第148話 見知らぬ核
「......これを僕が取り込めと?」
『頼む』
僕は黄緑色のビー玉を手にしたまま、そう聞き返した。
医務室のベッドで寝ているレベッカさん以外の皆が僕に視線を向けている。
護衛騎士たちが僕の体質を知っているのかわからないけど、バートさんや皇女さんは真剣な面持ちで見守ってくれていた。
『レベッカの体内にある毒は常人なら十数秒で死ぬもんだ。人造魔族でも数分で死んだしな。そんな代物が今もレベッカを蝕んでいる。......事態は一刻を争う。この通りだ、頼む』
「......。」
<討神鞭>は知っているんだ。 僕が他者の核を取り込めば【固有錬成】が使えるかもしれないということを。
フォールナム邸に来るまでの道中で話していたから当然だ。
だから“転写”というスキルが宿った核を僕に渡したんだ。
『別にいいんじゃね? すげぇ【固有錬成】貰えるってことじゃん』
『それもそうですね。ただ苗床さんが懸念していることは......』
妹者さんの賛同に素直に乗れなかった姉者さんはわかっているのだろう。
今まで取り込んできた【固有錬成】は全て僕らが対峙してきた相手からだ。
でも今回は違う。レベッカさんが戦って奪った代物である。
何が言いたいのかって言うと......この核を取り込んだからと言って、必ずしも僕にとってメリットがあるわけではないということだ。
聞けば、発動条件も制限も効果範囲もわからないらしい。
<討神鞭>が“転写”だと確信を持てたのは、所有者であるレベッカさんがその身を持って体験したから。
レベッカさんのように瞬殺を心がけていない僕が戦ったのなら、色々と探るようにして戦っただろう。なぜなら勝てば僕がその力を手に入れるかもしれないから。
だから僕が取り込んだとしても、発動条件すら不明な【固有錬成】を扱えるどころか、下手したら意図せぬところ発動してしまうかもしれないんだ。
一番それが危ういのが戦闘の最中である。
なにかの拍子で条件を満たし、僕に発動の意思が無くても発動してしまったら目も当てられない。
最悪、瀕死だった敵の状態が僕や味方に飛んでくるかもしれないんだ。
だからそんな不明なことだらけで、理不尽な“転写”の【固有錬成】が宿った核を僕が取り込むわけには――
『だーいじょうぶだって!!』
「っ?!」
僕は妹者さんの一際大きな声にびっくりしてしまった。
な、なに、急に大きな声出して。
『んなビビんなよ。あーしらが核を取り込んだ後にちゃんと調整すりゃ暴発はしねぇーよ。......後は使えっか使えねぇーかだ』
妹者さんはそう言った後、黙り込んだままの僕を呼んだ。
「......。」
『鈴木』
......魔族姉妹を信じるかぁ。
「わかったよ」
僕はそう呟いた後、手にしていたビー玉みたいな核を口の中に放り込んだ。
『ほ、本当に飲み込みやがった......大丈夫か?』
<討神鞭>は僕を見上げながらそんなことを呟いた。目も口もどこにあるのかわからないけど。
「すぐに扱えるかわかりませんし、そもそもどうやって発動条件を満たせばいいのかわかりませんので、なんとも言えませんが......」
僕はそう言って皇女さんたちを見やり、言葉を続けた。
「すみませんが、対象範囲がわからない以上、できるだけこの場から離れていただけますか?」
もし転写する対象が意図せぬ人に向けられたのら冗談じゃ済まされない。
使用回数も不明な以上、極力安全に近い環境で試したいしね。
僕のそんな思いを汲み取ってか、皇女さんがこくりと頷いてから言った。
「わかったわ」
「殿下は我々がお護りするから安心してくれ」
「ナエドコ殿、頑張ってください!」
「応援してます!」
皇女さんに続いて護衛騎士三名からも協力的な返事を聞けたので、僕は彼女らがこの医務室から十分に離れたことを確認してからレベッカさんを見つめた。
ちなみにこの場に残ったのは、状態異常になる心配がない<討神鞭>だけである。
「さて、まずは何からすればいいのだろうか......」
『......すまねぇな、坊主』
するとどういう訳か、<討神鞭>が僕に謝ってきた。
「?」
『“転写”使えるってこたぁ転写する対象が必要ってことだ。俺様はそうとわかってて、坊主だけをこの場に残したまま、転写を使えって言っちまってる』
「ああ、なるほど」
<討神鞭>は僕がもし転写を使えたとしたら、その対象が使用者本人である僕に効果が及ぶことを理解した上で頼み込んでいるんだ。
主の代わりに苦しめと言っているようなもんだけど、僕には妹者さんの【固有錬成】があるから、辛いのはほんの一瞬に過ぎない。
「僕の回復力は知っているでしょう? 気にしないでください」
『......ああ』
鞭に謝られるって人生初の体験だなぁ。
そんなことを思いながら、僕はさっそく“転写”を使えるよう、色々と試すことにした。
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