閑話 狩りができるロリっ子魔族
「【死屍魔法:封殺槍】!!」
ズドッと巨大なイノシシ型モンスターの頭部に突き刺さった漆黒の槍は、メラメラと黒い炎を思わせるオーラを纏っていた。
そんな漆黒の槍は一撃必殺となり、イノシシ型モンスターの命を容易く刈り取ることに成功した。
魔法を発動させたのはルホスという鬼牙種の少女である。少女の傍らには、眠たげに欠伸をする王国騎士団総隊長のタフティスが居た。
二人は王都周辺の森林地帯に居て、目的はルホスの解体技術の取得、延いては食料調達のためだ。
「仕留めたぞ!」
「おう。んじゃ血抜きから教えてやっから、近くの川辺まで運べ」
ルホスはタフティスの指示に従ってイノシシ型モンスターに近づき、自身の何倍もの体格を誇るを軽々と持ち上げた。
無論、それが成せるのは少女が魔族であって、“鬼牙種”という種族故の先天的な膂力が備わっていたからである。
そんな彼女の額には、黒光りに輝く二本の角が生えていた。それこそが“鬼牙種”たる象徴と言えるだろう。
やがて川辺に着くと、面倒くさそうにタフティスがイノシシ型モンスターの解体の手本を披露した。
「ったく、なんで俺がガキの世話しなきゃなんねーんだよ」
悪態を吐きながら。
「仕事サボってたからだろ」
「うるせッ!! 俺はこの国を護ってやってんだ! デスクワークなんかつまんねー仕事してられっか!!」
「我がお前の上司だったらクビにする物言いだな」
無駄口を叩く巨漢の男と黒髪の少女だが、前者の手際があまりにも効率良かったため、あっという間に適切な処理が済まされていった。
結果的には完璧な処理がされたのだが、タフティスからの説明が一言も無かったのが難点である。
「ま、こんな感じだな。これくらいすりゃあ王都に持ち帰っても、そこまで血生臭い感じはしないだろ」
「ありがと。すごく教え方が下手だった」
「お前って人からクソガキって言われない?」
「お前は人からダメ人間と言われないか?」
売り言葉に買い言葉がしばらく続いた後、先に折れたのはルホスであった。ここでタフティスが折れない辺り、その精神年齢は十代少女と比較するのも烏滸がましいと言える。
それから数頭、同じようにイノシシ型モンスターをルホスが狩り、慣れない解体を実践しながら覚えていくのであった。
「っていうか、嬢ちゃんは鬼牙種だろ?」
帰路の途中、不意にタフティスがそんなことをルホスに聞いてきた。
ルホスが狩った後の解体を教えた後、タフティスは一人では持ちきれない量だと察して、少女が抱える荷物を半分ほど担いでいた。
タフティスの言う鬼牙種とは、先述したが、ルホスの額に生えた黒光りの双角が象徴とされる種族だ。
「うむ。他に鬼牙種の魔族とは会ったことないから、この黒い角だけで判断するのもどうかと思うが」
「ん? なんだ同胞と会ったことねーの?」
「物心ついた頃にはお爺ちゃんと居たから、知らない」
「ふーん?」
ルホスの祖父と言えば、<
少し前に対面したタフティスは、その時出会ったリッチ・ロードを思い出しながら適当な相槌を打った。
そして話を続ける。
「ま、それはともかく、鬼牙種っつーことは、“
「コンガ?」
ルホスは聞き覚えの無い単語を耳にして、思わず立ち止まってしまった。
タフティスもつられて立ち止まり、説明を続ける。
「あ、知らなかったのか。鬼牙種で“棍牙”を使えねーって奴は聞いたことねぇが、同胞と会ったことすらなかったら知らねぇよな」
「なんだ、そのコンガって」
首を傾げるルホスを見て、タフティスは食料となる荷物を地面にズシンと音を立てながら置いた後、空いた手のうち片手を差し伸ばして、魔法を発動した。
発動した魔法は【冷血魔法:氷壁】。高さ、横幅はタフティスの身長をやや超える程で、厚みは彼が手を伸ばせば手前から奥まで届く代物だ。
「せっかくだし、どんなもんかも自分で見た方が早いだろ」
「?」
“棍牙”とやらの説明がない上に、勝手に話を進めるタフティスにルホスは目の前の巨漢が何を言っているのか全く理解ができなかった。
タフティスの言い方では、まるでルホスにも“棍牙”を扱える、と言っているような発言だからだ。
しかしそのことと発動した【氷壁】に何の関連性があるかは不明のままである。
「“棍牙”ってのは、俺の知る限り、鬼牙種しか扱えねぇ種族魔法よ」
「種族魔法?」
「お? それも知らねぇの? 魔族だと他に吸血鬼種とか、獣族の獅子種とか有名なんだが、その種族にしか使えん魔法のことよ」
「そ、そんなものがあったのか......」
少女は自身の血でしか扱えない魔法があると知って、少しばかり興奮して喜んでしまった。
「それで?! どうやったら使えるの?!」
「さすがに人間種の俺がわかるようなことじゃねぇと思うけど、踏ん張ったら出るんじゃね?」
「......。」
ルホスはそれを聞いて、棍牙とやらが排泄物のように思えてしまった。
「まぁ、でも魔法なんて種族由来だろうと大した差はねぇだろ。基本は一緒のはずだ」
「と言うと?」
「魔力込めて、イメージと具現化をすんのよ」
ルホスはそれを聞いて思い出した。
(そう言えば、お爺ちゃんも同じことを言ってた気がする)
血の繋がりが無い祖父であるビスコロラッチから、口を酸っぱくして言い聞かされていた内容は、魔法の発動に必要なことは現実化するために必要な“
そして続けて、難しい魔法陣をいくら描いたって、それは“着火剤”程度にしかならず、本当に大切なのは“よく燃やせる”という現象、ということも言っていたことを。
今も祖父が言っていた話の意味を、全くと言っていいほど理解していないルホスは、タフティスの言葉からなんとなくでそれを思い出した。
「魔力は、まぁ、自分の限界くらいは知っているから、扱う分に関しては問題無い」
「じゃあイメージと具現化だな」
「それって難しいことなのか?」
ルホスが今まで使ってきた魔法のほとんどは、すべて祖父であるビスコロラッチから教わったものばかりである。そのため、未知の魔法をイメージして行使するという過程を体験したことがない。
そんなルホスであるからこそ、想像するということ自体は難しいと思えなかった。
おそらく難しいと思われるのはその先、具現化だろう。
「まぁ、今の嬢ちゃんにとっては全く新しい魔法作れって言っているようなもんだからな」
「我にはその棍牙とやらがどういったものかすら想像つかん」
「そこで、だ。この氷壁を俺が削って形だけでも作ってみんのよ」
「彫刻師みたいに削ってか?」
「おう。つっても大昔に一度見た程度だから、鮮明に覚えているわけでもないがな。ちょっと待ってろ」
「うん」
ルホスが数歩下がったことを確認したタフティスは、腰に携えていた解体用のナイフを取り出した。
そのナイフで迷うこと無く、先程生成した氷壁をガリガリと削っていく。
やがて待つこと十数分程度で完成されたそれは、高さこそ氷壁生成時のままであったが、横幅、厚みは大剣のそれであった。
ただその刀身は歪なもので、ギザギザしていると見るべきか、刃の腹もまるで巨翼を思わせるように、幾重にも連なる羽からなっているように見えた。
ルホスはこれを最初目にした時、大きな剣と感想を抱いたのだが、そうさせたのは歪な刀身の先端、大の成人男性でも両手には収まりきらない長さの柄の存在があったからである。
「これが......棍牙なのか?」
「おう。結構上手く作れたと思うぜ」
「武器なの?」
「ああ。ただ棍牙ってのは
鬼牙種なら皆が同じ棍牙を使うと思っていたルホスは、それを聞いて自身の棍牙は目の前の氷の彫刻よりも小さい物がいいと思った。
しかしこの武器を同じ鬼牙種である自身が使えたとしても、武器を持って戦うと言った経験の無いルホスにとっては、そこまで欲しいと言えるものではなかった。
むしろ、遠距離から攻撃する戦法の方が自分には合っている、とさえ思っている少女である。
「なんかパッと来ないな。我はもっと派手な魔法を――」
「練習したらどうだ? 嬢ちゃんが強くなれば、あの坊主も助かんだろ」
「......暇だし、練習するか」
斯くして、現金な少女は棍牙を扱えるように特訓を始めることにしたのであった。
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