第195話 ちっとも嬉しくない再会
「じゃ、自害しといて」
「ふぁふぃッ!」
現在、僕らは地上一階のちょっとした大広間に辿り着き、着々と奴隷所有者からその権限を奪っていった。
今もマリさんが【固有錬成】使って所有権を剥奪し、用済みとなった敵に自害を命令している。
これで十八人目。道中、四人くらい固まってたときは焦ったけど、無事に全員無力化して所有権を奪うことができた。
慣れてきたってのもあるが、今のところ問題無しである。
それにそろそろ、これだけ所有権を奪っては殺してを繰り返してきたんだ。
誰かが異常事態に気づいて騒ぎ始める頃合いだろう。
「そろそろ頃合いかな? 一旦、ミルたちと合流するか、親玉を直接狙うか――」
と、僕と同じ考えだったマリさんがそう言いかけた、その時だ。
「後者はお勧めしねぇなぁ。<
「「『『っ?!』』」」
後ろから声を掛けられて、僕らは振り返る。
そこには髪をオールバックにした筋肉質な体躯の男が居た。革ジャンを愛用しているのか、僕がそいつと対峙したときは常に同じ服装だった。
そんな男は自身の顎髭を擦りながら、ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべている。
――<4th>。
<
「よぉ、ナエドコ。まさかお前から会いに来てくれとはなぁ!」
見れば男の耳は両方とも健在だ。
たしか以前、レベッカの攻撃によって、片耳を弾き飛ばされたはずだけど......まぁここは異世界だし、何が起こってもおかしくない。
僕は平静を装って、背負ってきた荷物を下ろした後、貴族っぽい仕草で上品にお辞儀した。
「お久しぶりです、雑魚野郎さん。耳が生えたみたいで良かったですね。まだ痛みますか?(笑)」
******
「ここはあらかた潰せたな」
「ん。大漁」
鈴木がリチャードと遭遇した頃、ミルは両手をぱんぱんと叩いて、一息吐いていた。
鈴木たちサブ組とは違い、メイン組の二人は派手に動いていたからか、早くも戦闘開始。
その後、闇組織の戦闘員と奴隷所有者を次々と打ちのめしていった。前者には死を、後者には奴隷所有権の譲渡を強要し、従わなければ意識を刈り取って縛り上げ、マリとの合流を待つことにした。
そんな無力化された組織の連中は全員、シバのスキルによって一箇所に固められて宙へ浮いている。
その数、三十名を下らない。
また戦闘の際に、ミルとシバの二人と戦わされた奴隷たちは全て無力化されて気を失っている。王国との戦争に向けて蓄えたい戦力だ。皆殺しにしたら、ここへ乗り込んできた意味が無い。
無論、奴隷の中には人造魔族も居たが、それでも二人の敵ではなかった。
ミルとシバが歩を進めると、やがて大広間へ辿り着いた。
ここは地下一階。奴隷たちを収容する階層である。それなのに、檻も無く、ただ壁に灯りが点在するだけの大広間は、些か不気味さを漂わせていた。
「なんだここは」
「わからない。でもよく見ると、そこら中に床や壁に黒いシミがある。たぶん血が乾いたやつ」
シバにそう言われ、ミルも辺りを見渡して気づいた。たしかにここは何か生々しさを感じる空間である。臭いも少し生臭い。
そんな空間で、
「ここは“査定部屋”だよ。採ってきたモノが
「「......。」」
気配も無く、一人の中年男が部屋の奥からやってきた。
男は丸型のサングラスをし、いかにも不信感を抱かせるような身形であった。纏う毛皮のコートは黒く、その中に着る衣服も黒い。
そんな男は小太りで、コツコツと歩く度に革靴の硬い底が床を打ち付けて音を立てるのと同時に、出た腹をたゆんたゆんと揺らしていた。
両手の五指それぞれには光り輝く装飾品があり、その容姿から富裕層に位置する者だとひと目でわかる。
「やぁやぁ。はじめましてだね。<
男の丸型のサングラスから覗き込む視線は、まるで暗闇から見つめてくるような不快感を兼ね備えていた。
「オムパウレ......だな」
ミルのその言葉に、小太りの男――オムパウレはにたりと笑った。
オムパウレは勢いよく両手を広げ、高らかに言う。
「今宵、僕ちゃんはかの名高き<
高揚した様子のオムパウレを他所に、シバが淡々と告げた。
「何言っているのかよくわからないけど、死んでいいよ」
シバが右手を前に差し出し、自身の【固有錬成】によって生み出した風の槍をオムパウレへ飛ばした。
風の槍は突き進むごとに威力を纏い、一直線にオムパウレを射抜こうとした。
その時だ。
「ヘルちゃん」
オムパウレのその小さな呟きに応じ、何者かがオムパウレとシバたちの間に割って入ってきた。
そしてオムパウレを射抜こうとしていた風の槍をその身で受け止める。
乱入してきた者は全身白い肌の人型人造魔族で、<巨岩の化身>のミルと比較して遜色ない筋骨隆々さである。
胸の中央に紫檀色の宝玉が埋め込まれており、そこから肢体各部の先に向けて一本の太い線が描かれていた。
またその者に目や口といった生物にとって基本的に備わっている器官は存在していない。辛うじて鼻のような造形があり、凹凸部分から“頭”という認識ができるくらいだ。
『......。』
乱入者はシバの攻撃、風の槍を受けても傷ひとつ負っていない。
その事実を前に、ミルとシバは目を細めた。
「......新手か」
「......みたい」
二人はそう呟き、臨戦態勢に入る。
ミルは大剣を構え、その剣先を乱入者に向けた。
シバは自身の【固有錬成】により、風を纏いながら宙へ浮く。
そんな二人を前に、オムパウレは乱入者を紹介する。
「ヘラちゃん......かつて滅びかけたとある大国をたった一人で護りきった男――<半神半人:ヘラクレアス>。さてさて、君たちはヘラちゃんに勝てるかな〜?」
今、<
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