第89話 ホウレンソウしない仲間

 「破壊力が足らないなら――


 不敵な笑みを浮かべながら僕はそう呟いた。


 なぜ“手数に切り替える”ではなく、”手数を追加する”なのだろうか。


 普通に勝ちの薄そうな長期戦になるからだ。【紅焔魔法:双炎刃】でトノサマゴーストに張り付いてもジリ貧な気がする。


 なら高火力の一撃をお見舞いすればいいだけ。


 それも【紅焔魔法:打炎鎚だえんづち】に加える形で。


 『お、おい。無理しなくてもいーんだぞ。退くか?』


 「まさか。......姉者さん。鉄鎖って、基本魔力を伴っていれば、なんでも付与できる?」


 『え、あ、はい。やろうと思えば龍紋鬼灯○もできるかと』


 そういうのいいから。でも後で試そう。


 「よし。なら姉者さん、いつもの鉄鎖を【打炎鎚】の全長分お願い。妹者さんは鉄鎖を内包するように、【打炎鎚】を」


 『は? 何がしてーんだよ』


 『......まさか』


 なんと、僕が全部言わなくても姉者さんは察しちゃったらしい。


 別に隠しているわけじゃないけど、できっこないとか、するなとか言われそうだから伝えたくなかったんだよね。


 勝手に妹者さんの魔法を使うことになるし。


 『苗床さん、そんな芸当できると思います?』


 「さぁ? でも魔闘回路の使用権限は僕ら互角なんでしょ? ならまぁ、できるんじゃない?」


 『あ? さっきからなんの話......って、まさかおい』


 マジか。一番気づかれたくない本人に気づかれちゃったよ。


 『おま、や、やるならやるで、一応、あたしの一部なんだから言えよ......』


 「ご、ごめん。でも結局は“発動する”か、“不発になる”かの二択だし」


 とまぁ、先程から漠然とした会話を繰り広げているが、結果どうなるかはお楽しみである。


 姉者さんは溜息を尽きながらも、その口で鉄鎖を生成。相変わらずの吐き声に苦笑しつつ、僕は【打炎鎚】ほどの長さに調整された鉄鎖を両手に握った。


 「妹者さん」


 『あいよ』


 合図を送ったことで妹者さんにより、鉄鎖を包み込むにようにして【打炎鎚】が生成された。見た目は今までのと全く一緒である。


 最後の仕上げをして準備は整うのだが、当然、敵さんは悠長に待ってくれない。


 トノサマゴーストが放った雷撃が不規則な軌道で僕らを襲う。


 しかし、姉者さんが【氷壁】を生成してくれたことにより、これを完璧に防御。


 が、戦闘において一手二手と考えることが重要なのは言うまでもなく、トノサマゴーストも次の攻撃に移った。


 強化魔法で切れ味を増した大鎌が眼前に迫った。


 「迎え撃つよ!」


 『ワンチャン死にますがね』


 『相打ち覚悟なんて漢じゃねぇの!!』


 生き返るとわかってるから、安心して死ねるというもの。


 さて、ここで姉者さんお手性の鉄鎖の特質に注目したい。


 ほぼ無限に生み出せるこの鉄鎖は、魔力を吸収する以外に、魔力を流し込んで多用することができる。


 例えばさっき使ってみせた【抜熱鎖ばねっさ】。鉄鎖を極限まで熱し、切断力に特化した魔法である。


 今からする攻撃も用途は同じで、【打炎鎚】の中にある鉄鎖が鍵だ。そしてその鉄鎖の魅力は――


 「【烈火魔法:鎖状爆焼】ッ!!」


 ――魔力を際限無く込められるということ。


 「っ?!」


 大鎌が僕の肩辺りに斬撃を入れたと同時に、僕も一撃を敵の魔法結界にぶつけた。敵はそのまま僕を両断しようとしたのだが、それは叶わない。


 なぜなら、


 「らぁぁあああぁあああ!!!」


 『っ?!』


 威力を激増させた【打炎鎚】が、魔法結果をまるでガラス細工にハンマーでも叩き込んだかのような粉砕が起こったからだ。


 火力増大の秘密はもちろん【鎖状爆焼】。


 鉄鎖の素子一つ一つが爆弾となり、それが【抜熱鎖】の打撃と合わせて、全て同時に炸裂した。


 鉄鎖に魔力をこれでもかというくらい込めて威力を上げたので、瞬間火力は通常の【打炎鎚】以上である。まるで飛んできたボールをバットで思いっきり打ち返した感じだった。


 僕は半身を両断されかけたが、先の一撃がトノサマゴーストに直撃したことにより、魔法行使者である僕は後方へ勢いよくふっ飛ばされるに留まる。


 またあまりにも威力が高かったのか、炎でできた大鎚を握っていた両手はズタボロだった。腕は肉が裂けて骨が垣間見える。グチャグチャな様が激痛となって僕を襲った。


 『【固有錬成:祝福調和】......上手くいったな!!』


 「いっつぅ。おかげさまでね」


 『面白いくらい吹っ飛びましたよ』


 全回復した僕は、両腕に【打炎鎚】を抱えたまま、トノサマゴーストへ歩み寄る。


 勢いよく弾け飛んだトノサマゴーストと思しきモンスターは原形を留めていなかった。


 あの強固な魔法結界でも防ぎ切れなかった衝撃により、手足の損傷、あらぬ方向に曲がっていたりと、まぁ醜くなったものである。


 が、突如、瞬く間にその姿が霧散していった。


 一応ゴーストだから、倒されたらこんな最期を迎えるのかな。


 トノサマゴーストが消失した後、残ったのは核だけである。ここが洞窟だからか、光を通しにくい性質を感じさせるその核は、黒に黒を重ねたような色合いだった。


 「今回は【固有錬成】所持者じゃなかったから、僕が摂り込む必要は無いよね?」


 『ああ。冒険者ギルドで買い取ってもらおうぜ』


 『かなり稼げますよ!』


 普段、冷静な姉者さんがすぴすぴと鼻息を荒くしてトノサマゴーストの核を見上げた。


 どこに鼻息を荒くする鼻や、見上げる目があるのかわからないけど。


 「さて、アーレスさんに追いつかないと」


 こうしてトノサマゴーストに勝利した僕らは、さらにダンジョンの奥へ潜っていくのであった。


 もちろん、未だ激痛に悶えるサイクロプスに止めを刺してからである。



*****



 「あ、アーレスさん」


 「来たか。遅いぞ」


 僕らを置いて先に進んだ人が何を......。


 アーレスさんを探しつつ、ダンジョンの奥へ突き進んで行った僕らだが、それも行き止まりと言わんばかりに巨大な石造りの門が立ち塞がっていた。


 道中、何度かモンスターと遭遇したけど、トノサマゴーストほどの戦闘力じゃなかったので、あっけなく勝ち進んで今に至る。


 『この門......もしかしてもうボス部屋か』


 『みたいですね。一般的にはこの奥にダンジョンボスが居るはずですが』


 おお、マジか。


 ダンジョンボスってどんなんだろ。


 ああー、でもギルドの受付嬢さんが、ダンジョンコアがむき出しになってるだけって言ってたっけ。現状、ボスモンスターも居ないみたいだから、この巨大な門の奥は寂しいんだろうなぁ。


 それに収穫は得てるし、無理にモンスターを狩る必要ないんだよね。


 「入るぞ」


 と言ったアーレスさんは片手で巨大な門を軽々と開けて歩んでいった。......すごいね。


 「......聞いた話通り、何もなさそうですね」


 『みてーだなー』


 ボス部屋と思しき広間に足を踏み入れた僕らは、辺りを見渡して少しばかりの残念そうな声を漏らす。


 事前に聞いていたからわかってたけど、ボス部屋なのにボスモンスターらしきモンスターは居ない。溜め込まれた財宝やレアな魔法具も無い。すっからかんだ。


 今まで通りの殺風景な景色が続いて、だだっ広い空間に来ただけ。


 『ん? あれは......』


 が、少し進んだ先に、金色に輝く宝玉が壁に埋め込まれてあるのを見つけた。陽の光なんて差し込まないこのダンジョンに、その宝玉だけが輝きを辺りに放っていた。


 初めて見たけど、これがアレか。


 「あれがここのダンジョンコアのようだな」


 『まんま金玉だな』


 『実際の睾丸は金色じゃないそうですがね』


 「む? 金色じゃないのか?」


 『らしーぜ? あーしも詳しくは知らねーけど』


 『普通に考えて、人体に金ピカのモノがあるわけないでしょう』


 あの、いくら敵が居ないにしても、女性がそういったことを口にするのはどうかと思います。


 会話に入れない僕は三人を無視して奥にあるダンジョンコアに近づいた。


 「ギルドで得た情報と一緒ですね。だとしたらこのダンジョン、モンスターも大して生み出してないので、本当に名前だけの洞窟じゃないですか」


 『どーする? ダンジョンコア壊すか?』


 『そんなことしたら帝国に目をつけられますよ。一応、収入源の一つでもあるんですから』


 「......。」


 しかしダンジョンコア以外、本当に何も無い。


 僕はアーレスさんがダンジョンコアをじっと見つめたまま立っていたので、声を掛けることにした。


 が、


 「アーレスさ――」


 『ガキンッ』


 なにやら不穏な音が聞こえてきたんですけど、気のせいですよね。


 しかしアーレスさんが握っている剣の切先が突き刺さっていたのを目にする。


 金色に光り輝く宝玉に。


 もっと言えば、壊したらこの国に睨まれちゃう代物に。


 「『『......。』』」


 なにしちゃってるのこの人......。

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