第169話 ゴリ押しで納得してもらうことにする
「あなたねぇ......。急に席を外したと思ったら、エルフを連れてくるだなんて......」
「お願いします! この通りです!」
現在、僕は皇女さんの前で土下座を決め込んでいた。この場には僕と皇女さんの他に、エルフっ子とロティアさんが居る。
どうやら土下座という文化はこの国にもあったらしく、何してんのこいつ、という目線は向けられなかったが、今はそんなことどうでもいい。
「さっきまでバートの沙汰について話していたところなのよ? 直接関係なかったとしても厄介事に変わりないじゃない」
「......はい」
僕が土下座して頼み込んでいるのは、部屋の隅に立っているエルフっ子を傍に置かせてほしいという件だ。
エルフっ子の正体が闇組織、<
無論、彼女の持つ【固有錬成】も。
ただ僕が席を外している間に、<
またエルフっ子と僕が遭遇したのは近くの森という設定にしている。エルフっ子が命からがら闇脱出してきて、そこで僕が保護したという作り話だ。
正直、皇女さんがこんなんで信じてくれるかわからないけど、ゴリ押ししてでもエルフっ子を手放さないつもりである。
「ところで、バートさんはどちらに?」
「......とりあえず監視の者を付けて、謹慎させているわ」
会議室に戻ってきた僕は、部屋の中に皇女さんとロティアさんしか居なかったことに不思議に思ったが、皇女さんが手配してバートさんを別の部屋に監禁しているらしい。
ちなみにだが、皇女さんから聞いた話では、僕が離席中にバートさんの首にあった闇組織お手製の黒いチョーカーは外れたらしい。
あの牧師野郎がちゃんと約束を守ってくれたみたい。本当に何がしたいんだか、わからない相手である。
で、そのチョーカーは一端クリファさんが預かることになったらしいが、まぁ、特に害をなすことはもう無いだろう。
牧師野郎の話を鵜呑みにするのであれば、盗聴機能しかないって言ってたし。
「とにかく駄目なものは駄目よ。別に私たちが匿う必要はないでしょ?」
「で、でも、彼女が狙われたら、またあの厄介な【合鍵】を持つ敵が増えますよ」
「だとしても、他の者に任せればいいじゃない。マイケルの護衛対象を増やしてどうするのよ」
「そうですけど――」
「状況わかってるのかしら? レベッカを頼れない以上、あなただけが唯一の戦力なのよ」
「うっ」
『正論っちゃ正論だな』
『せめてエルフっ子が自衛もできて、今の皇女さんの役に立てることができればいいんですけど』
僕と皇女さんのやり取りに、魔族姉妹が他人事のような会話をしている。
どう納得してもらうべきか悩んでいる僕は、チラッと皇女さんの後ろに居るロティアさんを見た。
彼女と目が合ったが、それも一瞬のことで、先方がすぐさまそっぽを向いたことにより、彼女は頼れないという事実を思い知る。
『有能か......。聞けばよぉ、エルフのガキの【固有錬成】は発動条件がめっちゃ面倒くせぇーみてーじゃねーか』
『ええ。彼女の【固有錬成】を頼るとしたら、色々と検証する時間が必要です』
そう、エルフっ子の他者の【固有錬成】を付与できる【固有錬成】は、今までの【固有錬成】の中で一番発動条件が面倒くさい代物であった。
だから有能かどうかをこの場で証明することができないので、皇女さんを納得させることが難しい。
発動条件の内容は省くが、まずあの【合鍵】とやらを僕に即付与できれば、皇女さんの反対意見も弱くなるんだろうけど、それができそうにないらしいし。
「話は終わり。わかったらさっさとそのエルフの子を――」
『っ?! 【冷血魔法:氷壁】!!』
皇女さんの言葉を遮り、姉者さんが慌てて魔法を発動した。
この場に居る全員を覆う頑丈な氷壁が一瞬で生成された後、ドゴン!と強烈な衝撃と激しい揺れが僕らを襲う。
その衝撃でパラパラと氷の破片が降ってくるが、それを気にしている場合ではない。
「な、なに?!」
「っ?! 殿下ッ!」
急な出来事に慌てた様子の皇女さんを庇うべく、ロティアさんが彼女の下へ駆けつける。
『姉者!』
『敵襲です。数は一。二撃目、来ます』
「っ?!」
姉者さんがそう言った後、またも重たい一撃が僕らを覆う氷壁を襲った。
初撃もそうだけど、おそらく姉者さんは探知魔法で敵の奇襲を察知してくれたんだろう。
敵襲......闇組織の者の可能性が高いな。
なぜここが、なんて考えは浮かばない。バートさんが身に着けていたチョーカーの件を考えたら、奴らの襲撃は遅すぎたくらいだ。
僕は一つ深呼吸をしてから切り替える。
「【氷壁】はあとどれくらい持つかな?」
『おそらくあと二回くらいなら』
「了解。......ロティアさん、殿下を頼みます。敵の数は一人です。僕が対応します」
「っ?! は、はひ! この命に替えても殿下をお護りします!」
「ま、マイケル!」
皇女さんが心配そうな顔つきで僕を見つめてくるが、僕は返答するように頷いていから、端的に立ち回りを二人に伝える。
「合図をした後、【氷壁】を解除しますので、殿下たちは離れてください。できればクリファさんたちの下へ」
「わ、わかったわ」
「は、はい!」
僕は伝え終えた後、この場に居るエルフっ子を見やった。
「被害者の君にお願いするのはおかしなことだけど、これは良い機会かもしれない。皇女さんを守ってほしい」
「......。」
僕のその言葉に、エルフっ子はただ黙っていた。
本当は守られるべき立場の彼女だけど、状況が状況なだけにそんなことは言っていられない。
それに僕は奇襲してきた敵の対応をしないといけないし、エルフっ子の今後はエルフっ子の立ち回りで変わってくるのだから、投げやりで悪いけど、彼女に任せるしか無いんだ。
『三撃目、来ます』
「ふぅ......行きます!」
姉者さんの言う通り、三発目が直撃しても【氷壁】が破壊されることはなかった。
僕はその直後を合図に、内側から【氷壁】を粉砕してから一気に前進する。ロティアさんたちも僕とは反対方向へ駆け出した。
さっきまで居たマーギンス邸の会議室は跡形もなく破壊し尽くされ、外から見た屋敷はほぼ半壊状態だった。他の人は無事だろうか。
外に出ると、この領地には少ないながらも灯りが点在していることに気づく。が、それよりも月明かりの方が強く地上を照らしていた。
そんな中、僕は眼前に立っている敵と遭遇する。
敵は......猿のような外見だった。
無論、ただの猿ではない。大きさこそ地球に居た頃に見知った猿のそれなのだが、尻尾が以上に長く、その先端が蛇の頭だった。
また胴体は小さいのだが、両腕だけが以上に発達して逞しい。
そんな猿みたいな外見の敵はたったの一体だけで、口角を釣り上げながら下卑た笑みを僕に向けていた。
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