第118話 三体の人造魔族
「そんなことがあったのか......。よく無事に帰ってこれたな」
意外にも、アーレスさんから思いやりのある返事が来たことで、僕は目をぱちくりとさせてしまった。
追っている闇組織の連中の住処に侵入できたのに、大した情報を持って帰ってこなかった僕を叱らない。ただ無事に帰ってきたことを関心した様子だ。
現在、デロロイト領地のとある宿にてアーレスさんと合流した僕は、今日一日の調査結果を彼女に報告していた。
「変なブレスレットを着けられちゃいましたけど」
「みたいだな。ザコ少年君のことだから、既に腕を切り離すなりして試行錯誤してみたのだろう?」
「はい。見ての通り、失敗に終わっていますが」
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元々、そう簡単には尻尾を掴ませない組織だから、一度や二度、惜しむことが起こっても焦燥する気は無いみたい。
そんな彼女は僕を見て、なにやら葛藤した様子になる。
「アーレスさんならこのブレスレットを破壊することはできますか?」
「無論だ。が、せっかくの手掛かりになりそうな物を失うのは気が引ける」
「それもそうですよね。特にこれといって身体に異常は無いみたいですし、この件は保留にしますか」
「一先ずな」
ということで、このブレスレットは放置することになった。普通に魔法は使えるし、身体に負荷が掛かっているわけでもないしね。
このブレスレットを通して、闇組織の連中に盗聴とかされていたら困るのだが、アーレスさんによればその心配は無いとのこと。なんでも、彼女の【固有錬成】の前では、隠蔽系の工作は無意味らしい。
アーレスさんの【固有錬成】ってなんだろう。聞いた感じ、常時発動型っぽいけど。今度教えてくれるかわからないけど聞いてみよ。
本日の彼女はここ、デロロイト領地北部と西部を中心に、各地を回って調べていたみたいだけど、どこもそれらしい施設や拠点が無かったみたい。
大きな進歩としては、疑いが掛けられている男爵が姿を晦ましたことで、言い逃れができないほど闇組織との関わりがあると確信を得られたことかな。
無論、正式に皇女さんの命を受けてやってきたのだから、後は戻ってきた男爵に揺さぶりでもかけて自白させれば終わりだろう。戻ってくるかわからないけど。
既に男爵から命令書にサインを貰ってるしね。これで行方を晦ましたままじゃ、黒と証明しているようなもんだ。
「期待は薄いが、明日は南部と東部だな」
「今日みたいに手分けしますか?」
「いや、ザコ少年君を一人にするのは危険だろう。また今日みたいなことが起こったとして、次も無事に帰ってこれるとは限らない」
「ああ、たしかに」
正直、この領地内のどこを調査しても、奴らの拠点に辿り着ける気はしないけど、とりあえず行動してみないと次の方針も定かにならな―――
「『『っ?!』』」
瞬間、ドガンと爆発音と共に、この部屋の窓辺付近の壁が破壊され、その衝撃が僕を壁際へふっ飛ばした。
なんだッ?!
『敵襲かッ?!』
「そのようだな」
妹者さんの大声に淡々と答えたのは、僕と同じくこの部屋に居たアーレスさんだった。腕を組んで落ち着いた様子だから、この状況を予測していたのだろうか。それか敵の接近に気づいていたかだろう。
でも、
「まだこの宿には他の人がッ!!」
「安心しろ。この宿に居る連中は――」
アーレスさんの言葉を遮って、またも轟音と共に部屋の両側の壁が破壊される。その破壊は一度や二度だけじゃない。連続してこの安宿に浴びせられたことで、建物は崩壊の兆しを見せた。
床から足に伝わってくる振動が、今すぐここから脱出しないといけない、と僕を焦らせる。
なんなんだよ、急に!!
「出るぞ」
「え、あ、ちょ!!」
アーレスさんに首根っこ掴まれた僕は、彼女によって集中砲火を食らっている安宿から飛び立った。無論、初撃で外から破壊されて、外界が顕になった場所からである。
すげ、一飛びで30メートルくらいあるぞ。
着地後、僕のそんな空気を読まない関心を他所に、アーレスさんは続けた。
「我々があの宿に辿り着いた頃には、すでに一般利用者は居なかった。いや、入れ替わっていた、と言うべきだろうな」
「はい?」
「見ろ」
百聞は一見にしかず。そう言わんばかりに、彼女は僕の視線を宿に向けるよう催促した。
「な、なんだアレ?!」
『『......。』』
見れば、ほぼ半壊した宿の中央、僕らが居た部屋の両隣の部屋から、こちらを見下ろす二体のモンスターが居た。
いや、モンスターというにはやや人間のような肉体をしている。
それに二体だけじゃない。空中に成人男性程の大きさを誇る翼を羽ばたかせていた生物も居る。
計三体の何かが僕らの前に居た。
飛んでいる一体は鳥のような巨翼を持つが、その部分以外は人間と同じく頭や足を有している。
他二体はそいつと違って両腕が存在しているが、うち一体は腕が左右に二本ずつと四本あった。
最後の一体は他二体と違って蜥蜴の尻尾みたいな太いのが生えていた。
まず人じゃないその三体に、僕は呆然と立ち尽くしてしまった。
「見た目だけで言えば、魔族だろうな」
「えッ?!」
ま、魔族って、魔族姉妹たちと同じ種族の?!
っていうか、なんで魔族?!
『......ありゃ魔族の身体を使っただけの操り人形だな』
『ええ。今、私たちが追っている闇組織が保有する、“宿体”と“核”を合成させて代物でしょう』
僕の戸惑いに、魔族姉妹は冷静に分析した結果を言ってみせた。
マジか。アレが俗に言う、“人造魔族”って奴か。
なんで僕らを襲撃してきたのか、なんて今更なことは言わない。ブレット男爵が不利な状況になった今、ここで僕らを始末する気なんだろう。
「ふふ、まさかあちらから手を出してくれるとはな」
隣の赤髪の美女は、不敵な笑みを浮かべながらポキポキと指を鳴らしている。
やる気満々じゃないですか。
『身体を作り変えられるとは情けねぇー。同じ魔族として安らかに寝かしてやっかぁー』
『本当ですよ。人間なんかに良いように身体を弄られるなんて情けない』
「僕に寄生している君らが言う?」
「ふッ。久しぶりに暴れるか」
こうして僕らは襲撃者に立ち向かうことになったのであった。
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