第164話 カ○キ君の気分
『【紅焔魔法:螺旋火槍】』
開幕早々、僕の右側付近に発生した唐紅色の魔法陣から、螺旋状の火の槍が放たれた。
目指すは玉座で足を組んで座っている闇組織の幹部さんである。
ちょ、おい!
「『『っ?!』』」
が、次の瞬間、妹者さんが放った【螺旋火槍】はガキンと甲高い音を鳴らして、弾かれたように床に落ちた。
いや、何者かによってなされた結果である。
そしてその何者かは牧師みたいな人じゃない。
「失礼致しました」
「ありがとう、<
「その呼び方はお辞めください」
修道服を身に纏う女性だった。
それも牧師みたいな人同様、牡牛の仮面を着けた違和感しか無い格好である。
僕が女性と判断できたのは、修道服の上からでもわかる女性特有のスタイルだからだ。
牧師の人からナナちゃんって言われてたけど......。
「この者を殺しますか?」
「『『っ?!』』」
僕がそんなことを考えていたら、修道服を着た仮面の女性からどす黒い殺気が向けられたので、僕は思わず身構えてしまった。
「結構。余計な手出しは必要無い。下がりなさい」
「しかし――」
「くどい。<7th>、下がれ」
「......畏まりました」
修道女っぽい人はそう返事をして、まるで霧散するように一瞬でその姿を消した。
な、なんだったんだ、今の......。
「さて、話の続きだが......少年の返事を聞きたい」
「え?」
あっけらかんとしていた僕に、催促するような眼差しを仮面の奥から向けてきた牧師みたいな人は、両膝に肘を突いて前のめりになっていた。
返事って......僕と協力関係になりたいって話だよね。
なに言ってんのこの人。
「あの、一応、僕ら敵対関係ですよね? あなたは闇組織で、僕は賞金首かけられた冒険者です」
「敵対しているのは<4th>とだろう? ワタシは関係無い」
『こいつ、頭大丈夫か?』
牧師野郎は妹者さんの呟きに、至って正常さ、と軽く返してきた。
妹者さんの声が聞こえたってことは、少なくとも彼女は例の魔法を使って、自分の声を僕以外に聞こえなくするのを止めたのか......。
まぁ、もうバレてしまったのなら別にいいか。
ちなみに姉者さんは依然として、まだ自分の正体はバレてないだろうと踏んで例の魔法を継続して使っている。
「さすがに胡散臭いです」
「......まぁ、信じろというのは難しいか」
あ、そこはちゃんと自覚あるのね。
「そうだな......。さすがにワタシの管轄ではないから<4th>を止めることはできないが、彼の
「え?!」
『絶対ハッタリだろ!!』
と、妹者さんが怒鳴り声を上げるが、相手は何も言い返してこない。
そこで今まで沈黙を貫いてきた姉者さんが口を開いた。
『相手の力量ならば有無を言わさず、こちらを捕らえることはできます。それせずに提案してくるということは、ハッタリの線は薄いでしょう』
「『......。』」
たしかに......。
でもだからと言って、奴の言う言葉全てを信じるのもなぁ。
渋っている僕を焦れったく思ったのか、牧師野郎は片手の人差し指を立てて言ってきた。
「ならばサービスだ。少年にあるモノをプレゼントしよう」
「ぷ、プレゼント?」
「ああ。【合鍵】のことは知っているだろう?」
牧師野郎が言った【合鍵】というのは、扉さえあれば長距離転移という、空間を繋げることができるスキルだ。
闇組織の中でも一部の人しか使えない特殊な手段らしく、僕らはそれを利用して帝国領土へやってきた。
僕がこくりと頷くと、奴は続けていった。
「既に気づいているかもしれないが、あれは“転移”系の【固有錬成】をある【固有錬成】によって、他者に付与したものだ」
これには驚かない。初めて【合鍵】が施された腕を目にしたとき、魔族姉妹が特殊な技術で付与されていたことを見抜いていたからだ。
「その付与を施した者を、少年に預けよう」
「『『っ?!』』」
付与を施した者って、その【固有錬成】の持ち主を僕に?!
いや、なんでそうなるの?!
僕は思わず声を上げてしまった。
「いやいやいや! なんでそんな手放しちゃまずい人を僕に渡す発想になるんです?!」
「少年に貸した方が面白い事になりそうだからだ。それにそのモノは元々ワタシが所有する奴隷でね。<4th>が使いたいって言うから貸しただけ」
それ<4th>が黙ってないだろ......。
もうそれなら手っ取り早く<4th>を倒して、帝国にちょっかい出すのやめてくれないかな。それなら信用してもいいんだけど。
僕が呆れたように、ダメ元でそんな提案をすると、牧師野郎は首を横に振った。
「何度も言うが、ワタシの管轄ではないからそれはできない」
『仲間の弱点教えるとか、使ってる奴隷を差し出そうとしてるくせに何言ってんだ、こいつ』
「ふふ。<4th>の弱点は、一度対峙したことのある少年ならいずれわかることさ。ワタシはそれを少し早めたに過ぎない」
「奴隷の件も?」
「ああ。元々ワタシのモノだったんだ。それを返してもらって、また誰かに預けると見れば裏切りではない」
『むちゃくちゃですね、この人』
禿同。
この人は今までの僕たちを盗聴してきたんだ。だから僕らが<4th>と戦ったことも知っている。そんな僕らなら、いずれ<4th>の弱点......おそらくあの転移の【固有錬成】の限界に気づけると言う。
【固有錬成】の限界がわかってしまえば、奴がいつ何をどれくらい転移できるのかを推測できるかもしれない。
そう、現にあいつは僕のことを強制転移させることができなかった。
あれは転移対象であった僕に何らかの原因があるに違いたい。
正直、<4th>と戦った日以降、なんで僕を強制転移できなかったのか理解できなかったから、教えてくれるなら教えてほしい情報だ。鵜呑みにするのはどうかと思うけど。
『つぅーか。闇組織の幹部があーしらと協力関係になっていぃーのかよ』
「良くはないね。が、少なくとも、組織内でワタシと対立できる者はいないから、そこは安心かな」
「組織内って......。今回は<
「うん。そこでさ、ついでに少年には<
............は?
僕は牧師野郎が何を言っているのかわからなかった。
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