第88話 火力は男のロマン?

 『【紅焔魔法:打炎鎚だえんづち】......使いづらいが、使いこなせたら火力はピカイチよ』


 僕は両手にある緋色の大鎚に圧巻していた。


 シンプルに“熱い”のと“重い”。


 言うまでもなく、【打炎鎚】は火属性から成る武器だ。まだ僕の魔法耐性が追いついていないのか、柄を握るとジューと両の手を焼いている。


 が今までの戦いのせいか、痛みはあまり感じない。というより、意識を自身の両手に置くのではなく、常に敵へ向けているからだろう。


 大きさも僕の身長を優に超えている。今はサイクロプスの身体能力を、妹者さんの【祝福調和】でコピってるからなんとか持ててるけど......。


 「これは......すごいね」


 『あたぼーよ!』


 『ほら、来ますよ』


 先の大鎌の一撃を防げても、敵は戦意を喪失することなく攻撃を続けてくる。


 が、今度は大鎌による攻撃ではなかった。


 『......。』


 「っ?!」


 トノサマゴーストの真っ白な手がこちらに差し伸ばされ、次の瞬間、青光りの閃電が僕を目掛けて放たれる。


 魔法結界使えるんだから、他の魔法も使えるのか!


 『【冷血魔法:氷壁】』


 しかし姉者さんが分厚い氷の壁を地面から生成したことで、雷撃を見事に防いだ。


 氷の壁の向こうから、直撃したことによる轟音が辺りに響き渡った。いつぞやのドS美女ことレベッカさんを思わせる一撃である。


 『苗床さん、このまま【打炎鎚】で【氷壁】をふっ飛ばしてください』


 「りょう......かいッ!!」


 瞬時に姉者さんの意図を察した僕は大鎚を振りかぶって、目の前の氷の壁に狙いを定める。


 このまま氷の壁を放置するのも、死角を作っちゃっていけないという理由もあるが、何よりもコンボが素晴らしいのである。


 氷壁を砕いた際に生じる氷塊の数々を相手にぶつけるためだ。


 防御用の壁からの散弾攻撃。


 僕の大好物コンボである。


 「どりゃッ!!」


 喰らえ、と思いながら振り抜いた瞬間、さっきの閃電に負けず劣らずの爆撃音が生まれる。


 また爆弾でも爆ぜたのかってくらいの爆風で、こっちが吹き飛ばされそうになった。


 威力やばッ!!


 『......。』


 刹那に砕かれた氷壁は、大小様々な氷塊となってトノサマゴーストを襲う。


 直線上に位置する敵は特に慌てること無く、ご自慢の耐久性を誇る魔法結界を生成。氷塊はそれに当たって砕かれる。


 ま、んなことわかってたけど。


 「もう一発ッ!!」


 氷塊による散弾攻撃はただの撹乱目的。


 敵との距離を、弾丸とかした氷塊を利用して一気に縮める。


 死角を縫うように進んだ先、トノサマゴーストの頭上まで飛んだ僕は、未だ手にしている【打炎鎚】で奴を包む魔法結界に目掛けて振り下ろした。


 硬いバリアに当たったと同時に大爆発がダンジョン内に起こった。


 そしてその爆破威力で、僕は後方へ飛ばされる。


 『『やったか?!』』


 「それやめようねぇ?!」


 フラグ立てんな!!


 でも、まず間違いなく過去一の破壊力。全力で大鎚を叩きつけたのはベストを尽くせたと言っても良い。


 現に未だに土埃は晴れてないけど、爆発の勢いでふっ飛ばされた僕の居る地点付近まで、クレーターや地面にひびが入っている。


 ああ、でもフラグを立てたからか――


 『......。』


 「『『......。』』」


 まだ魔法結界が消えないなぁ。


 かなりの高威力だったけど、さすがに絶命にまで追いやれる自信は無かったので、予想の範疇っちゃ範疇だ。


 かったいなぁ。嫌になっちゃうわ。


 「あれ?」


 『お』


 『ん?』


 僕らが一緒になって奴の魔法結界を注視していると、あることに気づく。


 「ひび......かな?」


 『ですね』


 魔法結界の一部にひびが入っていた。


 しかし数秒足らずで、ひびは消えて無くなった。どうやら簡単に修復できちゃうらしい。


 『かッー!! 結構、威力には自信あったんだけどなぁー!!』


 『まぁ、トノサマクラスですからね』


 「あの感じだと、あともう一発やれば割れそう」


 『やめとけやめとけ。んな時間くれるわけねーだろ』


 『ええ。やはり一撃で壊すのが一番です』


 「うーん、どうしたものか......」


 火力は申し分ないんだけど、単発だからなぁ。連撃にまで繋げられないし。


 などと、呑気に作戦立てている僕たちだから、


 『......。』


 「やばっ?!」


 トノサマゴーストの接近を用意に許してしまった。


 自身の頭上に待ち構える大鎌が、僕を縦に真っ二つにしようと振り下ろされる。ギリギリ目で追えていた僕は、手にしていた【打炎鎚】で防ごうとした。


 が、しかし、


 「『『っ?!』』」


 ザシュッ、と僕の肩から股下まで一直線に刃が通過した。


 「がはッ!」


 『【冷血魔法:氷棘ひょうきょく】ッ!!』


 『鈴木ッ! 大丈夫か?!』


 斬られた箇所から激しい血飛沫が出たが、すぐさま妹者さんの【固有錬成】で全回復される。


 その際、姉者さんが機転を利かせて、地面から鋭利な氷塊を出して敵に牽制を入れてくれた。


 一瞬だけ生じた痛みを堪え、僕は握っている【打炎鎚】に目をやった。


 敵の斬撃を【打炎鎚】で防いだ箇所、柄が両断されていたことに気づく。僕は【打炎鎚】を地に捨てた。


 「......切れ味増した的な?」


 『だろーな。よく見たら奴の大鎌、強化魔法が付与されてやがる』


 『困りましたね。あんな切断力じゃ、【氷壁】も怪しいです』


 マジか。僕の防衛手段がゼロになったぞ。こっからはいつも通り、モンスター相手に我慢比べである。


 トノサマゴーストを見れば、何が面白いのか、獲物の僕らに嘲笑うような青碧の双眼を向けてくる。


 ああいう魔法を得意とするモンスターに、姉者さんの【固有錬成:鉄鎖生成】を活用できれば、こちらが有利な状況になるんだろうけど、如何せんあんなすばしっこいと鉄鎖を巻き付けられない。


 ちなみに、妹者さんに例の初見殺し、【烈火魔法:火逆光めくらまし】はどうかと提案したが、ゴーストは魔力感知ができるそうなので、視覚を奪っても無駄とのこと。


 ますます魔法結界をどうにかしないといけなくなったぞ。


 「とりあえず、こちらも攻めて隙を突くしかなさそうだ、ね!」


 僕は【打炎鎚】を生成して、構えを取った。


 『あ、あたしの魔法も普通に使えちゃうのかよ......』


 「? あ、ほんとだ」


 『動体視力の良さといい、ほんと謎が多い身体ですね』


 動体視力は知らないけど、謎の多い身体にしたのは君たちだからね。


 僕は呆れた様子の二人を他所に、今度はこちらから攻めることにした。


 『......。』


 「うおぉぉおおお!!」


 雄叫びと共に打ち放った一撃がトノサマゴーストの強固な魔法結界を襲う。


 しかし相手も学んだのか、数回攻撃を食らっても自身の魔法結界が壊れないと悟ってカウンターを狙ってくる。


 魔法結界を張ったまま大鎌や魔法による攻撃ができるらしく、結界の内側から攻撃し放題である。


 当然、至近距離から放たれた魔法の数々は僕の身体に命中。でも即死するような箇所だけは避けているので、なんとか部位破壊されつつも応戦していた。


 ああ、なんかほんっと痛覚どっか行ったな。全然痛くないもん。


 つうか扱いにくッ。この大鎚、マジで連撃できない。


 ハンマー素人にも程がある僕が使いこなせるわけなかったんだ。


 もう【双炎刃】とかに切り替えて、威力より手数で削ろうかな......。


 「あ」


 僕は間の抜けた声を出してしまった。


 と、同時にトノサマゴーストが片手から放った火球に飲み込まれ、後方にふっ飛ばされる。


 全身丸焦げだったが、例のスキルで全回復。


 『おいおい。急にどうした? 大丈夫か?』


 『ちょっと。せっかく距離を縮められたのに何してるんですか』


 突然、動きを止めてしまった僕に心配と叱責を浴びせる魔族姉妹である。


 が、僕は面白い案を思いついちゃって、二人を他所につい笑ってしまった。そんな僕を見上げた両手が、今度は二人揃ってガチの心配をしてきた。


 『す、鈴木?』


 『な、苗床さん?』


 妹者さんは何度も僕に【祝福調和】を。


 姉者さんはペチペチと僕の頬を叩く。


 そして至って正常な僕は呟いた。

 

 「ククッ。そっか。破壊力が足らないなら――


 さ、第二ラウンドだ。バチクソ盛り上がってきた。

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