第191話 闇組織襲撃作戦、開始
「緊張はしていなさそうだな」
「え?」
<
現在、僕らは帝国城内のとある部屋へ向かっていた。
僕とミルさんだけじゃない。美少女みたいな容姿のシバさんや美少女のマリさんも一緒である。僕以外の三人は<
今からこのメンツでとある部屋へ行き、そこで闇組織の本拠地へ襲撃するための転移を行うらしい。
その移動中に、ミルという屈強な大男が僕にそう話しかけてきたのだ。
「今から戦地へ向かって死ぬかもしれないのだぞ? なぜ顔色一つ変えない」
「あ、ああ。まぁ、はい、なんとなくですかね」
見た目からして寡黙な人かと思ったけど、何が気に障ったのか、僕に対してそんなことを聞いてくるもんなので、適当に返答することにした。
すると先方は、どこか納得のいかないといった顔つきで続けた。
「奇妙な奴だ。お前のその“目”は“死を覚悟した者がする目”だ。なのに、野望や信念を感じない。やる気のなささえ感じる」
「さいですか......」
『なんだこいつ』
『さぁ?』
魔族姉妹も若干困惑してる。
僕の目、そんなに変なのかな。
死を覚悟した者がする目って言われても......。そりゃあ死んでも別にいいかなって思えるくらいには、僕の命は軽いよ。大体の場合で生き返るし。
もちろん、魔族姉妹と運命共同体みたいな僕の身体だから、雑には扱えない。ちゃんと意味ある死なら、僕は何度だって繰り返すつもりだ。
「それになんだ、そのバッグパック」
「え?」
「お前が背負っているそれのことだ」
そう言って、ミルさんは僕が背負っているバックパックをバンバンと叩いた。
そう、僕は今回の作戦において、とある秘密兵器を用意してきたんだ。
バックパックはそれほど重くない。戦闘時には多少動きにくくなるけど、そこまで機動力が落ちる程でもない大きさである。
「ああ、この中には対<4th>用の秘密兵器が入っているんです」
「なッ?! 対<4th>のか!!」
ミルさんが鋭い目つきをくわっと広げて僕を見てきた。
良いリアクションしてくれて嬉しいけど、ちょっと怖い。
「それはどのような――」
「ひ、秘密兵器だから内緒です」
「そ、そうか......。まぁ、冒険者は手の内を明かさない連中ばかりだからな。これ以上は聞くまい」
僕がそう返すと、ミルさんはこれ以上聞いてくるつもりはないらしい。
別に危険物ではないので、そこら辺は安心してほしい。僕はそれだけ彼に伝えようとしたが、話を広げられても困るので、言うのを止めた。
「でもなんだか肩透かしを食らった気分かな〜。マリと同じくらいの年齢って聞いてたけど、なんか冴えない男って感じ。それに弱そう」
すると今度は桃色の髪の少女、マリさんが自身の髪の端をくるくると弄りながら、そんなことをぼやいていた。
僕より数歩先を歩く彼女は、がっかりした様子である。
失礼なことを言うな、この人。
僕がそんなことを考えていると、僕の隣を歩いているシバさんが親指をグッと立てて口を開いた。
「ナエドコは冴えないけど、すごく強い」
“冴えない”部分を否定してほしかった。
『こいつら、ここでぶっ殺そーかな。あーしの鈴木を馬鹿にしやがって』
『やめなさい。冴えないところは事実なんですから、否定したらそれこそナエドコさんに失礼です』
失礼なのは姉者さんもね。
っていうか、魔族姉妹はもう普通に話しているな。
さっきまでだんまりだったけど、もう<
そうこうして僕らがやってきたとある部屋は、この城の地下にある一室だ。螺旋階段をしばらく下りていって辿り着いた場所である。
等間隔に壁に掛けられている灯りが、今までの道のりを照らしてくれているのだが、一寸先が暗すぎて、今来た道のりを戻れるか不安になってしまう。
「着いたよ」
マリさんが鉄製の扉のドアノブに手を掛け、ギギギと軋ませながら開けた。
そこには――
「あ、あぅ」
「っ?!」
何も無い部屋に、一人の男が椅子に縛られていた。
灯りが一つだけ壁に掛けられているけど、それ以外は何も無いので、こんなところに長時間も閉じ込められてたら精神的にキツいと思う。
ちなみに地下だからって、雰囲気的に拷問部屋みたいな気がしてたけど、それらしい器具は見当たらない。
そんな部屋の中で、なにやら薄汚い容姿の男が、縛られた椅子の上で言葉にもならない声を漏らしていた。
うっすらと灯りに照らされているその男は、瞳に生気を感じさせない。
マジで精神的に逝ってる感じだ。
「うっへぇ。くっさぁ」
椅子に縛られた男を前に、マリさんは鼻を摘んで嫌そうな顔をした。
彼女に言われて気づく。その男は服の上から糞尿を撒き散らしていたので、刺激臭がすごいのなんの。
まぁ縛られてたから、そうだろうけど......。
でも食うもの食っていないからか、その撒き散らした排泄物もほぼ水気を失っていて、石造りの床にシミだけを作った感じだ。
「マリ、今からこの男に触らないといけないの〜」
「マリ」
「......マジ最悪」
マリさんは嫌そうな顔しつつも、中年騎士のミルさんに催促されたので、駄々をこねることなく、悪態を吐きながら男に近づいていった。
話の内容から、どうやらマリさんが今からこの男に触るらしい。
なにするんだろ。
僕がそんな疑問を抱いていると、不意にシバさんが声を上げた。
「マリは触れた相手を魅了する【固有錬成】を持っている」
たった一言だが、非常にわかりやすくて助かる。
なるほど、発動条件の一つは対象に触れる必要があるのか。覚えておこ。
やがてマリさんはその男の肩辺りを、人差し指でちょんと突いた。
そして一瞬で引き下がる。
「マジで触っちゃったぁ」
「はぁ......マリ」
「もううるさいな! 大丈夫だって! 上手く発動しているから!」
再度、ミルさんが呆れ顔で彼女の名前を呼ぶと、マリさんは指をパチンと鳴らした。
その途端、
「マリ様ぁぁぁあ!!」
「『『ひっ?!』』」
男が叫びだした。
僕と魔族姉妹は思わず驚いて変な声を出してしまった。
な、なに、どうしちゃったの、この人。これがマリさんの魅了する【固有錬成】の力?
驚いているのは僕らだけで、<
「じゃ、【合鍵】を使って本拠地に繋げて」
マリさんがそう言うと、男は自身を縛っている縄を力尽くでブチブチと引き裂いて、扉へ近づいていった。
「フー! フー!」
そして荒い息を吐きながら、僕らが入ってきた出入口の扉のドアノブに手をかける。
すると次の瞬間、男の腕が淡い青色の光を放ち始めた。
マリさんも言っていたが、【合鍵】を使用すれば、どこに居たって闇組織の拠点へ行くことができる。
それも今回使用する【合鍵】は、本拠地に繋がるもの。
あの小汚い男の腕に、本拠地に繋がる【合鍵】が施されていたということだ。
やがて扉は、僕らがこの部屋に入ったときと同じく、ギギギと錆びついた音を立てながら開かれた。
その扉の先、景色がガラリと変わる。
「さ。早く仕事終わらせて帰ってこよ」
マリさんの陽気な掛け声とともに、今――襲撃作戦が始まった。
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