第196話 予想外は連続で
『【紅焔魔法:爆散砲】!!』
右手が即座に詠唱を唱え、目の前で余裕の笑みを浮かべている<4th>に向けてその魔法を放つ。
凄まじい勢いで放たれた火炎放射は、轟音と共に僕の視界いっぱいに焼却していく。
現在、僕と<
僕が魔法を発動すると同時に、視界の外から奴の声が聞こえた。
「んな大振り、当たるかよ!!」
<4th>が僕の右隣、死角から人の頭ほどある大きさの巨石の弾丸を放ってきた。
前方に居た<4th>が一瞬にして僕の死角を取ったのは、言うまでもなく、あいつの【固有錬成】による瞬間移動だ。
僕は予測していたと言わんばかりに反応して、ノールックで左手を奴が居る右側に差し伸ばす。
『【凍結魔法:氷牙】』
僕の足元から氷の牙が突き出て、迫りくる巨石の弾丸ごと<4th>を飲み込まんと襲いかかった。
奴の即席の魔法を相殺じゃない。こっちの方が圧倒的に火力は上だ。
それ故に、<4th>はまたも自身の【固有錬成】で転移する。
前方は視界を埋め尽くすほどの火炎放射。
右側は氷の牙。
なら転移するとしたら僕の後方か頭上、もしくは左側か。
後方の確率は低い。
なぜなら僕の後ろには、<陽炎の化身:マリ>さんが控えている。
僕を後ろから襲うなら、急接近して確実に攻撃を与えないといけないはず。距離を取ると右側のときのように、僕に反応されるので意味を無くすからだ。
しかしそうなると必然的に僕らの位置は、僕、<4th>、マリさんの順に並び、<4th>は今度、マリさんからの攻撃を食らうリスクがある。
頭上もほぼ同じ理由だ。
先にマリさんを倒すという線もありえるが、その選択は僕にも攻撃の一手を許すことになる。
狡猾で慎重な奴はいきなりそんな手段を取らない。
だから次の転移先は――
「【固有錬成:力点昇華】!!」
――左側だ。
僕は左足を対象に【固有錬成】を使用し、ヤクザ蹴りのように放つ。
その先に<4th>が現れた。
距離もドンピシャ。遠すぎない位置に転移してきた奴を、僕は捉える。
「うおぉぁぁぁああ!!」
「っ?!」
【力点昇華】によって膂力が跳ね上がった僕の蹴りは、奴の腹部目掛けて伸びる。
そして<4th>に炸裂した。
奴は勢いよく吹っ飛び、壁に背を強く打ち付け、その衝撃で崩れた壁に埋もれた。
「『『お、おおー』』」
「す、すご......」
僕らはその光景に思わず、感嘆の声を漏らしてしまった。
開幕早々、まさかのクリティカルヒットである。
もっとこう、苦戦を強いられると思ったが......こういうこともあるんだな。
『【力点昇華】が乗った蹴りを食らったら死ぬんじゃね?』
『その可能性はありますね。あの男は転移系スキルが厄介ってだけで、本人自体は大したことない印象です』
「禿同。こんなあっさり終わるとか、ちょっと拍子抜けだよ」
「?」
魔族姉妹の会話に口を挟んでしまった僕は、近くにマリさんが居ることを思い出して、二人との会話をやめる。
独り言とか不自然だし、気をつけないと。
「ねぇ、ナエドコさん、もしかしてもう終わり?」
するとマリさんが、苦笑しながら僕にそう聞いてきたので、僕も乾いた笑みを浮かべて言った。
「かも?」
「“かも”じゃねぇぇぇえええ!!」
崩れた瓦礫の山から男の怒声が響く。
<4th>だ。
頑丈さは人並みかと思いきや、まさかの【力点昇華】込みの僕の蹴りを受けて生きていたとは。
すると次の瞬間、僕の目の前に<4th>が現れ、僕の首元に短剣を突きつけようとしていた。
僕はこれを避けようとするが、判断が遅れて奴が突き出した短剣が左肩に刺さった。
『【紅焔魔法:双炎刃】ッ!』
回復よりも先に、相手との距離を活かして、妹者さんが【双炎刃】を生成し、<4th>と同じ刃渡りの炎の短剣を奴に突きつけた。
が、如何せん僕が避けようと、後ろに体重を傾けていたからか、その先が奴に当たることはない。
<4th>はその隙に、即座に転移する。
僕より約三十メートル程離れた位置に転移した<4th>は、先の僕の攻撃で無傷ではなかったが、それでも十分に動けるくらいには元気だった。
<4th>は僕に蹴られた腹部を擦りながら僕を睨んだ。
「ったく。いってぇーなぁ、おい」
「......。」
<4th>は口端に血を流しているが、どこか余裕そうだ。
思ったより頑丈な奴であったことに驚いた僕だけど......
「妹者さん」
『......。』
僕は妹者さんを呼んだ。
しかし彼女から返事は無い。
今も尚、僕の左肩からは血がドクドクと流れ続けている。
いつもなら妹者さんがすぐに【固有錬成:祝福調和】でどんな怪我も治してくれる。
が、それが今はどうだろう。
僕の傷は一向に塞がらず、怪我したままだ。
妹者さんが【固有錬成】を発動させない理由は無い。
否、“発動した”のではない―――“発動しても治らなかった”のだ。
『......鈴木、あの野郎が持っている短剣』
「うん。たぶんだけど、アレに刺された箇所、治せないんでしょ?」
『ああ、悪りぃ』
妹者さんが謝ることではないのに、彼女が声を低くして謝ってきた。
血は止めどなく左肩から流れ落ち、僕の足元に血溜まりを作る。
そんな光景を前に、同じく状況を察した姉者さんが口を開いた。
『あの短剣、魔法具ですね。もかしたら、私たちにとってかなり厄介なものかもしれません』
<4th>が僕の目の前に現れて転移した際、奴は短剣ごと一緒に転移した。
それ故に僕の左肩に突き刺さった短剣も<4th>と一緒に消えた訳で、まだ僕の左肩には短剣が刺さったままの感覚が残っている。
違和感だ。
刃は突き刺さっていないのに、刺さったままのようなこの感覚が違和感として残っていた。
でも左手の感覚はまだある。鈍いけど、腕もちゃんと動く。
ああでも......マジで痛い。
今にも泣き出したい気持ちでいっぱいの僕は、<4th>を睨みつけた。
奴は僕の心情を察して、憎たらしい笑みを浮かべる。
「おいおい、ナエドコさんよぉ。前みたいに傷を治したらどうだ? ええ? やらねぇのか? いや、できねぇんだよなぁ!!」
「......。」
<4th>は馬鹿笑いしながら、自身が手にしている短剣を僕に見せびらかした。
「この短剣はただの短剣じゃねぇ。魔法具<滞留>。この短剣のスキルを発動すると一定時間、斬撃がその場に残る......もちろんお前の肩にも斬撃は残ったまんまだ」
そして<4th>は続けた。
「お前に復讐するって決めたんだぜ? 対策しないわけねぇだろぉ! ばぁぁあか!!」
マジうぜぇ。
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