第160話 激戦の果てに
『作戦は?』
「妹者さんは【固有錬成】で回復と身体能力のコピーを繰り返してほしい。たぶんそれでいっぱいいっぱいだと思う」
『なら私と苗床さんで相手する感じですね』
僕は姉者さんの言葉にこくりと頷いて答えた。
僕が手にしているのは燃え盛る炎剣――【閃焼刃】だ。手数は見込めるけど、これじゃあ強化し続けている奴の外皮に大したダメージは与えられない。
【螺旋火槍】くらいの貫通力なら話は別だが、それでも致命傷には至らないし、あれは発動して後、貫通力を高めるのに魔力を込めるから若干の時間がかかる。
近接戦は巨躯と大剣、多少の我流剣術と思しき立ち回りができるトノサマオーガに分があるけど、僕は傷口から猛毒ガスを撒き散らすこともできるから、おそらくそれが決め手になるんじゃなかろうか。
『グルァァアアァァア!』
『来ます!』
「【
僕は普段、魔族姉妹たちが連携して成し遂げる技の再現に挑戦した。
イメージは抜刀。間合いは前方約三十メートルだから、向かってくる相手は十分射程圏内だ。
僕は深く息を吸って、溜めた空気を一瞬で全て吐く。
鎖を引き抜く右腕に力を込め、【力点昇華】を発動した。
「『【烈火魔法:
未だかつて無い神速の一撃が扇状に放たれた。
しかしトノサマオーガは今も尚強化し続けているからか、直撃は避けたいらしく、これに反応して手にしていた大剣で迫りくる灼熱の鉄鎖を叩きつけた。
が、切断力に特化した【抜熱鎖】は、頑丈さだけが取り柄のトノサマオーガの大剣を容易く切断する。
切断された刃先は大剣の刃渡りの約半分ほどで、それが勢いよく宙を回転しながら滑空する。
それでも、
「なッ?!」
トノサマオーガは大剣が切断されている間に、【
そして地面から生まれた僅かな隙間に身を捩じ込ませ、低姿勢の状態で避けきった。
そこから前傾姿勢のまま、加速し続けて僕との距離を一瞬で縮める。
「っ?!」
『苗ど――』
息のかかる距離まで接近を許してしまった僕は、半分ほど刃渡りを失ったトノサマオーガの大剣により左肩から爪先まで両断された。
常人なら即死する一撃を食らった僕だが、トノサマオーガは僕がこんなんじゃ死なないことを既に知っている。
だから二撃目。一度引いた大剣を、再び勢いづけて、今度は横薙ぎで僕に斬りつけようとした。
妹者さんは【固有錬成】を発動しているが、完治の方が断然遅い。
僕の新たな【固有錬成】――【泥毒】による猛毒は噴出しているけど、まだ奴には届いていない。
このまま二撃、三撃、四撃と繰り返されたら、いつかは魔族姉妹の核を砕かれて、僕は死んでしまう。
「うらぁぁぁああ!!」
しかし僕は二撃目が入る前、トノサマオーガの額にある角を無事な片手で掴み、一気に引き寄せてから膝蹴りを奴の顔面に叩きつけた。
もちろん【力点昇華】込みでだ。妹者さんの【祝福調和】で奴の身体能力が下地に上乗せされた膝蹴りは、トノサマオーガの鼻を曲げるくらいには威力があったらしい。
奴の角と牙、そして鼻がその衝撃で折れ、僕は宙に放り出された状態になった。
そして一瞬だけ蹌踉めいた敵の隙を逃すことなく、そのままの姿勢で僕は攻撃を続ける。
「【紅焔魔法:天焼拳】!!」
炎を纏いし拳が今の僕の膂力に乗じ、力を増してトノサマオーガの頬を捉えた。
右手からフックのように殴ったので、奴の巨体は左の方へ吹っ飛ぶ。
ドサリ。身体を地面に打ち付けるように落下した僕は、妹者さんのスキルで全回復したことを確認してから、すぐさま身を起こして追撃を試みる。
「姉者さんッ!!」
『はいッ!』
僕らは一瞬で息を合わせて唱えた。
「『【多重凍血魔法:
瞬間、視界を埋め尽くす程の鋭利な氷塊による範囲攻撃が広がった。
トノサマオーガだけじゃない。目に映る全てのモノを噛み砕くため、氷の牙が頭上と足元から一気に襲う。
これなら――
『ガァァアアァァァアア!!!』
「『『っ?!』』」
無数の氷の牙の先、奴は怒号にも似た咆哮を響かせながら、それらを砕きつつ一直線に僕の方へと向かってきた。
しかしトノサマオーガは無傷じゃない。身体中を氷の牙で貫かれながらも、前進を止めなかった。
オーガ種の象徴たる角と牙を折られ、片腕を失い、身体中から血を吹き出している死に損ないのトノサマオーガは、それでも尚、僕に立ち向かってきた。
とっくに死んでもおかしくない致命傷を負っても、奴の身体に纏わりつく赤黒い稲妻がそれを赦さないかのように。
なんなんだよ......。
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