第五章 帝都で活躍できますか?
第102話 発覚と絶望
「あら? そこに居るのは......マイケルじゃない?!」
「......ども、マイケルです」
現在、下半身氷漬けの僕は危機的状況に陥っている。
なんと、再会したくなかった面々と再会してしまったのだ。
「......ご無事だったんですね。良かったです」
「ええ、あなたのおかげよ。礼を言うわ」
その面々とやらはロトルさんを筆頭に、女執事のバートさん、護衛の騎士三名である。
そして何度数えても五人なのだ。
オーディーさんの話によれば、ロトルさん一行は全員で七名。なので欠員二名。死んじゃった説が濃厚なのである。
うへぇ、罪悪感からか、吐きたくなってきた。
すると先程、ロトルさんに盛大に蹴っ飛ばされて、顔面から着地したオーディーさんが鼻を擦りながらこちらへやってきた。
「いてて......。酷いなぁ。せっかく助けに来たのに、蹴っ飛ばすなんてさ」
「遅い! おかげで死にかけたわ! この役立たず!」
「どいひー」
「帰ったら、あんたクビにするから!」
帝国騎士団長のオーディーさんに対してここまで言うってことは、このご令嬢、ただのお貴族様の娘じゃないのか。帝国にとって相当な重鎮の子かなんかだろう。
とてもじゃないが、この子たちが乗っていた質素な馬車やら服装を見たら、そうは思えないが。
「マイケルが助けてくれなかったら死んでたわ!」
「“マイケル”? あれ、ナエドコじゃないの?」
「“ナエドコ”?」
おっと。更にマズいことになってきたぞ。
ロトルさんにはマイケルと名乗り、オーディーさんには苗床と名乗ってしまった差異が、ここに来て自身の罪を重ねる羽目になってしまった。
それに偽名もいいとこだ。
僕の本当の名前は鈴木◯◯であって、マイケルでも苗床でもない。
「おやおや? 俺の時とじゃ名乗る名前を変えているみたいだね。なんでかな〜」
「......。」
オーディーさんが意地の悪い目で僕を見てくる。
“マイケル=苗床”、じゃあ通じないのは明らかだ。
「馬鹿ね! 偽名を使うってことは、私たちに内緒で活動しているってことよ!」
僕に迫るオーディーさんを押し退けて、ロトルさんがフォローに入ってきてくれた。
フォローという解釈であっているのだろうか、これから掘り下げられる気がしてしょうがない。
早くこの場から逃げ出したいのに、未だに下半身が氷漬けのままで身動きが取れないよ......。
「なんで偽名? もしかして闇組織の一員とか?」
「んなわけないでしょ。お姫様を助ける闇組織の一員ってなに」
「それも陰謀の一つと考えれば、あり得なくない話です」
「しかしマイケ――ナエドコ?殿に助けられたのは事実。事実を蔑ろにして、可能性の話で対応を決めるのもどうかと」
「はい。どちらかと言えば、素性を隠す理由はこの魔法の痕跡で一目瞭然でしょう」
「ですね。これだけの大規模な魔法が使えるとなると、偽名も納得できます」
なんか話し合いを始めてるんだけど......。
僕、下半身氷漬けなんですよね......。
姉者さんが先程から鉄鎖で魔力を吸収しているにも関わらず、氷が減っているようには見えない。
さすが氷属性最上級魔法。ちくしょう。
「ってことはさ、やっぱあそこのドラゴンゾンビ、この少年が倒したってこと?」
「あ! それよ! マイケル! あの巨大な氷の中に居るのって、さっきのドラゴンよね?!」
どうしよ......。できれば内緒にしたいんだけど、隠し通せる自信と根拠が無い。
『もうバラしちゃっていいですよ』
『逆に下手に手を出してこないよう、牽制を込めたれ』
え、ええー。
ってか、普通に話しちゃってるし。オーディーさんの能力が不明なのに、話しちゃっていいんか。
まぁ、魔族姉妹から許可が下りたことだし、暴露するか。
とりあえず、あの魔法でお貴族様一行を巻き込まなかったのなら気は軽い。
「......はい。僕がやりました」
「「「「おお!」」」」
「「......。」」
僕の返事を受けて、驚くご令嬢と護衛騎士たち。
一方で女執事さんと騎士団長さんは、無言で僕に視線を向けてくる。
う、疑ってるのかな? 一応、僕の中にいる姉者さんがやったから、嘘じゃないんだけど......。
「あの、このことはできれば......」
「わかってるわよ。命の恩人なんだから、口外しないと誓うわ」
おおー! 話のわかる貴族で良かった!
僕のラノベ知識的に、大半の貴族は面倒くさそうな性格の持ち主という印象があったけど、ロトルさんはそんなこと無いみたい。
「でも悪いけど、ナエドコは一度俺のとこで預かるよ?」
「え゛」
「事情聴取しないとね。いくらドラゴンゾンビから殿下を助けたからって、どういった事情で行動していたかくらいは聞かないと」
マジすか。直帰できないんすか。
っていうか、今なんて?
“殿下”?
誰が?
「あの、殿下とは......」
「あら? まだ名乗ってなかったかしら?」
「無礼者! この方を何方と心得る――」
と、女執事さんが割って入ってきたが、主がそれを片手で制して口を開く。
「私は帝国皇女、ロトル・ヴィクトリア・ボロンよ!」
まーじか。
僕は内心で白目をむくのであった。
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