第163話 再会は強制されるもの?
「やぁ、少年。会いたかったよ」
「『『......。』』」
中性的な声でそういった牡牛の仮面を被った人物は、相変わらず性別が判断できない。
牧師みたいな格好しているから男性だろうか。まぁ、どっちでもいいか。
僕は片腕の袖を捲って、漆黒のブレスレットを見せつけながら言った。
「あの、コレを外してくれません?」
「断る」
拒否られた。
「久しぶりに再会したのにその口ぶりはなんだい? 傷つくなぁ」
「......なんか変わりましたね」
「?」
僕は思わずそんなことを呟いてしまったが、相手は首を傾げて言葉の意味が理解できなかった様である。
だって、以前は最終的には友好的な別れ方をしたけど、なんだか冷たい人というか、ここまで好意的な人じゃなかった気がする。
そもそも友達どころか敵同士なんだけどな......。
まぁ、それは一旦置いておこう。
「確認ですが、このブレスレットはあなたのですよね?」
「うん」
「コレで24時間、僕を監視してたんですか?」
「うん」
こいつ、全然隠す気ないな。
それに面白がってるの仮面越しでもわかるくらい伝わってくるし。
言質を取れたのはいいとして、問題は......
「『なぜアーレスが見抜けなかったのか』を気にしているのかな?」
「......はい」
目の前の牧師みたいな人にそう言われ、僕は素直に頷いた。
そう、アーレスさんにこのブレスレットの説明をした後、特に盗聴されている痕跡は無いと言われたのだ。
だから安心しきった僕なんだけど、実際は監視として盗聴されまくっていたらしい。
これまたどういうことか......。
「ふふ。単純に、アーレスが近くに居るときは盗聴しなければいいだけさ」
「......。」
めっちゃシンプルな方法だった。
え、そんなんであの人欺けたの?
ちなみに厳密には“監視”ではなく、“盗聴”だけらしい。どっちにしろプライバシーの侵害だが。
「以前からアーレスの噂は入ってきてるよ。彼女の前じゃ盗聴なんて無意味にも等しい。ハラハラしたもんだ」
「よくバレませんでしたね」
「ワタシもそれなりに力があるからね。秘密だけど」
さて、これで僕はアーレスさんと離れてから監視されていることを確信したわけだが......。
「ちなみにバートさん――皇女さんの近くに居た女執事さんのチョーカーは......」
「ああ、少年のブレスレット同様、ワタシが作ったものだ」
やっぱりかぁ......。
以前、<4th>の管轄である仕事には干渉しないとか言っといてコレだよ。嘘つきじゃん。
......闇組織の言うことを信じた僕がバカだったな。
とりあえずダメ元で頼んでみよ。
「あのチョーカーも外してくれないんですよね?」
「いや、あっちはいいよ」
いいんかい。
「アレは<4th>に頼まれて作ったものでね。操作権限は<4th>に託してあるから、ワタシはほぼ無関係だ」
「信じると思います?」
「まぁ、そうなるか......。以前も言ったけど、ワタシには<4th>の計画には興味が無いし、君に頼まれたのなら外してもいい」
「本当に仲間なんですか?」
「うん」
「......。」
価値観の差異というかなんというか......。言ってること滅茶苦茶だよ。
とりあえず鵜呑みにするのはどうかと思うけど、僕は女執事さんに着けられているチョーカーを外すように頼んだ。
ま、僕のこのブレスレットも外そうと思えば外せる。
シンプルに腕を切って原形が無くなるまで腕を燃やした後、切断した手首から再生させれば、残るのはこのブレスレットだけだ。
だから帰った後に外そ。そう決意した僕であった。
素直に応じてくれた牧師みたいな人は、ややテンション高めに次の話題へと入った。
「それにしても少年、すごいね」
「はい?」
ややうんざり気味に相槌を打つと、牧師みたいな人が続けて言う。
「<5th>だけじゃなく、<4th>まで相手にして無事でいられるなんて」
「......。」
そうだった。この人、僕のことを24時間盗聴できるんだから、あの戦況とか筒抜けだったよね。
ということは、だ。
「ちなみに僕の正体とか......」
「ふふ。大体理解しているつもりだよ。“盗聴”している筈なのに、まだ聞けていないんだけど.....居るんだろう? 少年の中に魔族が」
「『『......。』』」
僕らは否定することもなく沈黙していた。
マジ? どこまでバレてるんだろ?
この口ぶりじゃ魔族姉妹の存在は知っているみたいだ。
日頃から盗聴してたってことは、僕が二人と話してた内容も聞かれていたってことか。
いや、僕の声は聞けたとしても、魔族姉妹の声は盗聴できなかったのかもしれない。
なぜなら二人は常に例の魔法で、僕以外には声を聞こえないように会話しているのだから。
だから未だに黙ったままなのか。
なら相手が鎌をかけてきたと見るべきだろう。正直に話すことなく欺くべきだ。
「なんのことです? 僕は昔から独り言をよく――」
「夜な夜なスズキ君を盗聴していると、甘い女性の声と瑞々しい音が聞こえてくるのさ」
『『っ?!』』
え?! 僕の本名知ってるの?!
僕と同様に、魔族姉妹もビクッと身を震わせた(口しかないけど)。
一方の牧師みたいな人は、自身の両肩を抱きしめるようにして若干悶ながら言った。こんな人だったっけと僕は引いてしまう。
「『スズキ......んッ!』とか『あむ』とか『ぴちゃぴちゃ』とか――」
『うぉぉぉおおおおお!!』
瞬間、けたたましい声がこの神聖的な空間に響き渡る。
言わずもがな、妹者さんの声だ。
ちょ、今の感じ、絶対に例の魔法使ってないで発声したよね。相手の言葉を遮る勢いだったよね。
「ほほう......今の声、少年の右手からかな」
「っ?!」
僕が右手に視線を向けたと同時に、こちらが反応できない速度で牧師野郎が目の前に現れた。
い、いつの間に......。
すると奴は僕の右手首を掴み、強引に自身の仮面の真ん前へ持っていく。握ってきた相手の手は真っ白な手袋をしているのに、なんだか酷く冷たく感じてしまう。
「手のひらに口? これまたすごいな......」
『てめぇ! なんつぅ嘘吐きやがるッ!! あたしがそ、そ、そそそんなこと言うわけねぇーだろ!!』
「
『殺すッ! てめぇーだけは絶対にここでぶっ殺す!!』
興味津々に右手のひらをまじまじと観察する闇組織の幹部。
顔(口しかないけど)を真っ赤にして抗議の声を上げる妹者さん。
二人の会話は全く噛み合ってない。
すると先に妹者さんが痺れを切らしたのか、【烈火魔法:火逆光】――目眩まし魔法を発動した。
ちょ!!
「『まぶしッ?!』」
「ぬお?!」
巻き添えを食らった僕らだが、牧師みたいな人も強烈な発光を直視したようで驚いた様子である。
僕は妹者さんのスキルによって視力が回復した後、すぐそこで転げ回っているであろう牧師の人を見やった。
が、そこに奴の姿はなく、牧師野郎はいつの間にか元居た場所、玉座の方へ戻って腰掛けていた。
な、なんなんだあの人......。
すると牧師野郎は急に立ち上がって、両手を広げて言った。
「素晴らしい! 実に素晴らしい! 人の身で蛮魔と共存でき、力を行使することができるなんと奇跡的な存在か!! 少年、ワタシは君が欲しくて欲しくて堪らない!」
ひッ。
僕の悲鳴は魔族姉妹と合わせてのものであった。
まるで別人のように豹変した牧師の人が気色悪くて仕方がなかった。
奴はハァハァと熱い息を漏らしながら、しばらくした後、落ち着きを取り戻して、再び僕を見据える。
そしてひらりと右手を胸の方に、左手を後ろへ回して綺麗なお辞儀をした後、奴は続けて言った。
「失礼。つい興奮してしまった。......さて、少年に提案したい。ワタシが少年と協力関係になりたいと言ったらどうする?」
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