第67話 髪が赤いのは返り血のせい?
「「「「「「「「「「あ゛?」」」」」」」」」」
「『『......。』』」
現在、僕らは敵地に侵入しました。アーレスさんが本部から持ち出したあの“鍵”と思われる腕を使って。
いや、思われるっていうか、玄関ドアを条件と仮定して、さっそくこの腕を使用したんだけど、普通に敵地に来れたな......。
そう思えるのは単純に、玄関ドアを内側から開けたら普通はお外の景色が視界いっぱいに広がるはずなんだけど、実際は“鍵”の能力によって強面の男共が居る景色に移り変わってしまったのだ。
なにこれ。トラウマになりそう。皆武器持って僕らを睨んでるし。
場所は......どこかの倉庫? ぱっと見で前の世界、地球に居た頃に見慣れた光景でもある体育館を連想したが、ここは全くと言っていいほど日差しもクソもない。
少しジメジメしてるし、男共のせいでむさ苦しい。
「まさか......敵か?」
「はぁ? 二人で? しかもガキ連れてんぞ」
「ああ、それにブレットさんからは敵に【合鍵】が渡ったなんて知らされてねぇぞ?」
「おい、誰だ! ここに出張娼婦を呼んだの!」
「さぁな! でもめっちゃ
「俺が一発目行くわ! 溜まってたんだよなぁ!」
「俺は連れてきたガキを食うわぁー」
なんか、あっちがワイワイしてるんですが。
最後の人、アーレスさんじゃなくて僕を犯すとか、とんでもないこと口走っているんですが。回れ右したいのですが。
第一騎士団副隊長のアーレスさんは、連中から自分をデリヘル扱いされても、変わらずに敵を睨んでいる。そして担がれていた僕は、やっと彼女から解放されて棒立ちになっていた。
まぁ、なんだ。とりあえず敵地には侵入できたことに変わりない。
「ザコ少年君。帰りも必要になるだろうから、この腕を厳重に保管しておいてくれ」
「え、僕が?」
「ああ。私は暴れる」
「はぁ」
つまり実験成功。
「お、おい! あの女、なんか腕持ってんぞ?!」
「アレって......【合鍵】じゃねぇか!」
「も、もしかしてアイツら――」
「私は名乗る程の者でもない。名乗る気が無ければ、名乗る必要も無いだろう。とりあえず......首は貰うぞ」
――そんでもって作戦開始である。
「「「え?」」」
今しがた僕の隣に居たアーレスさんが突如姿を消した。同時に次のアーレスさんを目にしたのは、あちらに居る男性陣のド真ん中だ。
はっや。
「てッ、敵しゅ――」
と、誰かが叫ぼうとするが、時既に遅し。
アーレスさんの回し蹴りにより、まるで達磨落としの積み木を小突き飛ばされたかのように、男の頭が吹っ飛んでいった。
うわぁ。
『あの女騎士......。遠征んとき、駄々こねたガキンチョをおんぶするのに、あの女の身体能力をコピってわかったが、ありゃあ人間辞めてんぞ』
「そ、そこまで言う?」
『ええ。身体能力を強化する魔法すら使っていない素の力でアレです』
魔族姉妹が真面目な顔して、男共十人以上を相手にしているアーレスさんを見ている。
“素の力”か......。僕とは大違いだな。比べることが
というか、あの女騎士さん素手じゃん。そうだよね、出勤日のように鎧も無ければ、剣すら携えていないよね。よくそれでここに来ようと思ったよな。
もう完全に僕要らないよね。
「ぐはッ!」
「なッ?! なんだこの女ッ! 武器も持たじゅッ?!」
「とりあえず距離を――ひゅッ」
一撃必殺。
アーレスさんから放たれる拳も蹴りも全て敵の急所を突いていて、攻撃を食らった強面の男たちは武器の有無に関わらず絶命していった。
“殺戮”――という表現が正しいな。
「なんの騒ぎだッ?!」
「おいおいおいおい! なんじゃこりゃあ!」
「おめぇら! 敵襲だぞ!」
「殺せッ!!」
最初に対峙した十人程の男共は既にアーレスさんの手によって全員殺されていて、その騒ぎを聞きつけたおかわりたちが扉の向こうからぞろぞろとやってきた。
倍の数来たなぁ......。
「おい、ザコ少年君」
「は、はひ! なんでしょう?!」
「......私が奴らを片っ端から処刑していくから、貴様はここがどこだが突き止めろ」
返り血を頬に浴びたアーレスさんが僕にそう命じた。なんというか、美女の顔が台無しだ。そして僕にはちゃんと役目があるらしい。じゃなきゃ連れてこないか。
ここがどこなのか......か。そうだよね、奴らの言う【合鍵】っていうのが、僕らが“鍵”と呼んでいた、この腕のことなんだろう。コレを使わないでこの場に来るには、場所を特定して直接乗り込む他無い。
とりあえず、探知系に特化している姉者さんに聞いてみるか。
「姉者さん、ここがどこだかわかりそう?」
『この施設、外側に認識阻害の魔法でも施しているのか、この位置からじゃ特定できませんね』
『まぁ、王都じゃねぇってことだけはわかるな』
え、王都じゃないの?! というかなんでわかるの?
僕はなんで王都じゃないのか二人に聞いた。
『魔素の濃度が土地によってちげぇーんだよ』
「ああ、魔素。ラノベ知識だけど、魔法を使うのに必要なエネルギーなんでしょ。それを使える力が魔力なんだよね」
『ラノベ知識も役に立つものですね』
うん。陰キャで良かった。
いや、ラノベが陰キャの読み物みたいに言って悪いけどさ。大抵の人はそんな認識だよ。ほら、チャラ男が魔素なんか知るはずもないじゃん。どっちかって言うと“マゾ”について詳しそうじゃん。そんなもんさ。
『苗床さん、とりあえず
「え、そんなことできるの?」
『簡単な術式はな。さっきのガキンチョが持ってたあの不気味な箱ほど高レベルな認識阻害術式は無理だが』
なるほど。とりあえず解析できるかどうか調べるためにも、この施設を覆っている結界みたいなのを目指して行動しないといけないのか。
聞けば、姉者さんの言う鉄鎖の解析機能はいつも通り魔力を吸収して、その際に術式に込められた情報を取得するのだとか。まったく便利なゲロスキルである。
僕はこのことをアーレスさんに伝えようとするが、アーレスさんは僕に背を向けて片手で「行け」と指示を出していた。なので僕はさっそく近くの出入り口目掛けて走った。
元居た場所を抜けると通路に出た。奥行きこそはここからじゃ遠すぎてわからないが、道幅は五メートル以上あるかなり広めの通路である。
また案の定、窓が無く日差しすら無いので、中の明かりは壁に掛けてある松明だけだ。一応、視界の良好具合に問題は無さそう。
「一本道みたいだし、とりあえず真っ直ぐ進も―――」
「あらあら。広間が騒がしいから足を運んでみたら、これまた可愛い子が迷い込んできたものね」
......。
敵と鉢合わせしちゃったよ。両手を見ていた僕は通路の向こうから女性の声が聞こえてきたので、そちらに視線を移した。
さっき辺りを見渡したときは居なかったはずなのになぁ。
「っ?!」
「?」
そして僕は絶句した。敵と思しき女性が......
「なんて美しい......」
「え? ああ、ありがと」
美女なのだ。なんてこった。これじゃあ戦えないよ。今までのムサい男共と違うじゃん。人生初の女性の敵だよ。
僕の前に居る女性はブロンドヘアーの巨乳美女だ。格好は場違いにも濃淡のある赤みがかった茶色のドレスである。
......敵だよね? ここに居るってことは。
『あの女ッ! 鈴木に【魅了魔法】かけやがって!』
『かけてません。苗床さんの拭いきれない
「......。」
やっぱ戦うのか......。
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