第177話 お姫様は丁重に扱うべき?

ども、おてんと です。


長らくお待たせしました。ごめんなさい。

体調回復しましたので連載再開です。



―――――――――――――――――――



 「そう......。バートたちはレベッカを守り抜いたのね。褒めてあげたいところだけど、主を他所に勝手な真似をしたことを叱りたいわ」


 皇女さんが苦笑交じりにそんなことを言う。


 無論、叱りたいなんて本心じゃない。彼女の内心ではよくやったと褒めていることだろう。それが皇女さんの優しい面であると僕は知っている。


 現在、僕は先の襲撃で重傷を負った女執事のバートさん、護衛騎士のオリバーさんの二名が取った行動を、皇女さんに報告していた。


 今居る場所はクリファさんの別荘までの道中だ。屋敷から出発して、数分経った頃合いである。


 メンツは僕と皇女さんの他に、クリファさんとロティアさんの親子、エルフっ子、シバさんの六名だ。


 レベッカさんは相変わらず魔法で作られた氷の棺の中で眠っている。姉者さんによれば一時的に生命活動を停止できるとのことだけど、こうも長く氷の中に閉じ込めておくのは心配だ。


 そんなレベッカさんは後程、従者の方が丁重に、僕らが向かっているクリファさんの別荘へ運んでくれるのでここには居ない。


 「それにしても、まさか<四法騎士フォーナイツ>が動くとは......事態は思ったよりも複雑のようですな」


 話題を切り替えるべく、そう口にしたのは案内も兼ねて僕らの先を歩いているクリファさんだ。


 彼も先の襲撃で所々怪我をしたようだけど、どれも軽いものらしく、明日には完治していると豪快に笑っていた。彼が貴族なのを忘れてしまいそうである。


 クリファさんの言葉を受けて答えたのは、<四法騎士フォーナイツ>の一人であるシバさんだ。


 「話すと長い」


 無表情な彼は内心面倒くさがっているのではなかろうか。


 辺境伯の地位に居る貴族と<四法騎士フォーナイツ>のどちらが身分的に高いのかはわからないけど、基本年上を敬うといった文化はないのかな。


 僕を含め、ここに居る皆はシバさんに聞きたいことが山程あるのに、当の本人がその気じゃないというだけで、全然会話が成り立たない。


 皇女さんが命令すれば、きっと色々と話してくれるんだろうけど、それをしないということはそこまでじゃないと彼女が判断したからだろう。


 ならまだ到着まで時間かかりそうだし、雑談でもしよ。


 「シバさん」

 「?」


 「お城からここまで飛んできたんですか?」

 「ん。飛んだ方が早い」


 「空を飛べる魔法なんてあるんですね」

 「私のは魔法じゃなくて【固有錬成】」


 「え、シバさん【固有錬成】持ってるんですか?!」

 「ん。以前、浴場で一緒に居たときに話したよ。忘れた?」


 あれ、そうだっけ? たしかにそう言われるとそんな話してたかも。


 たしかあの時は僕が【固有錬成】を持っていることをシバさんに知られて、彼はだとかなんとか。“体質”でいいのかわからないけど。


 そう考えると、シバさんが【固有錬成】を持ってる時点で、彼がただの使用人ではないことを察するべきだったのかな。


 というか、個人で複数の【固有錬成】を持てるもんなの。


 いや、それにしても僕よりも三つ年下のシバさんは本当に騎士に見えない。今は騎士っぽい格好してるけどさ。


 『鈴木、ついでにこいつの【固有錬成】のこと聞いとけ』

 『素直に教えてくれればいいんですけど』


 僕は魔族姉妹の意見に内心で同意し、シバさんに聞くことにする。


 するとシバさんは特に迷うこともなく、涼し気な声で答えてくれた。


 「【固有錬成:北ノ風雲】。それが私のスキル。先の戦闘で見せたように、風を操ることができる」

 「『『......。』』」


 簡潔だったが、まさかこうもあっさりと教えてくれるとは思わなかったため、僕らは黙り込んでしまった。


 一周回って彼が嘘を吐いているのではないか、と思わせるくらい簡単に教えてくれたのに、感謝の念を抱けそうにない。


 マジ? 【固有錬成】の内容を教えるって、自身の弱点にも繋がる行為に近いよね。


 危機感が足らないというか、信頼されていると捉えるべきか、正直よくわからなかった。


 「ナエドコ?」

 「え、あ、いや、はは。ありがとうございます。そんな簡単に教えてくれるとは思ってなくて......」

 「教えても差し支えない」


 さいですか......。


 黙り込んだ僕を下から覗き込むように、シバさんが見上げてきた。その仕草に思わず可愛いと口走ってしまいそうで本当に危うい。


 とりあえず、せっかくだし掘り下げて聞いてみよ。


 「なるほど、風を操れるなんて強力なスキルですね。一般的に【固有錬成】というと発動条件を満たさないと使えないと思いますが、あの時のシバさんは何か発動条件を満たしていたんですか?」

 「......内緒」


 少しだけ間があったが、シバさんは自身の桃色の唇に人差し指を当てて、そう返答してきた。


 仕草がいちいち可愛いから勘弁してほしい。あなた男でしょ。僕がドキッとしたらどうするのさ。


 まぁ、それはさておき、発動条件は教えてくれないのか。当然っちゃ当然か。


 『まぁ、さすがにそこまで教えてくれねぇか』

 『ならこの子は以前、ナエドコさんとの会話で自身も複数の【固有錬成】を所有すると言っていました。他の【固有錬成】も聞いてみましょう』


 姉者さんの意見に賛成の僕は、一つ目の【固有錬成】に関してはこれ以上聞けそうにないので、別のスキルのことを聞くことにする。


 「ちなみに他の【固有錬成】は......」

 「......。」


 僕が「何ですか?」とはっきり言うこと無く、雰囲気でそう言ってみると、先方は無表情ながらも悩むようにして夜空を見上げた。


 「もう一つの【固有錬成】は言えない」

 「え、あ、はぁ。まぁ、普通はそうですよね」

 「ん。言っちゃ駄目って、ムムンに言われた」


 ムムンってあの全身緑色の騎士か。あの人が<四法騎士フォーナイツ>のリーダー的なポジションに居ると、皇女さんから教わったな。


 シバさんの表情は変化が少ないけど、今の話の内容的に僕に対して後ろめたさがあったらしく、若干視線を落として申し訳無さそうな表情になった。


 元々、聞ければ良かった程度の話なので、そこまで気にしていない。知りたいっちゃ知りたいけど、無理に聞くことじゃないのは確かだ。


 すると僕らの前を歩いていた皇女さんが、こちらをチラチラと振り返っていることに気づく。僕はそんな皇女さんに、どうしたのかと聞いてみた。


 「し、シバがパパ以外の人と話すなんて見たことないから......」


 え、シバさんってそんな感じなの? まぁ、無口って感じだよね。


 皇女さんとシバさんは年齢近いから、世間話程度くらいしてそうな印象だけど。


 「私もシバとあまり喋ったことないし......」

 「ん。声かけられても、興味ない人とはあまり話さない」

 「......。」


 おい、そこに居るの皇女だぞ。皇帝の一人娘だぞ。


 「また強くなったね、ナエドコ」


 そして皇女さんを無視して僕に近寄ってきたシバさんは、またも下から見上げるようにして僕の顔を覗き込んできた。


 エメラルドの瞳が本当に綺麗である。思わず僕も見入ってしまう。


 が、


 「マイケル!」

 「っ?!」


 突然、皇女さんが怒鳴りつけるように僕の名前を呼んだ。


 「私、疲れたわ! 背負ってちょうだい!!」

 「え、ええー」


 皇女さんはそう言って立ち止まり、ふんと鼻を鳴らしていた。


 こ、この状況で我儘を炸裂しないでほしいなぁ。僕だって疲れてるんだし......。


 『まぁまぁ。今まで傍に居たあの女執事や騎士、女傭兵が居ないんです。甘えたい気持ちを汲み取ってあげましょう』


 姉者さんはまるで昼ドラでも視るかのように、僕らのやり取りを楽しむ感じで言ってきた。


 一方の姉者さんは姉者さんと違って、面白くないと言わんばかりに不機嫌だ。


 僕は溜息を吐いてから回れ右をして、皇女さんに背を向けた後にしゃがんだ。


 その際、僕らの後ろを歩いていたエルフっ子と目が合う。


 「「......。」」


 すると彼女は僕から目を逸らすようにそっぽを向いた。


 エルフっ子、影薄いな......。ねぇ、君は自分よりも年上そうな皇女さんが我儘言う様を見てどんな気分?


 軽蔑の眼差しを向けてもいいと思うよ。


 「わかればいいのよ、わかれば。よいしょっと」


 しかし皇女さんはそんなエルフっ子にかまうことなく、僕の両肩に手をついて乗ろうとする。


 「............あれ? 皇女さん?」


 おかしい。体重を僕に預けようと、彼女は僕の背に乗ってくると思ったのだが、全然乗ってこない。


 彼女を呼んでも反応が無いので、どうしたものかと振り返ると、


 「「......。」」


 皇女さんがぷかぷかと宙に浮いていた。


 先の戦いで、登場したシバさんを思わせる浮き様である。


 虚ろな眼差しになった皇女さんが、視線を地面に落としたまま自身を浮かしている者の名前を呼ぶ。


 「......シバ」

 「姫様疲れてるんでしょ? なら私が運んであげる」


 「私はマイケルに頼んだのだけれど」

 「ナエドコも疲れてる。私は大して疲れてない」


 「だからってこんな運び方......」

 「人が背負うよりも揺れが無くて疲れないから理想的」

 「......。」


 皇女さんは黙り込んでしまった。


 斯くして、僕らはこのままクリファさんの別荘に向かうことになった。

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