第105話 甘すぎるご褒美?
「只今戻りましたー」
『だぁーいまぁー』
帝国皇女さん、並びに帝国騎士団長から離れることができた僕は、既に戻っているであろうアーレスさんと合流すべく、世話になっている安宿へ戻ってきた。
時間帯はとっくに日付が変わって深夜である。
ドラゴンゾンビとの長期戦でくたくたの僕だが、アーレスさんが既にこの場に居るのであれば、色々と早めに報告と情報共有をしなければならない。
「戻ったか――」
「わー! スー君だ! お久ぁ〜」
「え、んぐ?!」
『『っ?!』』
帰ってきて早々、部屋の中にアーレスさんの存在を確認して、合流できたことと彼女の無事に安堵した僕だが、次の瞬間、横から柔らかな突撃を食らう羽目になる。
視界に広がる白色の肌。呼吸ができないほどの締めつけ。しかし両の頬に伝わるなんとも言えないしっとりとした柔らかな感触が、その苦痛を和らげてくれる。
しっかりと重みのあるそれは、ある種の果実のように良い匂いがする。
一瞬でわかったのは、決してそれが自然の香り由来のものではないということ。人工物の香水だろう。咽せ返るほどきつくは無いが、鼻の奥にいつまでも残る爽やかさがある。
なにこれ。
あ、いや!! これは僕が愛してやまないもの!!
「おっぱい?!」
「ふふ。大きな胸は好きかしら〜」
『てめぇ離れろこらぁああ!!』
『例の魔法を使っているので、痴女には聞こえませんよ、妹者』
例の魔法、とは安定の僕以外の他人には魔族姉妹の声が聞こえないという便利魔法である。まぁ、なぜかアーレスさんには盗聴されてしまうが。
今はそんなことはどうでもいい!
誰だがわからないけど、豊かな双丘に童貞の顔を埋めてくれてありがとう。
声からしても美女に違いないから抵抗なんてする気がない。
お金を払う気さえ生じてしまう感触だ。
「あらあら。拷問してきた相手に抵抗しないなんて優しいのねぇ。それとも相当飢えているのかしら?」
“拷問してきた相手”?
「あ」
僕はここで目を覚ます。
今も尚、顔を埋めている谷間から、視線を上に向ければ......
「れ、レベッカさん......」
「あら、覚えていてくれたの? 嬉しいわぁ。もっとハグしちゃう」
キルされちゃう......。
そう聞こえてしまった僕は、湧き上がるムラムラを一瞬で萎えさせるのであった。
*****
「レベッカ。話が進まん。ザコ少年君から離れろ」
「なになにぃ。もしかしてアーちゃんもスー君に抱き着きたいの?」
「......。」
<赫蛇のレベッカ>。
傭兵業界トップレベルの実力者で、戦力は王国騎士団第一部隊副隊長であるアーレスさんに匹敵する化け物。
年齢もアーレスさんと同じように見え、少なくとも二十代半ばと思しきその容姿は、世の男性陣にとって最も色っぽく感じてしまう年頃だろう。また安定のタイトドレスと美女たらしめる格好も手伝って、色気がすごいのなんの。
そんな彼女とは以前に戦いあった仲である。一方的に僕が殺されただけなんだけどね。
アーレスさんとレベッカさんは旧知の仲と聞いていたが、なぜこの場に後者が居るのか全く検討がつかない僕である。
「あの、なぜここにレベッカさんが?」
「スー君、前屈みになってるけど、大丈夫?」
『勃ったな、こいつ』
『ええ、美女に抱き着かれてあっさりと勃ちましたね、この人』
う、うるさい。疲れマラも手伝って、びっくり勃起しちゃっただけだ。
僕は未だに抱き着いてくるレベッカさんを他所に、彼女に訳を聞いても話が進まないので、アーレスさんに目をやった。
が、僕の顔両サイドがレベッカさんの双丘に挟まれていることで、首を横に回しただけだと視界は依然として真っ暗のままである。
「おい」
「はいはい」
「あ......」
再びアーレスさんから催促の声を受けたことで、レベッカさんは胸の中に収めている僕を開放した。
その際、僕の口から残念そうな声が漏れたことで、右手から重たい一撃を腹部に食らう羽目になる。
口の中が酸っぱくなったのは言うまでもない。
妹者さんにはなんの影響も無かったんだから別にいいじゃんね。なんなの。
そんな僕を他所に、いつの間にかアーレスさんが沸かしてくれた湯で、僕の分のコーヒーを淹れてくれたみたいだ。
め、珍しいな。
そんなこと彼女に言ったら、冷たい目で熱々のそれを掛けられるに違いない。僕にそういった趣味や性癖は無いので、もちろんありがたく頂戴するだけである。
「ご苦労だった」
「ありがとうございます」
「アーちゃんが人にコーヒーを淹れてあげるって珍しいわね」
「......偶々だ」
「さ、さいですか」
「ふふ、そういうことにしといてあげる」
いや、アーレスさんに他意は無いと思いますけどね。
それにこれくらいのご褒美(?)はあってもいいと思う。勝てるかわからなかったドラゴンゾンビを倒した功績が、僕にはあるんだから。
僕は赤髪の美女が淹れてくれたコーヒーを啜った。ズズッと。
「っ?!」
そして一瞬吹き出しそうになったが、なんとか堪えてみせた。
あまりの熱さからではない。
甘いのだ。
砂糖やガムシロップが大半を占めているのではないかと思うほど非常に甘いのだ。
うへぇ、なにこれ......。
しかし僕はそれを啜り続けた。まさか淹れてくれたコーヒーに文句など言えるはずもない。
それが普段、他人には厳しい印象のあるアーレスさんが淹れてくれたコーヒーなら尚更だ。
「オ、オイシイデス」
「だろう」
「スー君は優しいのね......」
色々と察して同情の眼差しを僕に向けるレベッカさん。
この人はアーレスさんが淹れたコーヒーが、常人が決して口にするようなものではないと知っていたのだろう。
『そろそろ事の経緯について話そーぜ』
『疲れたので、早く済ませて寝たいです』
「それで、なぜアーレスさんとレベッカさんがここに?」
「それはだな――」
斯くして僕らは、互いの情報を交換し合うのであった。
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