第154話 一難去ってまた一難

 「ご報告いたします! 南西、北西よりそれぞれAからCランクモンスターの侵攻を確認いたしました!!」

 「「「「「......。」」」」」


 一難去ってまた一難。まさにその状況だ。


 現在、僕らは皇女さんが帝都に戻ることを決意し、今後の行動方針を話し合っていたところだが、別の問題が発生したようだ。


 先程と同じく執事と思しき人が伝えにくそうな面持ちながらも、大声で現状を伝えてくれた。


 まぁここはモンスターにめっちゃ襲われやすい土地だと聞いたしな。


 にしてもAからCランクのモンスターって......。


 たしかトノサマゴブリンがCランクくらいって魔族姉妹が言ってたっけ。尤も、僕が相手したのは通常のトノサマゴブリンじゃなくて【固有錬成】持ちだったが。


 「つきましてはクリファ様に指揮をお願いしたく存じます!」

 「わかった。今向かう。......殿下、私はこれで失礼いたします」

 「ええ。ご健闘をお祈りします」


 事は一刻を争うのか、クリファさんは早々にこの場を去ってしまった。


 ご令嬢のロティアさんはおろおろとしている。おそらく本来であれば、領主の娘である彼女も父親についていって、モンスターの侵攻を対処するのだろう。


 が、その父親から皇女さんを護れと命令されたのだ。


 まだ帝都に向かうことが決まっただけで、現状、領地の事を優先すべきなのか戸惑っている感じである。


 その、こう言っちゃなんだが、この子、そんなに強く見えないんだけど、皇女さんの護衛と認識して大丈夫なのかな。


 僕が護らないといけない対象が増えると、正直僕にとって負担になるから、できればここに留まってほしい。


 「あ、あの!」

 「「「っ?!」」」


 するとそんな不安要素いっぱいなご令嬢から、父親譲りのバカでかい声が放たれた。


 そんな大声出さなくても大丈夫だよ......。


 彼女は緊張感か恥ずかしさのせいか、顔を真っ赤にして続けた。


 「わ、私、Bランクモンスターなら単騎で倒せる自信があります!! 必ずや殿下をお護りゅッ?!」


 噛んだ。


 ロティアさんは口を押さえて悶ていらっしゃる。容姿の可愛さも相まって、思わずほっこりしてしまったのは内緒だ。


 というか、Bランクモンスターを単騎でいけんのかよ。普通に強いじゃん。


 『あざといなぁ〜。こういう女に引っ掛かんなよ、鈴木』

 『童貞は可愛い仕草をされるとコロッと行きますからね』


 僕はうるさい両手に罰を与えるべく、拍手するように手のひらを合わせて叩いた。口と口がぶつかった二人は僕に文句を言ってきたが無視である。


 が、いきなり拍手した僕を不思議に思ってか、この場に居る全員が僕を見た。


 やべ。


 「あ、あはは。Bランクなんてすごいなぁーと。頼もしくてつい」


 僕は誤魔化すように頬を人差し指で掻きながら言った。


 すると話題を戻すべく、皇女さんが口を開いた。


 「そうね。頼もしいわ。......マイケル、悪いけれど、彼女の代わりにモンスターの退治をしてきてくれないかしら?」

 「......え?」


 僕は思わず間の抜けた声を出してしまった。


 え、いや、なんで?


 そんな話になるのおかしくない?


 僕のそんな疑問を受けて、皇女さんは続けた。


 「ロティアさんは私を護衛しろとクリファ卿から命令を受けたのよ? なら動きたくても動けないじゃない」

 「い、いえ、僕は皇女さんの護衛ですし。それに帝都に向かうって......」


 「すぐに行けるわけないでしょう? オリバーが支度しているけど、まだ時間はかかるわ」

 「ですが――」


 「それにロティアさんはBランク相当と言ったわ。あなた、<屍龍>を倒した自分を何級相当と思っているのかしら?」

 「......同じくBランクですかね?」


 青筋を立てた皇女さんが、テーブルの中央にあった灰皿らしき鈍器を僕に向かって投げてきた。


 僕はそれを顔面に受けて痛みに悶えた。


 こ、この暴力女め......。


 そりゃあ<屍龍>がBランクなわけないよね。


 「し、<屍龍殺し>の異名は本当だったのですか......」


 するとロティアさんは僕らの会話を聞いて、面食らった表情になっていた。


 どうやら彼女の耳にも僕の二つ名は届いていたらしい。半信半疑って感じだけど。まぁ、自分で言うのもなんだが、僕は見た目弱そうだからね。


 『ま、<屍龍>つったら文句無しでSランクモンスターだからな』

 『ええ。それも【固有錬成】持ちの疑いもありますからね』


 魔族姉妹が僕以外には聞こえないよう、例の魔法を発動させながら会話をする。


 そんな<屍龍>をあの姉者さんの魔法一発で氷漬けにしたんだ。魔族姉妹の実力も相当なものだと、あの一件から容易に窺える。


 「それに、ここにはロティアさんに加えてオリバーも居るわ。あなたが言って帰ってくるくらいの猶予はあると思うのよね」


 皇女さんは楽観的なことを口にした。


 そういえば皇女さん、お城に居るときよりもマーギンス邸に居るときの方がリラックスしている気がする。


 うーん。皇女さんから離れていいのかな......。レベッカさんは相変わらず寝たきりだし。


 『いいんじゃね? 本人がこう言ってんだからよ』

 『ですね。久しぶりに戦闘して、勘が鈍らないようにしないといけませんし』


 そういうもんなのかな。


 ......マーギンス邸に居れば皇女さんは安全か。


 「わかりました。ちゃっちゃと片付けて来ますね」

 「ん」

 「え?! 本当に行くのですか?! Aランクも居ますよ?!」


 僕はロティアさんに大丈夫ですよ、と告げてからこの場を後にした。



*****



 「クリファさん!」

 「ん? ナエドコ殿か。どうした?」


 僕は鎧姿のクリファさんが屋敷から出るところを見かけたので、そのままの勢いで声を掛けることにした。


 事情を説明すると、クリファさんは苦笑しつつ、僕が参戦することを快く受け入れてくれた。


 意外だな。残れとか言われるかと思ったのに。


 するとそんな僕の疑問を察してか、クリファさんが口を開いた。


 「意外か? なに、安心したまえ。自分で言うのも何だが、屋敷には腕利きの私兵も居る。安全と言えるだろう」

 「さいですか」


 「それに君の実力も見たいしな!」

 「はい。微力を尽くします」


 こうして僕はモンスター討伐に参戦することになった。

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