第170話 狡猾な戦法
『ウキキ』
現在、マーギンス邸に襲撃してきた敵と対面している僕は、初めて目にする特徴の敵に警戒していた。
猿のような外見だけど、尻尾の先端は蛇の頭で、両腕が異常に大きく発達している。
「モンスター?」
『いえ、アレは猿蛇種という獣人族の一種です』
『......で言うまでもなく、人造魔族って奴だな』
“猿蛇種”? 読んで字の如くってか。
まぁ、妹者さんの言う通り、獣人族が一体でこんな場所に来ないよね。女執事さんのチョーカーの件でわかっていたとは言え、やはり闇組織の刺客か......。
妹者さんが目の前の敵が人造魔族と判断したが、僕からしたらモンスターと大差ない気がする。
ああでも、なんか毛皮のベストジャケット着ているし、生前は知性を兼ね備えていたのが垣間見える。
僕がそんなことを考えていると、猿蛇種の人造魔族が軽い足取りで小刻みにステップを始めた。
『ウキッ』
「?」
『なんだ?』
すると次の瞬間、敵はステップの最中に地面に沈んだ。
「『『っ?!』』」
は?! 消え――はぁ?!
どこに行ったのかと思って、辺りを見渡していると、気づいた姉者さんが即座に敵の位置を僕に知らせてくれる。
『苗床さんッ! 後ろです!!』
「っ?!」
僕は即座に振り返った。
視界の先、十メートルくらい離れた地面から頭だけをひょっこり出して、僕を見上げている猿野郎が居た。
まるで水面下へ沈んだと思いきや、今度は頭部だけを覗かせるように浮上してきた感じだ。
マジかッ?! もうあそこまで?!
っていうか、呆気なく後ろを取られてしまった!!
「やばッ! あのまま皇女さんのところに――」
『鈴木ッ!!』
僕の言葉を遮って、妹者さんの荒々しい声が響く。
今度は何事かと思ってると――ドスッ――何かが僕の胸の真ん中を貫いた。
胸部から突き出たそれは、先端から土属性魔法でできた鋭い槍だと知る。
僕は口から血を吐いた。激しい痛みと同時に生まれる動揺。この刺さり具合......後ろから?
そう思って再び振り返ると、姿を消した筈の猿野郎が居た。
なんで後ろに?幻覚?いや、こうして攻撃を食らったんだ。分身体と見るべきか?
そして、
「っ?!」
『んなッ?!』
妹者さんが僕の傷を治そうと【固有錬成】を行使しようとするが、それよりも早く僕の両足に、胸に突き刺さったのと同じ魔法の槍が刺さっていた。
立つことができず、僕は地に膝を着けてしまう。
それでも妹者さんが再び僕にスキルを使おうとするが、敵の攻撃が続け様に僕へと降りかかる。
が、
『【凍結魔法:
姉者さんが左手の支配権を駆使して、生成した氷の刃でそれらの攻撃を払い除けた。
『妹者ッ!』
『わかってる!』
姉者さんは言われるまでもなく、瞬時に僕を全回復させた。
別に心臓や頭を狙われた訳ではないため、僕は意識を保ったまま回復したことを確認してから即座に行動を開始した。
「【固有錬成:力点昇華】ッ!」
まずは背後に居た猿野郎からだ。
僕はトノサマゴブリンから奪った【固有錬成】を駆使して、地面から浮上した猿野郎との距離を一気に縮めた。
そして姉者さんが先程生成してくれた【鮮氷刃】で、碌に防御もできなかった猿野郎の首を刎ねた。
まずは一体。姉者さんの【探知魔法】では一体だけと知らされていたけど、現れた猿野郎たちは外見が全くと言っていいほど同一だった。
やはり分身のような存在だったのかもしれない。
『【紅焔魔法:火球砲】!!』
僕が一体の首を刎ねたとほぼ同時に、妹者さんがもう一体の猿野郎に火球を放った。
ゴォッと燃え盛る音を響かせながら、火球が猿野郎を襲う。
『ウキキッ』
しかし奴は分厚い土の壁を生成してそれを防ぐ。
火球はそれで相殺されたのか、土の壁を壊すに止まり、猿野郎は五体満足であった。
『ウキャッ!』
「っ?!」
すると奴はまたも地面に潜り込んだ。
地面は硬いのに、奴の行動からは着水しか思わせない軽やかさがある。
『どこから来んだッ!!』
『駄目です。【探知魔法】では追えません』
「くそッ!」
まずい、このまま皇女さんのとこへ行かせたら元も子もないぞ。
僕は悪態を吐いた後、中々姿を見せない猿野郎を警戒したまま、皇女さんの下へ向かおうとした。
しかし、
「『『っ?!』』」
それを待っていたと言わんばかりに、猿野郎が僕の目の前に現れた。
その距離は一メートルにも満たない。奴の手にはカトラスのような湾曲した土気色の刃物があった。
不意を突かれた僕は手にしてた氷剣を猿野郎に向けるが、間に合うかどうかのところで、左腕の動きがピタリと止まる。
何事かと思って視線をそちらへやると、なんと地面からもう一体、別の猿野郎が出てきていて、そいつが僕の左腕を掴んで動きを止めていたのだ。
いや、地面から出てきたのは、この二体だけじゃない。
僕を囲むようにして、四方から一斉に武器を手にした猿野郎が現れた。
『『『『『ウキャキャ』』』』』
「マジかよ――」
首、右腕、左脇腹、両足――計四ヶ所による斬撃で、僕はいとも簡単に意識を刈り取られた。
*****
『ウキッ』
『ウキャキャ!』
『ウ、キィー』
意識を刈り取られた鈴木は成す術もなく、殺され続けていた。
猿蛇種の人造魔族の数は十二体。鈴木を殺してから、更に数を増やしたのである。今はその半分の数の人造魔族が鈴木を囲い、急所を狙って攻撃を続けていた。
妹者の【固有錬成】により、半ば不死身と言っても過言ではない鈴木には弱点があった。
それは今も尚行われている、続け様に意識を刈り取られることである。
『姉者! マジでやべぇぞ!!』
『......幸いにも、この程度の攻撃なら私たちの核は無傷です。隙を突くくらいしかできませんよ』
妹者は姉者にやり場のない怒りをぶつけるが、姉者は冷静にそれを返した。
現状、妹者が肉体を全回復させても、鈴木が覚醒してから行動に移るまでの時間が無防備な状態であり、猿蛇種の人造魔族の猛攻撃を許してしまう。
『つうかなんで鈴木の弱点を知ってんだ?!』
『この猿どもは闇組織お手製です。事前に聞かされて対処法でも練ってきたのでしょう。人造魔族というくらいには、相応の知性と従順性を兼ね備えているということです』
『んな冷静に分析してる場合かッ!』
『私たちが慌てたって何も変わりませんよ』
初見で鈴木の弱点を見抜いたのではない。闇組織から刺客を送り込まれたということは、十中八九、あの<4th>からの入れ知恵だろう。
だから猿蛇種の人造魔族は指示に従って鈴木が死んでも殺し続けている。
無論、打開策が皆無というわけではない。
魔族姉妹がそれぞれ魔法を行使すれば、この状況から脱出できる可能性がある。
が、それを許さないほど、多勢に無勢な攻撃が鈴木の肉体を八つ裂きにしていた。
現にこの状況に陥る前、姉者が【氷牙】を発動して、うち何体かの人造魔族を屠ったが、鈴木が覚醒してから行動に移るまでの間に攻撃を受けてしまっていた。
そこに妹者の攻撃が加わっても状況は変わらなかった。
大規模な魔法を行使するも、二人が魔法陣を展開した時点で、それを阻むように猛攻撃が繰り広げられる。
故にいくら魔法に長けた魔族姉妹と言えど、こうも増え続ける敵には手も足も出なかった。
『ウキャッ!』
そんな中、うち何体かがこの場を離れて行く。その向かう先は半壊したマーギンス邸の方であった。
『やべぇ! あのガキの方へ行っちまった!』
『......これ、任務失敗じゃないですかね』
などと、呑気なことを言う姉者であった。
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