第63話 現状の把握と睡眠は大切で

 「帰ったぞ」


 「っ?! お、おかえりなさい、アーレスさん! それで?! やはりあの首は総隊長だったのですか?!」


 「待て。先に朝食が先だ」


 「い、いや、でも――」


 「デザ――朝食はなんだ?」


 「......。」


 食い意地優先する状況じゃないよね。こんなときでもデザートって......。


 現在、ヤバメノ山から王都に戻ってきた僕らはアーレス宅にて朝食とは言えない時間帯に朝食を摂ろうとしていた。


 つい先程まで、アーレスさんが先の広間での騒動――タフティスさんの生首が晒されていたことについて、本部の人たちと話し合っていたようだ。聞けば、タフティスさんは闇組織の連中に殺されたらしい。その闇組織とは以前、ルホスちゃんを奴隷にした連中だ。


 また今は国民の安心と安全の確保を優先するため、騎士団がこの街及び近隣地域で常時警戒しているとのこと。


 「まぁ、食事をしながら順を追って説明する。今後の方針についてもだ」


 「わ、わかりました」


 「やっとご飯が食べられるッ!!」


 『ったく。クソ女騎士を待つって鈴木がうるせぇーから腹が減っちまったよ』


 『全くです』


 なんで僕が怒られるのかな......。それに「僕はいいから先食べてて」って言ったし。


 別にタフティスさんと何か関わりがあったとかじゃない。街中でちょっと話したくらい。だから正直、敵に恨みというほどの復讐の念は抱いてない。それでも、騎士団総隊長である人が闇組織に殺されたんだ。


 決して僕たちだって他人事ではない。ルホスちゃんのこともあるし、<幻の牡牛ファントム・ブル>の幹部を殺しちゃったからね。


 そんなことを考えながら僕はいただきますをして食事を始める。


 「まず、クソ――タフティスの死に関してだが、断じて気に病むことはない」


 「え?」


 「奴の死は闇組織によってもたらされた。が、悲観する必要は無い。この国の戦力面は大分削がれたがな」


 「......アーレスさんは、辛くないんですか?」


 「事態は辛い辛くないの話ではない。......まぁ、喧しかった奴が消えたんだ。嬉しさ半分といったところだろう」


 「......そう、ですか」


 仲間の死を重く受け取っていないのか、食事中ということもあって、普段のヘルムを被っていないアーレスさんのなんとも言えない表情を見た僕は、なんて声をかければいいのか思い浮かばなかった。


 強がり......なんだろうな、きっと。


 僕がそんなことを考えていると、近くに居たルホスちゃんが心配そうな顔つきで聞いてきた。


 「す、スズキはあまり自分と関わりが無い奴が死んでも哀しくなるのか?」


 「......どうだろうね。基本は損得で考えている薄情な僕だけど、少なくとも今回の件は動揺するよ」


 僕はルホスちゃんの頭を優しく撫でた。


 タフティスさんの人間性も戦闘力も知らない。でもこの国のトップで、実力があってこその騎士団総隊長なんだ。僕の目の前に居る、第一騎士団副隊長よりも地位の高いタフティスさんが負けたんだ。


 つまり、敵には少なくともタフティスさん以上の戦力を有する存在が居るってことだ。


 「また先程報告があったが、タフティスと敵の交戦は王都から離れた森林地帯で勃発したらしい。時間帯は昨夜、月が上り始めた頃。現場では既に鎮火されていたらしいが、辺り一帯を焼き尽くした痕跡があったと調査から判明した。おそらく敵によるものだろう」


 「なるほど」


 『ってことは、その敵があーしと同じ火属性特化か』


 「あ! この野菜炒め、我が嫌いなピーマヌが入ってる!――むぐッ?!」


 『あなたは黙って食べなさい。あーあー、お口汚れてますよ』


 ルホスちゃん、空気読んで。


 ちなみにピーマヌとは地球で言うところのピーマンである。それが嫌いな彼女は僕に抗議の眼差しを向けるが、口元にソースかなんかの汚れを付けていたので恐ろしさ半減である。それを見た姉者さんが仕方ない子ですねと言って、台布巾でその汚れを拭いた。


 いや、台布巾。口元拭く奴じゃないからな、それ。


 無論、拭かれた側は僕の左手に怒っていた。


 「以前にも話した通り、昨日の日没までは王都周辺に騎士団による大規模な結界が張られていた。結界解除後、すぐに戦闘が始まったと見ている。まだ調査中ということもあって詳細は把握できていないが、おそらく敵は既にこの国に侵入している」


 「そうですか。これから僕たちはどうすれば......」


 そう言って、僕は続きを言わなかった。


 アーレスさんとの約束では、彼女が僕らを護衛する代わりに、僕らも調査の協力をすることだ。が、事が事なだけに、第一騎士団副隊長であるアーレスさんが、今までのように僕らの護衛をする余裕があるかわからない。


 “余裕”......と僕が個人的に思っているだけで、実際は僕らの護衛も重要な任務なのかもしれない。今の生活からではそう思えないんだけど。


 「変わらないな。以前にも言ったが、ザコ少年君たちの護衛は敵からの接触を期待しているところにある。だから基本的には引き続きこのままだ」


 「好きに動いていいと?」


 「ああ。それに十中八九、報復のためにあちらから来るだろう」


 そうだよな。幹部一人殺しちゃったもんなぁ。


 生きてないかな、あの人。......生きてないよな。妹者さんが『家庭用の打ち上げ花火みたいに首が飛んでいったぞ!』って爆笑してたもんな。どこも笑えんけど。


 生首だけ残ってても生き返れんよな、普通。僕じゃなきゃ無理だね。


 「アーレスさんは......騎士団総隊長を倒した敵に勝てますか?」


 「それを聞いてどうする? 答えにならないが、私はクソティスに勝ったことがない」


 「......。」


 うわぁ。じゃあ嫌な言い方するけど、僕らの護衛をするアーレスさんが、タフティスさんを倒した敵なら負けるかもしれないって? 間接的な捉え方だけど、万が一もあるってことだけは覚えておこ。


 「おかわり!」


 「......君は相変わらずだね」


 『今から身構えたって仕方ねぇーよ』


 『ミノタウロス戦では油断するなと言いましたが、休めるときに休むことも大切です。切り替えができないようでは、この先やっていけませんよ?』


 両手からアドバイスを貰った僕は、二人がご飯を食べ終わった後にスプーンを持ってスープを飲み始めた。


 ちなみに外食以外は基本、魔族姉妹が僕より先にご飯を食べるという主人もクソも無い順番になる。これに対していつだか異議を唱えた僕だが、『『レディーファースト』』と言って聞いてくれなかった。


 まぁ、自分の両手を女性と認識したくはないが、二人を差し置いて食べるというのも気が引けるので、黙って譲る次第になった。


 「今日は遠征で疲れているだろうから一旦寝ると良い。この後、私はもう一度本部に行ってくる」


 「そうします。気をつけてくださいね」


 「で、朝食の口直しにだな......」


 「わかってます。冷蔵庫にさっき作ったプリン入れてますから、後で召し上がってください」


 「うむ。ザコ少年君は戦闘がまるで駄目だが、料理やスイーツ作りは完璧だな」


 若干だが、僕の護衛を続ける目的がそれなんじゃないかって思い始めてます。


 そんな僕に対して、隣でご飯を食べているルホスちゃんが何か言いにくそうに言ってきた。


 「す、スズキは今日ベッドで寝るんだよな?」


 「え。あ、うん。久しぶりに王都に戻ってこれたし、もう野宿じゃないしね。昼過ぎまで寝るつもり」


 『まぁーた一緒に寝るのかよ。甘えん坊だなぁー』


 『小学生ですからね。日本ではこんな少女と寝たらアウトですよ』


 「あ、ああ甘えてない! そういう二人だってスズキと一緒じゃん!」


 『私たちは離れたくても離れられないんです。なにが嬉しくてこんなイカ臭い男と四六時中一緒に居なきゃいけないんですか』


 「ひっど。一応、僕の身体なんですけど。もうちょっと主人をね――」


 『あたしはなんも言ってないだろーがッ!!』


 あ、ごめん。


 そういえば最近は妹者さんからの毒舌が前より減ってきた気がする。改心でもしたのだろうか。もうちょっと可愛くなってくれないかな、と無駄なことを願った僕であった。


 また僕らはアーレス宅のお風呂を借りて一休みしてから、例のごとく一緒のベッドで寝た。余談だが、あまりにも遠征で疲れていたせいか、起きたのは次の日の朝である。

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