閑話 [ルホス] 子供キライ

 「お、おい、肉持ってきたぞ、肉ッ!」


 最近、私は“善行”とやらをしている。


 王都周辺の森に赴いては食べられそうなモンスターを狩っては解体し、剥ぎ取ったその肉の塊を、都内にあるこの教会へ寄付している。


 聞けば、この教会は身寄りが無い人間の子供たちの住処でもあるらしい。教会が子供たちを引き取っては育て、時にはドウトクとやらを学ばせて、時には仕事をさせてと、将来自立ができるように支援活動をしているのだとか。


 ま、私には関係ないからどうでもいいけど。


 「あら、ルホスちゃん。今日も狩ってきてくれたの? いつもありがとう」


 教会の裏口からやってきた私が、狩ってきた肉をその辺にドサリと置くと、ちょうど近くに居たシスターがやってきて、私の身長を優に超える肉塊を見て、お礼の言葉を言ってきた。


 シスターは二十代後半の見た目で、茶色の長髪を風に靡かせる大人の女性だ。胸も大きく、私の方へ向かってくるに連れて、ぶるんぶるんと揺れるから、無性にイラッときた。


 ......スズキは大きい胸の方が好きなのかな。


 で、なぜ私がモンスターを狩って、わざわざこの教会に届けているのかというと、持ってきた肉をシスターたちに調理させて、食事をするためだ。


 これにより私は空腹を満たせるし、教会は余った肉を貰えるから、食費が浮いて助かるしでお互い助け合う関係が成り立っていた。


 ちなみにこの提案をしたのは、あの騎士のババアだ。


 最初、なんで人間なんかに、と渋る私だったけど、マーレが作ったご飯を食べ続けるよりマシだったので、仕方なく応じることにした。


 「もうそろそろ夕食の時間だし、良かったらルホスちゃんも?」

 「嫌」

 「そ、即答......」


 シスターの言う“皆”とは言うまでもなく、この教会に居る不特定多数の連中とだ。


 人間が好きじゃない私は即拒否した。


 ここに食料を寄付するにあたって、私が決めているのはあまり多くの人間と関わらないこと。


 私が狩ってきた肉を調理させ、残った分を教会の連中が食べる。私はその輪に入ることなく、裏で食事をする。


 それが一番落ち着く。


 シスターは苦笑しながら、私と一緒に肉塊を厨房の方へ運んだ。


 やってきた厨房は、厨房というか、調理室というか、最低限の器具や火を起こせる場所があるだけの空間だった。


 「すぐ作るから待っててね」

 「うん、早くしろ。腹減った」


 「手伝ってくれてもいいんだけど......」

 「嫌」


 私がそう短く答えると、シスターは困った顔つきで調理を始めた。


 もう少しすると、他のシスターたちがこの場に集まって、一緒になって料理を始める。


 目の前のシスターが少し早めに作業しているのは、言うまでもなく私の分の料理を作るためだ。


 まぁ、料理と言っても、スズキの料理と比べたら全然だけど。シスターたちの調理法は基本、焼いたり茹でたりで、味付けも塩とか自然に生えているハーブっぽいものを振りかけるくらいだし。


 スズキはまだ帰ってこないのかなぁ......。


 「ルホスちゃんはまだ人間が嫌い?」


 すると不意に、シスターが調理しながらそんなことを聞いてきた。


 「嫌い」

 「ふふ、これまた微妙な感想ね。ここに通って少しは慣れたかしら?」


 「人間は意地汚いし、弱いくせに威張るし、すごく姑息だ」

 「少なくとも、教会ここに居る人たちはそんなことないと思うけど」


 「......でも嫌い」

 「そう。残念」


 目の前のシスターに限らず、ここに居る人間は私が魔族ということを知っている。騎士のババアがここに私を連れてきたときに、私が魔族と紹介したからだ。


 当初、教会の連中は戸惑った様子を見せたけど、騎士のババアを全面的に信頼しているのか、特に条件を付けることなく受け入れてくれた。


 元々、教会は昔から貧乏な上に、身寄りの無い人間の子供たちが増えていく一方だから、日に日に経済的な負担が大きくなっていったみたい。


 国には助成金を増やしてほしいと申請しているらしいけど、あまり応じてくれないとのこと。


 理由は興味無いから知らないけど、とりあえず食材を提供してくれる存在の私は、魔族でも気にしないようだ。


 ......変なの。


 「お前は、我が魔族だと知っても普通に接するんだな」

 「え? あ、うん。だってルホスちゃんは可愛らしい女の子だし」


 「わ、我を子供扱いするな! やろうと思えばお前なんか瞬殺できるんだぞッ!」

 「や、やめてよ。物騒だなぁ」


 さすがにシスターに向かって魔法は放たないけど、ちゃんと立場を弁えてほしい。


 私が上で、そっちが下。これ絶対。うん。


 シスターが熱したフライパンに食べやすいサイズに切り分けた肉を敷いていった。


 肉の焼ける音が心地よくて、漂ってくる臭いも生臭くなくて良い香りがする。焼くときに何か調味料とやらを使っているのかな?


 すると、私とシスターしかいないこの空間に、どこからか音楽が聴こえてきた。


 いや、歌だ。ピアノが奏でる音に続いて、複数人の歌声が聴こえてくる。それも子供の声だ。歌っている内容まではよく聞き取れないけど、興味が無いので気にならならない。


 「聴いていると歌いたくならない?」

 「ならん。何が楽しいんだ、アレ」


 「うーん、楽しいと言うかなんというか......共に暮らす人たちと心を一つにする、みたいな感じかな?」

 「我にはよくわからん」


 シスターはまた苦笑して調理を続けた。


 騎士のババアは私と同年代の子も居るというこの教会で、まずは人間慣れしろと言ってたけど、そんなことする気が微塵も無い私であった。

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