第162話 プライベートの侵害
「あれ、こっちに向かって来ているのって......」
『あーしらを投げ飛ばしたクソ野郎だな』
森を抜けてすぐのこと、帰路につく僕は少し先、馬に乗ってこちらへやってきている連中を目にした。
クリファさん率いる戦闘部隊だ。その数、五十は下らない。
「ナエドコ殿の敵を討つぞぉぉぉおお!!」
「「「「「おおー!!!」」」」」
「『『......。』』」
彼らとの距離が縮むに連れ、その咆哮が離れている僕の方まで届いてくる。
敵を討つって......。半ば僕を殺したようなもんでしょ、あんたはさ。
僕は大きく手を振って叫んだ。
「クリファさーん!! 僕は無事でーす!!」
「「「「「っ?!」」」」」
僕の姿を認識したクリファさんたちは一斉に徐々に速度を落とし、僕の前へとやってきた。
そして馬を止めた後、クリファさんが目をパチクリとさせて口を開いた。
「な、ナエドコ殿、ご無事だったか......」
「はい。オーガとトノサマオーガ、倒しておきましたよ」
「なッ?!」
クリファさんたちは揃いも揃って目を見開いて驚いていた。
「ま、まさか一人で?!」
「いや、あの数を一人で撃退するのはおかしいだろ......」
「しかも我々が引き返してから戻ってくるまで大して時間が経ってないぞ」
ざわざわと皆して騒ぎ始めているが、嘘吐いても仕方がない事実なので、後で確かめに行ってもらおう。
今しがた僕が抜けた森の中には、まだトノサマオーガたちの死体が転がっているはずだ。
あ、いや、死体確認できないかな。トノサマオーガたちは原形をとどめてなかったし。
まぁ、いいや。トノサマオーガたちは死んだのだから、これからこの領地を襲うなんてことはない。
それが何よりも証拠となるだろう。
「して、ナエドコ殿」
「?」
そんなことを考えていたら、クリファさんがこほんと咳払いしてそっぽを向いた。
先程までは目を合わせて話していたのに、これまた奇妙なもんだ。見れば、クリファさんの後ろに控えている私兵たちも苦笑していた。
僕が頭上に疑問符を浮かべていると、クリファさんは仕方ないと言った様子で言った。
「その、今から我が屋敷へ戻るのだろう?」
「はい。そのつもりです」
「ならその、剣をしまうといい」
そういってクリファさんはビシッと僕の下半身へ向けて指を差した。
僕は真下へ視線を向けると、なんとそこには僕のエクスカリバーが破けたズボンの隙間からボロンと垂れ下がっていた。
おっと、いけないいけない(笑)。すっかり忘れてたよ。なんかスースーするなと思ってたけど。
『締まんねぇー奴だな』
『しまわないだけに(笑)』
上手くないよ。
僕は苦笑しつつ、部隊の一人からローブを受け取って、それを身に纏うのであった。
*****
「戻りましたー」
クリファ邸に戻った僕は、とりあえず汚れた身体を綺麗にして新しい服に着替えてから、皇女さんたちが居ると聞かされた部屋へ向かった。
ノックもせずに扉を開け、中に居る皇女さんたちに顔を見せる。
が、この部屋の中に剣呑な雰囲気を漂っていた。
「おかえりなさい、マイケル」
皇女さんがモンスター討伐から帰ってきた僕に目もくれず、低い声でそう言ってきた。
彼女はずっと目の前の席に座っている女執事さん――バートさんを見据えている。どこか怒りの色を窺わせる顔つきだ。
一方のバートさんは目を閉じて申し訳無さそうにしていた。
また皇女さんの傍らには伯爵の娘、ロティアさんが控えている。
この子はなんだか落ち着きが無いというか、僕が帰ってきたことで、パーっと顔色を明るくした感じだ。
な、何があったんだろ。
「ロティアさん、悪いのだけれど、マイケルに事情を説明してくれないかしら?」
「ひゃ、ひゃい!!」
ということで、僕はロティアさんから何があったのかを聞かされることになった。
*****
「なるほど......」
『『......。』』
ロティアさんから一通り内容を聞かされた僕は、バートさんを見やった。
それに合わせ、彼女はボタンを上から数個外し、自身の首に着いている漆黒のチョーカーを僕に見せた。
どうやらアレのせいで、闇組織や皇帝さんに僕らの行動は筒抜けとなったらしい。
「......。」
『マジかよ......』
今度は僕の方が黙り込んでしまった。
あのチョーカーの色合いに見覚えがあったからだ。
そう、少し前、僕も漆黒色のブレスレットを誰かさんによってはめられたのだから。
「マイケル、そこであなたに頼み――」
「失礼します」
「え、あ、ちょ?!」
僕は呼び止めようとする皇女さんを無視して部屋を後にし、人気の無い所へ向かった。
そして自身の片腕にはめられている漆黒のブレスレットに向かって言う。
本当なら魔族姉妹に相談すべきなんだろうけど、そんなことをしている余裕すらなかった。
「ちょっと。聞こえてますよね? そっちに呼んでください。話があります」
瞬間、早口な僕の声に反応して、足元から多彩色の魔法陣が展開された。
うん、これ見たことあるな。転移魔法だ。
『ああー、またあっちに行くんかー』
『はぁ......』
視界が一瞬だけ暗転した後、僕はどこか懐かしく感じる神聖な場所へやってきた。
だだっ広い石造りの空間は薄暗く、外から入ってくる月明かりがステンドグラスを通して一部だけ鮮やかに彩っていた。
教会内部を思わせる清楚な場所だけど、同時に魔王の城の中と言われても驚かない雰囲気も漂わせている。
そして最奥にある玉座に座る者は、頬杖を突いてこちらを見ていた。
その人は中肉中背で、衣服は牧師みたいに黒一色で揃えていて、その首元には金色の十字のネックレスが掛けられている。
また一番注目してしまうのは――牡牛の被り物だ。それが<
以前はあまり外見を気にしなかったけど、再びこうして目にすると変な格好だなと思う。
「やぁ、少年。会いたかったよ」
「『『......。』』」
僕は二度と会いたくなかった......。
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