第62話 厚意は必ずしも伝わるとは限らない
「あ! オス姉のこと忘れてた!」
「『『?』』」
“オス”なのに“姉”なの? もしかしてそっち系?
現在、僕らはヤバメノ深山を離れ、王都へ戻っている最中である。と言っても、王都まであと数時間で着くといった距離に居る。
メンバーは変わらず、僕とルホスちゃんとアーレスさんだ。あとついでに魔族姉妹も。三人旅に見えて、実は五人居るので賑やかな旅路になった。
そんな帰り道の途中で、ルホスちゃんが僕らの知らない名前を今思い出したと言わんばかりに口にした。
『誰だ? “オス姉”って』
「おじいちゃんから貰った我のネックレス型の【
『でぃッ、【
「なにそれ」
「【
“
“
初耳だな。魔族姉妹からも聞いたこと無いし。
あ、いや、そういえば以前、闇奴隷商の刺客で僕らが宿で襲われたとき、その敵が黒いハンドアックスを吸収して、『これが人工的に創られた【
『【
『まぁ、要は常識を覆す代物ってことよ』
「ふーん? 僕らは持ってないけど、今後は敵が持っているかもしれないと頭の片隅に留めておいた方がいいね」
なんか左手がすっごい興奮しているんですけど。ちょっと怖いな......。
「過去に実際、闇奴隷商の刺客に襲われたときに使われたのだろう? たしか人工的に創った【
『......私にはあの黒いハンドアックスが【
「それで? その【
僕は話題のきっかけを作ったルホスちゃんに聞き直した。
彼女は「うーん」と唸り声を上げて悩んだ表情になった。
「我が闇奴隷商に捕まったときに離れ離れになっちゃった」
『あなた馬鹿ですかッ?!』
「ひどッ?!」
『“
「そ、それはさすがに......。もう
『闇奴隷商を潰す目的が一つ増えましたね』
やる気を出してくれるのは嬉しいんだけど、普段の姉者さんではまず見せないだろうこの興奮具合。早口だったし、もしかしてオタクだったりして。
『鈴木。見ての通り、姉者は“
「あ、そう」
『昔っから上物からゴミみたいな武具を集めてはキモい笑みを浮かべてたからな』
『キモいとはなんですか、キモいとは』と姉者さんが抗議してくるが、特に彼女の趣味に関して肯定も否定もする気は無いので放っておこう。
「回収はされたと思うけど、【
『“【
「今度は何?」
「【
すご! 意思のある武器を持ち歩くのはちょっと気が引けるけど、コミュニケーションが取れるのってすごい憧れる!
ゼ◯の使い魔とか、ソ◯ルイーターとか全巻制覇した僕にとってはもはやロマンの域だよ。
『しかしなんでまたそんな貴重なもんを......』
『そもそも【
「その、タイミングが悪かったというか、なんというか」
「“タイミング”?」
「闇奴隷商の奴らに襲われたとき、ちょうど手放してて」
『ネックレス型なんですよね? なんで肌から離すのです? それでは魔力共有ができなくて、武具単体では何もできないでしょう?』
「水浴び中で全裸だったとか? いだッ?!」
『お前それセクハラだからな! 鈴木がロリコンだったら殺す!』
「た、単純にオス姉と喧嘩してて......。怒ってネックレスを外して、地面に叩きつけたときに襲われた」
「『『......。』』」
武具と喧嘩するってなにさ。いや、漫画・ラノベ知識がある僕からしたら想像できなくはないけど、なんでそんな状況に......。
聞けば姉者さんが言う、【
例えば人型に変身して行動もできるらしい。でもそれには所有者の魔力が多少なりとも必要らしくて、その所有者と接していないと魔力が受け取れなくて何もできないんだって。
しかし武具と喧嘩したときに襲われるとは、なんとも言えない虚しさがあるな。
「なんで喧嘩しちゃったの?」
「なんかうるさくて......。おじいちゃんが昔からオス姉に我の世話役を任せていて、我が城を出て森で遊んでいたときも胸元からああだこうだ言ってくるから、煩わしくて投げ捨てちゃった」
『なんて罰当たりな......』
『そこんとこはちゃんと子供してるよな』
ネックレス型の武具だから、胸元から声が聞こえるのか。なんかちょっと嫌だな、ゼロ距離からのお説教って。僕の両手は常に騒がしいから若干気持ちがわかる。
「そのネックレス型の【
横で僕らの話を聞いてるアーレスさんは、ルホスちゃんとオス姉さんとの喧嘩よりも、その武具の能力を知りたいらしい。やはり誰もが注目する兵器なだけあって、秘められた能力を知りたくなるようだ。
というか、ルホスちゃんを保護してからだいぶ経つけど、そんな自分を叱ってくれるような大切な存在を普通忘れる? ルホスちゃんがオス姉さんのことを相当嫌いだったのか、それとも薄情だったのか......。
「......。」
「どうした?」
「これ、言っていいのかな? 皆のこと信用してるしてないとかじゃなくて、オス姉との約束があるし」
そりゃあそうか。そんな大事な能力を安易に人に教えて良いはずないもんね。契約と言わないあたり、口約束程度のものなんだろうけど。
僕はめちゃくちゃ知りたいな。だってすっごい気になるじゃん。特殊能力のある武器だよ? しかも姉者さんの話によれば、かなりレアな代物らしく、今後手に入るどころかお目にかかる機会すら少ない武具なんだ。そんなの気にならない方がどうかしてる。
ルホスちゃんをなんとか説得して聞くしかあるまい。
あるまい!
「ふっ。約束があるなら仕方ない。これ以上は聞かん」
『おや、子供には甘い騎士さんですね。まぁ、私もルホスちゃんの意思を尊重します』
『あーしも。【
なんてこった。味方になりそうな三人が傍観者に徹したぞ。
姉者さんはオタクなんだろッ?! それでいいの?!
アーレスさんもそれでいいんすか?! 騎士なら情報収集はきちんとしましょうよ!
「す、スズキもそれでいい?」
「......。」
ルホスちゃんが一人だけ黙りな僕を下から覗き込むような形で聞いてくる。
『おいおい。ここで返事しないって......ちょっと見損なったぞ』
『小学生の女の子が口約束でも守りたいって言ってるのに、なんてクズい......』
「強要罪......とまではいかないが、女子児童への思いやりを欠かすのはいただけないな。これが法の穴か」
いや、どこも法の穴ではないだろ。
僕の下心に気づいたのか、傍観者だった三人が僕を敵視し出した。
「そ、そんなに知りたいなら、まぁ、スズキならいいのかな? 我がオス姉に謝ればいいだけだし」
「やめて! 世間体が思ったより大ダメージなんだ! お願いだからこれ以上僕を攻撃しないでくれ!」
「我は攻撃していないのだが......」
「その優しさが攻撃なんだって!」
仕方ない、諦めるか。それにネックレス型の武具って言ってたから、もしかしたらアーマーズ云々で利用されるより、利用法がわからなければ、どっかの貴族に装飾品として既に売りつけているのかもしれない。
だったら直近で見つける機会なんてそうないよね。オス姉さんにとっては酷な話だけど。
「オス姉、元気にしてるかな......」
「『『......。』』」
いや、そんな目で空を見上げるなら、もっと必死になって探そうとしなよ。親しい仲じゃないのかよ。
そう言いたくても言わない僕たちであった。
******
『やっと帰ってこれたわー』
「ね。外傷一つもない遠征だったのにすごく疲れたよ」
「これで美味しいご飯が食べられる!」
『広間の方、なんか騒がしいですね?』
「ああ、気になるな。もしかしたら噂の自虐ネタ大道芸をやっているのかもしれない」
それ僕です。あんた知らないのか。部下のザックさんは僕の大ファンだぞ......ぐすん。
日付が変わって早朝、王都に到着した僕らはなにやら人集りができている王都の広間に向かうことにした。いつも僕が大道芸をやっている所なだけあって、僕自身も興味が湧いてしまう。
広間に近づくに連れて、人集りの騒がしさが和気藹々としたものじゃなくて不穏な雰囲気であることがわかった。
ん? 大道芸じゃないのかな? 僕は目の前の集団の様子が明らかに変だったので、ルホスちゃんにはその場で待ってもらい、先に僕とアーレスさんで見に行くことにした。あの人混みの中に彼女を連れて行きたくないからだ。
広間に集まる人達をかき分けて、僕らは目にする。
それは―――
「『『っ?!』』」
「こいつは......」
――――騎士団総隊長のタフティスさんの首だった。
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