第119話 VS人造魔族
「ザコ少年君は休んでいても大丈夫だぞ?」
「え。じゃあ、お願い――」
『紛いなりにも魔族と戦える良い機会だぞ!』
『ええ、ここは挑むべきです』
アーレスさんの気遣いを無下にするほど大切なことじゃないと思うんだ......。
現在、デロロイト領地の安宿に居た僕らだが、三体の人造魔族に襲撃されて応戦するところであった。
一体は空で巨翼を羽ばたかせていて、鳥人間みたいな見た目をしている。夜間帯で暗いからわかりづらいが、灰色の羽毛を纏っていた。
一体は筋肉質な体格で、腕が左右に二本ずつある。こちらはゴリラみたいに黒くてゴワゴワした毛並みだった。
最後の一体は他二体より一回りほど大きく、蜥蜴のような肉厚の尻尾をゆらりゆらりと揺らしている。体表も、ドラゴンゾンビを思わせる深緑色で、鎧のように纏っている鱗が頑丈さを語っていた。
どいつもこいつも初見の僕じゃ、人造魔族か普通の魔族なのかわからない見た目をしている。
「なら相手を選ばしてやる」
「弱そうなのが良いです」
『でしたら、あの蜥蜴魔族がいいです』
『だな!』
あの中で一番強そうに見えるのは僕だけかな。
が、そんなことを口にしている暇は無かった。一斉にこちらへ飛びかかってきた人造魔族たちが、僕らを殺そうと活気盛んなのである。
僕は魔族姉妹が宣言した通り、蜥蜴魔族の相手をすることにした。
とりあえず向かってきた奴に、妹者さんが生成してくれた【紅焔魔法:閃焼刃】で応戦するが、奴の腕がガキンとそれを防いで刃を通さない。
硬ッ!!
『苗床さん、右から来ます!』
「っ?!」
敵さんは見るからに弱そうな僕を真っ先に狙ったのか、飛行していた鳥魔族が僕に向かって真横からミサイルのように飛んできた。
が、
「私が相手だ」
飛んできた鳥魔族を、割って入ってきたアーレスさんが突き出した片足で制止させた。
壁に向かって突っ込んだかのように、鳥魔族の顔面がべシャリと歪むが、次の瞬間にはアーレスさんが再び放つ一蹴りで遥か後方へ吹っ飛ばされてしまった。
そんな彼女の手には、腕が四本ある魔族の頭があった。
正確にはアイアンクロー。ギブ、ギブと言わんばかりに、既に捕えられていたゴリラ魔族がその四本の腕で彼女の腕を握ったり、殴ったりして抗戦していた。
なんというか、アーレスさんがその気になれば、今すぐにでもゴリラ魔族の頭はスクラップにされそう。
『集中しろッ! 来んぞッ!!』
「っ?!」
余裕は一切無いけど、アーレスさんの様子を眺めていた僕は、妹者さんの大声で意識を再び眼前の蜥蜴魔族に向ける。
蜥蜴魔族は太い尻尾を振り回して、僕に横薙ぎを決めようとするが、残念、僕の近くにはまだアーレスさんが居る。
彼女の身体能力を妹者さんの【固有錬成】でコピれば、一瞬で決着が――
「がはッ?!」
僕は受け止めようとした右腕に、まるで大型トラックにでも突っ込まれたかのような衝撃を喰らい、派手に飛んでいった。
周辺の壁や建物へ盛大に突っ込んでいったのだが、まだ意識は強く保てていた。
「いてて......。ちょ、妹者さん、アーレスさんの身体能力をちゃんとコピった?!」
『は? これは練習も兼ねた戦いだぞ。あの女の力を借りるわけねぇーだろ』
「そんなぁ!」
『ぐちぐちうるせぇーな! あーしらで十分だ! ほら、行くぞ!』
瓦礫がパラパラと落ちてくる中、僕は妹者さんに怒られながら身を起こして、前進した。
どうやら突っ込んだ場所はどこかの倉庫だったらしく、備蓄と思しき食料品が、ちらほらと棚に積まれているのが見えた。
諸々の弁償はブレット男爵でお願いしますね......。
『苗床さん』
「あいさ」
僕は姉者さんが生成してくれた特性鉄鎖を両手で張るようにして持った。両腕に何重にもして巻き付けたそれは可動域を限定してしまうが、今回はこれが一種の戦法となる。
『アァァアァアアアア!!』
敵は雄叫びを上げながら襲いかかってきた。瞬く間に距離を詰めてきた奴は、回転運動を利用した尾の攻撃をしかけてくるつもりである。
さて、この両腕の可動域を限定する戦法だが、もちろん鍵となるのは姉者さんの鉄鎖だ。
その鉄鎖はいつもの姉者さんが吐き出すものと比べて非常に極細。
ワイヤーくらい細いんじゃなかろうか。
その極細鉄鎖に十分魔力を流して強度を上げた代物は、
『今だッ!!』
「おっけ!!」
敵のぶっとい尻尾を切断する鋼鉄の糸と化した。
ブシュッと、まるで豆腐にピンと張った糸が通ったかのようだ。
肉厚な奴の尾は僕の強化された肉体と、両腕で張ったワイヤー鉄鎖によっていとも容易く切り離された。
ぶんぶんと不規則に回転しながら、奴の尻尾は重量感のある音を立てて落下していった。
『アァァアァアァァァ!!』
激痛による叫びか、腹の底から耳を劈くような咆哮を放つ蜥蜴魔族はのたうち回っていた。
「すごいね」
『関心している場合ですか。ほら、次行きますよ』
両腕に巻き付けた鉄鎖を解いて、僕は次の行動に出ようとしたが、蜥蜴魔族の切断された先から勢いよくデュルンと音を立てて、失ったはずの尻尾が生えてきていた。
その際に、大量の黒い粘液が飛び散っていて、見るからに爬虫類特有のぬめり気を出しているのを目にする。
気色悪......。
再生を終えた蜥蜴魔族はまたも僕に襲いかかってきた。
ただ流石に学習したのか、回転力を利用しての尻尾攻撃をやめて、今度はその体格に物言わせた近接戦である。
「サポートお願い」
『りょ』
『任せてください』
僕は【凍結魔法:双氷刃】を生成して、魔族姉妹にサポートを頼んだ。氷の短剣を両手に、眼前に迫る蜥蜴魔族と応戦するつもりである。
僕が駆け始めたと同時に、魔族姉妹がそれぞれ宙に魔法陣を描いて攻撃魔法を発動させる。
妹者さんは【紅焔魔法:火球砲】を、【冷血魔法:
僕は拙いながらも近接戦で挑み、二人が作ってくれた敵の隙に、一線、二線と斬撃を繰り出していた。
が、
「っ?!」
ガキン。
そんな甲高い音と共に、氷の短剣は折れた。
交戦を続けて何本目だろうか、敵の鱗を纏った箇所を斬りつけると、そう多くない回数で武器が駄目になる。
折っては作り、折っては作りで大したダメージを与えられていない。
それは魔族姉妹も同じで、発動させた火球や氷棘がまるで効いていないのだから困ったものである。
同じく【螺旋氷槍】のような高威力魔法でも同じで、正直、戦況は膠着状態と言っても過言じゃない。
というのも、蜥蜴魔族も特段攻撃力が高い訳でもないし、それを補える素早さや戦闘パターンが無いのだ。
あっても毒を纏った爪とか牙による攻撃で、妹者さんのスキルの前ではほぼ無力に等しいのである。
『ちッ。ここは一旦距離を置いて、【紅焔魔法:
「わかった!」
妹者さんの指示を受け、できた隙を突いて一旦距離を置いた僕は、彼女が生成してくれた【打炎鎚】に武器を持ち替える。
大振りな一撃になるけど、火力はピカイチだし、何より動きがそこまで速くない相手だ。当てることは難しいことじゃない。
「らぁぁあああああ!!」
そう思って力一杯踏み込み、前で構えている蜥蜴魔族に振りかぶった【打炎鎚】を叩きつける。
打撃と同時に爆発が生み出され、その破壊力が奴を襲う。
「『『っ?!』』」
しかしそれでも敵は無傷のままだった。
隙ができた僕を見逃すこと無く、蜥蜴魔族の鋭い爪が下から掬い上げるようにして、僕に斬撃を与えた。
透かさず妹者さんが【紅焔魔法:爆散砲】を使って、僕を後方に緊急離脱させる。
そして傷が完治した後、僕は【打炎鎚】が直撃しても平然としている蜥蜴魔族の姿に目を疑った。
『おいおい。おかしーだろ。あのでっけぇ<屍龍>でも吹っ飛んだんだぞ』
『こうなると、あとは切断力に特化した【烈火魔法:
なんだ、今の一撃は最初に奴の尻尾を姉者さんの鉄鎖で切断したときよりも絶対に威力は上だったぞ。
次の戦法としては姉者さんが言った通り、【抜熱鎖】となる。
が、ただでさえ【打炎鎚】の爆発で、少なからず周辺に被害を出してしまった。今更だけど、これ以上暴れるのもなぁ......。
ただ幸いにも安宿は町の端に位置するから、民家に被害は出ていない。
夜間帯に戦闘の轟音が響いているので、それで起こしてしまったのなら申し訳ないが、できればもっと遠くに非難してほしいところだ。
元々、デロロイト領地内にあるここの町は人口が千にも満たない。そのほとんどの人が町の中心部に居住しているのだから、騒ぎを聞きつけてこちらに来るまでまだ時間はあるはず。
『とりあえず苗床さんは【螺旋氷槍】を放って、注意を向かせてください。私と妹者で【抜熱鎖】を使います』
「了解」
『あいよ』
ズシン、ズシンとこちらに近づいてくる蜥蜴野郎に向けて、僕は生成した螺旋状の氷槍が放った。
貫通力に特化した【螺旋氷槍】が直撃しても、【打炎鎚】の威力よりも劣ってしまうのでおそらく防がれるはず。
元々の目的は注意を逸らすだけだから、それで十分だ。
が、
『ッ!!』
蜥蜴魔族は身を捩って【螺旋氷槍】を回避した。あまりの速さに驚いたのか、体勢を崩して片膝を地面につけた。
なんだ? 当たっても無傷だろうに。
が、敵が見せた隙は隙なので、今のうちに魔族姉妹が呼吸を合わせて魔法を放つ。
『【烈火魔法:抜熱鎖】ッ!!』
構えは抜刀。
勢いよく放たれた灼熱の鉄鎖は、鞭を思わせるしなりを見せて白き閃光と化す。
周囲の建造物を、まるで熱したナイフでバターを切りつけたかのように切断していき、一瞬で眼前の敵を捉えた。
しかし、
「なッ?!」
ガキンと甲高い音が弾けるようにして聞こえた。
完全に振り切った一撃が、切断力に特化した【抜熱鎖】が敵を真っ二つにせず弾かれたのだ。
トノサマゴースト戦では強力な【魔法結界】で防がれた。でもそれは【魔法結界】というバリアがあったからだ。
今の敵は魔法なんて使っちゃいない。生身でそれを受けて無傷だったのだ。
その光景に僕は呆然と立ち尽くしてしまった。
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