第155話 裏切られた?

 「皆の者、よくぞ集まった。これより南西、北西より現れたモンスターの討伐を行う!!」


 クリファさんの大声により、総勢三十名ほどの騎士者たちが姿勢を正して敬礼をした。


 クリファさんは大剣を前に突き立てて、その頭に両手を乗せている。僕はそんな威厳たっぷりな彼の横に立っていた。


 騎士らしき、というのは騎士っぽい鎧を所々身につけているからである。元はフルプレートだったのか、胸当や足など急所や傷を負いやすい箇所を守るための最低限の防護姿って感じだ。


 また彼らの鎧の隙間から垣間見える筋肉の塊が、歴戦の戦士を思わせる。伊達に日々モンスター狩りをしてないようだ。


 それに全員緊張している面持ちというより、好戦的な表情なので、流石の一言に尽きる。


 「部隊は三つに分ける! 南西担当の部隊と北西担当の部隊、そして待機部隊だ! 待機部隊は事前に決めていたように、援軍の要請があったらすぐに向かってくれ!」

 「「「「はッ!!」」」」


 すると綺麗に整列した戦士集団の一部から、貫禄のある野太い声が飛んできた。おそらく今返事した人たちが待機部隊なんだろう。


 「ゾート! 南西、北西に確認されているモンスターはなんだ!!」

 「はッ!! 南西にトノサマゴブリン一体、ゴブリン十二体、サイクロプス三体、北西にオーガ八体であります!」


 「よし! ゾート隊、リシオン隊、ナルマリア部隊が南西方面を対処しろ! 指揮はゾートが取れ!」

 「はッ!!」


 そんな大群が迫ってきているのか。


 南西にはかなりの数のモンスターがいるみたいだけど、それに加えて北西にオーガ八体とか、大丈夫かな?


 ちなみにサイクロプスは戦ったことあるけど、オーガは戦ったことがない。でもその手の知識に富んだ僕には説明不要なモンスターである。会うのが若干楽しみだ。


 「残りの部隊は......ミュライン部隊! 私と共に北西へ行く! 指揮は私が取る!」

 「はッ!!」

 「細かい作戦は決めん! いつも通りだ! 各々迅速に、そして臨機応変に行動しろ!」


 お。一応、一通り役割というか立ち回りは決まったみたいだ。


 再度、軽く大剣を持ち上げてから地面に突き刺して、硬い地面と鋒の衝突音を響かせた後、クリファさんは大声を出した。


 「よし! 何か質問はあるか?!」

 「「「「「はい!!!」」」」」


 すると、全員がシンクロして片手をビシッと頭上高く持ち上げた。


 お、おおう。すごいな。元は軍人だからか、全員ズレなく動くからビビったよ。


 「なんだッ!!」

 「「「「「隣の人は誰ですか?!」」」」」


 そして全員、持ち上げた手をそのままビシッと僕の方へ向けた。


 圧巻だな......。そうだよね、前に立ってるくせに何も説明無かったよね。


 そりゃあ気になるわ。こんな平たい顔面の無愛想な奴が、総指揮官であるクリファさんの横に立っていたら当たり前だ。


 「この者は今回の討伐に協力するナエドコ殿だ! 私と一緒に北西へ向かう!! 既に聞いている者もいるかもしれないが、<屍龍殺し>の男と言えばわかるか!!」

 「「「「「っ?!」」」」」


 <屍龍殺し>という単語を聞いたことで、全員がギョッとした顔つきになる。そして途端にざわつき始めた。


 「ま、マジかよ」

 「あいつが<屍龍殺し>?」

 「全然強そうには見えねぇぞ」

 「そもそも本当なのか?」


 目の前の屈強な男たちは全員、僕に疑わしそうな視線を向けてくる。


 <屍龍殺し>って異名はこんな辺境の地にでも届いてるんだな。すご。


 するとざわついている私兵たちを黙らせるべく、クリファさんは一喝した。そして僕の背を軽く叩いて、何か一言言えと訴えてくる。


 だから僕は言った。


 「【固有錬成:力点昇華】」


 ただの正拳突きだ。


 素人同然の力任せに放った拳である。しかしそれは【固有錬成】により、膂力が爆上がりした拳だった。


 空に叩きつけた正拳突きは、衝撃波のようなものを生み出して、眼前の屈強な男たちを襲う。


 それを受けて全員が目を見開いて立ち尽くしていた。中には何名か、腰を抜かして尻餅をついている者も居る。


 誰も彼もが、僕の決して逞しくない身体から放たれた拳が信じられないと言わんばかりの顔をしていた。


 身体能力が向上する魔法を使っていない膂力でこれなんだ。【固有錬成】とはいえ、尋常じゃないのは確かだと察したに違いない。


 「気が済んだか? 見た目で物事を判断するな。いつも言っているだろう」


 ただ一人、クリファさんだけは驚いた様子を見せること無く、静かにそう語った。


 その後、彼らはすぐに整列を作り直して敬礼する。


 「では各人配置につけ! モンスターを逃がすな! 死んでも狩れッ!!」

 「「「「「はッ!!」」」」」


 『『はッ!!』』

 「......。」


 魔族姉妹がなんか影響受けてる......。



*****



 「前方にオーガ七体を確認!! 距離150クード」


 そんな大声が僕らの耳に届いた。


 なんだ、クードって単位は。何メートルなのさ。しかし即座に魔族姉妹が大体300メートルと捕捉してくれた。


 現在、マーギンス領北西部に位置する森林地帯の中、僕らは馬を走らせていた。道なんてないのであまり速度は出せないが、それでも人間の走行速度を遥かに凌駕する速さで駆け抜けていく。


 無論、僕は乗れないので乗馬が上手いクリファさんの後ろに座っている。


 すごく揺れる上に、巨漢に抱き着くという事実が僕に吐き気を催した。


 それにしても300メートル先の物体を視認できるってすごいな。しかも森だし。何か道具でも使ったのかな。


 「八体と聞いたが!!」

 「はい!! 群れの後方、一際大きいオーガらしきモンスターが見受けられますッ!! おそらくトノサマオーガですッ!」


 出たよ、トノサマクラス。マジ何なん。事あるごとに現れないでよ。


 ちなみにオーガを発見したと通達があっても、前方の視界が鎧で埋め尽くされている僕にはどう足掻いても視認できない。


 そしてクリファさんは速度を落とすこと無く突き進んだ。


 「クリファ隊長! トノサマクラスが相手ですッ! 一旦退いて援軍を要請しましょう!」

 「いや、このまま進む! 少ししたら馬から降りるぞッ!! 馬を巻き込みたくないしなッ!」


 「い、いえ、それよりもトノサマオーガが居ます! この編成では少し厳しいかと思われますッ!!」

 「くどいッ!! 我々はこのままオーガを相手にするぞッ! トノサマの方はナエドコ殿に任せる!」

 「ふぁ?!」 

 「え?! あ、はッ!!」


 はッ!じゃないよ。というか、変な声出ちゃったじゃん。


 え、なんで僕だけがトノサマクラスを相手にする感じになってるの。おかしいでしょ。


 僕は訴えようとクリファさんの名前を呼んだが、彼の大声に遮られてしまった。


 「皆まで言うな! わかっておる! 殿下からナエドコ殿は“トノサマ狩り”をしていると聞いた!」

 「いや、してませんが」


 「今回も同じように好きに動いてくれ! 安心しろ! オーガはこちらに任せれてくれればいい!」

 「......。」


 駄目だ。この人全く話を聞かないタイプだ。


 「よし、投げるぞ!!」

 「え゛」


 すると前に座っているクリファさんが、乗馬しているにも関わらず、器用にも僕の首根っこを掴んできた。


 今この人なんて言った?


 投げるって何を?


 ......。


 「準備はいいな! 頼んだ――」

 「ちょっと待――」

 「ぞぉぉぉおおお!!!」


 僕はクリファさんの剛腕によって投げ飛ばされたのであった。

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