。


 この場に居合わせた全員が驚く。


 いや、姉者さんだけはその反応は例外だった。


 『やはり所詮は魔法具。妹者、苗床さんの傷口を治してあげてください』

 『っ?! そういうことかッ! おうよ!』


 僕は何が何だかわからないが、妹者さんが【固有錬成】を発動して、僕の傷口を瞬く間に完治していった。


 ど、どういうこと?


 そんな僕の疑問に答えてくれたのは、姉者さんだ。


 『簡単な話ですよ。魔法具とは使です。魔法であるならば魔力を要します。そして魔力は私の鉄鎖で吸収できます』


 そうか! 魔法具の能力も結局は魔法だから鉄鎖で魔力を吸収できるのか!


 そういえば以前も魔法で作成した氷に、鉄鎖を当てて魔力を吸収してたっけ。なるほど、それなら<滞留>によって斬撃が残っていても、魔力を吸収しちゃえば消えちゃうわけだ。


 だからさっき、実際に残った斬撃の魔力を鉄鎖で吸収して消えたことで、傷口から一気に血が吹き出たのか。


 治ったから、もう左肩に突き刺さっている違和感も無い。


 「でも......」

 『ええ。鉄鎖で吸収できると言っても、結局のところ、それは後手です。全回復はできますが、それまでにワンテンポ遅れるので注意が必要ですね』


 そう。今までは妹者さんのスキルで速攻で回復してたけど、今回は姉者さんの鉄鎖で斬撃を吸収してから行わないといけないので、どうしても次の行動が遅れてしまう。


 それを察しているのは僕だけじゃなく、<4th>もだった。


 「ははッ。傷口を塞がらせないようにと思ったが......そんな甘くねぇってか......マジで面倒くせぇ野郎だな」


 <4th>はそう言って、油断なく僕を見据える。


 短剣をかまえ、転移の【固有錬成】を使用するタイミングを見計らっているみたいだ。


 対する僕も同様にかまえる。


 武器はさっき妹者さんが生成した【紅焔魔法:双炎刃】がある。それとは別に、僕を中心に多方向に向けて深紅色と浅葱色の魔法陣が複数展開された。


 「行くぜ」


 <4th>が短くそう呟いて姿を消す。


 狙うは僕の死角か。


 そう思って僕は意識を視界の外へ向けるが、


 『鈴木ッ! 正面だッ!』

 「っ?!」


 まさかの真正面に奴は転移してきた。


 目の前とは言え、転移して急接近してきた<4th>に対し、僕は後ろへ飛び退けようとするが、またも奴の短剣が振るわれる方が早い。


 しかし僕に迫る短剣の切っ先を弾く金属同士がぶつかるような甲高い音が響いた。


 『しゃおらぁ!』


 妹者さんである。


 右手にある【双炎刃】で敵の剣先を逸した。


 が、体勢が崩れた相手は即転移して僕の背後を取る。


 僕は依然として重心が後ろに傾いたままで、立て直すことができていない。


 またも<4th>が持つ魔法具<滞留>によって残る斬撃を食らうかと思いきや、


 「【雷電魔法:雷槍】!!」

 「「っ?!」」


 僕の後方、<4th>よりも後方の位置から、雷属性の槍が飛来してきた。


 <4th>はその存在に気づき、またも転移して僕の背後から姿を消す。


 そしてその雷の槍は僕の背中を貫いた。


 「あばばばば!!」

 「あ」


 全身に激痛の電撃が走る。


 しかしそれは一瞬のことで、すぐさま雷の槍は貫いた僕の身体から消え去った。


 『「あばばばば!!」って! あひゃひゃひゃ!! 腹いてぇー! あひゃひゃひゃ!!』

 『ちょ、ふふ。戦闘、ちゅ、ふふ、ですから』


 魔族姉妹が今しがたの僕の反応を見て笑う。彼女らも電撃食らったのに、全然大したことない様子だ。だから面白がっているのである。


 僕は身体から若干の湯気を立たせながら、後方に居る人物をジト目で見やった。


 その人は申し訳無さそうな顔つきで謝る。


 「......。」

 「ご、ごめんなさい。さっきの攻防見てて、ナエドコさんが死なない体質っていうのを思い出したので、二人とも殺す勢いで放っちゃった」


 死なない体質って......。


 まぁ、あれくらいの攻撃なら余裕だけどさ......。躊躇無さすぎて新手の敵かと思ったわ。


 僕はマリさんを一瞥した後、<4th>を見やった。


 「チッ。そういえば、そこに痛い女が居たな」

 「痛くないし!!」


 <4th>の悪態に、マリさんが反論する。


 まぁ、桃色の髪で露出多めな甲冑を纏ってたら、痛い女って見られてもおかしくないよね。


 僕からしたらギャルって感じで特に違和感無いけど。


 僕はそんな彼女に聞いてみた。


 「マリさん、協力してくれますか?」

 「協力するしかないでしょ。ここで別れてマリが狙われたら、一人で対処しきれないもん」


 ああ、たしかに。


 マリさんを先に行かせても、転移し放題の<4th>相手じゃ意味が無い。僕をそっち退けでマリさんを狙われたら堪ったもんじゃないしな。


 「<四法騎士フォーナイツ>の一人だろ? <陽炎の化身:マリ>。自身に触れた者を魅了する【固有錬成】持ちってのは知ってんぜ?」

 「げ。マリのスキル知られてる」


 マリさんの反応に、<4th>は「そういう組織に属してっからな」と得意げに笑う。


 そして短剣を軽く投げ、パシッと手に取った瞬間、姿を消した。


 「まずはお前からだな!!」


 視界の外。後方から奴の声が聞こえて僕が振り返ると、マリさんの真横、死角に現れた<4th>が短剣をマリさんに突きつけようとした。


 「まずッ!」


 一足遅れて僕が二人に近づくが、間に合わない。


 魔族姉妹も同様に対応が間に合わない。


 焦る僕は、<4th>が余裕の笑みを浮かべながら、短剣をマリさんの脇腹に突き刺そうとしていた。


 が、


 「っ?!」


 カキン。


 甲高い音と共に、<4th>の顔から余裕の色が消え去って、代わりに驚愕の色がそれを塗り潰した。


 マリさんが腰に携えていた剣を引き抜いて、<4th>の短剣を受け流したのだ。


 「あれれ〜? マリのこと調べてたのに知らないんですか〜」


 マリさんは続けた。


 「マリ、騎士で〜す。い・ち・お・う」

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