第51話 ストーカー行為はせめて美女にしてほしい
「あの、猫探しは?」
「んなことしてる場合かよ。状況理解しろ。入れる穴がわからない童貞みたいな顔すんな」
『呑気な童貞さんですね』
『童貞は決して悪じゃないぞ。鈴木』
いや、童貞に善悪ねぇだろ。むしろイジってくるあんたらが悪だわ。
現在、ギルドのクエストを受けた僕らは、さっそくお目当て(?)の悪の組織、闇奴隷商と<
相手の目的はおそらく僕の殺害とルホスちゃんの奪取。急な出来事にルホスちゃんは戸惑いながらも、真っ青な顔で僕を見上げてくる。
「す、スズキ......」
「? もしかして気分が悪い?」
「また以前みたいに戦うの?」
「たぶんね。でも心配するようなこと無いよ? ルホスちゃんの安全面はもちろんのこと、今回はザックさんが居るから平気だよ」
「そ、そうか」
心配しすぎじゃない? まぁ、不安な気持ちもわかるけど、以前戦ったときに奴らの戦闘力は知れたんだ。闇奴隷商が雇っている連中くらいなら平気だよ。
問題は<
でも今回は騎士団第一部隊であるザックさんが居るから、おそらく戦力面では申し分ないはず。僕もザックさんの実力は知らないけど、あのアーレスさんと同じ部隊なら頼っても大丈夫でしょ。
「とりあえず俺は上に報告しに一旦屯所に戻るわ」
「......。」
と思っていたら、頼りにしている戦力がさっそく状況報告で、僕たちの下から離れる羽目に。
「な、なんだよ、そんな顔して」
「いやまぁ、報告は大切ですけど、いきなり護衛の役を放棄します?」
「放棄じゃねぇよ。安心しろ。相手は一度ヘマしてんだ。そうすぐに行動はしねぇはずだ」
「あ、でしたら僕らも一緒に屯所に行きます」
「俺が私服で来た意味無くなるだろ。何のための護衛だ、こら。騎士団と繋がりがあると思われたら警戒されんだろ」
「そうですけど......」
そう言って、ザックさんは早々に今しがた手に入った情報を本部へ伝えるべく、僕らの下を去って行った。
あの人、今のとこ僕んちに来て、プリン食って、散歩しかしてないよ。あっちにも事情があるから強くは言えないけどさ。
「あ、あの人間、プリン食って、我らと同行しかしてないぞ」
「......。」
「プリン食って」
食の恨みだろうか。ルホスちゃんも僕と同じこと考えてたみたい。その本質は食い意地からの気がしてしょうがないが。
“プリン食って”とか二度言う辺り相当根に持ってる感じするし。
僕はそんな彼女の頭をぽんぽんと撫でた。
「な、何をする?! 撫でるなッ! 子供扱いするなぁああ!」
「さて、これからどうしよっか」
『相手がいつどこで襲ってくるかわかりませんし、人気の無い所は避けたいですが』
『ああ、あたしらも作戦立てたいから“会話”が必要になる』
だよね。闇組織に関わってそうな奴と即出会うなんて誰が予想できるだろうか。唐突過ぎて先延ばしにしていた作戦も早いとこ立てないといけない。
「じゃあ宿に戻る?」
『おう。それがいい』
『まったく......。金貨十枚が遠退いちゃいましたよ』
「なぜそんなに金を欲するのだ?」
食費のせいね。
君には言ったことないけど、その言葉は言われたくなかったな。引っ叩きたくなるわ。バチンて。いや、しないけどさ。
こうして僕らは宿に戻るのであった。
*****
「お、てめぇがうちのとこから商品を盗んだ野郎か。情報通りガキじゃねぇか」
「「『『......。』』」」
僕らが借りている宿の二階の玄関ドアを開けたら、部屋の中に図体のデカい強面のおっさんが一人、ベッドに腰かけていた。
言動からして最近お世話になっている闇組織の方なんだろう。
どうでもいいけど...................ザックさんの馬鹿ぁぁあぁあぁあぁああ!!
なんで必要なときに居なくなるの!!
「ちょ、え? ええー」
「ああ?」
『回り込まれていたか......』
『ドー〇に不法侵入されたパ〇ーの気持ちが少しわかります』
四十秒で支度するから逃げちゃ駄目かな。
「おいガキ、こっちにも事情があってな。この際だ、そこの魔族の嬢ちゃんを渡せば見逃してやるぜ?」
「え? マジすか?」
「『マジすか?』じゃない! 我を護れッ!!」
『ガキンチョ、良いこと教えてやる。お前が闇組織に行けば金貨十枚を焦って稼ぐ必要が無くなる』
『またそういうこと言って』
妹者さんに禿同。でも悲しかな。ルホスちゃんを簡単に手放せる程、浅い関係じゃなくなったんだよね。
相手が武装していたのは、この部屋でも振り回せそうな小さな黒い斧である。ハンドアックスだっけか。そんな武器を片手に僕らの前に立っていた。
『しかし宿で待ち伏せとはなぁー』
『ほら、行きますよ。【
「我も戦うぞ!」
「いや、君が目当てなんだから下がっててよ」
「チッ。痛い目見ずに済んだのによぉ!」
え、マジでこんなとこでおっ始めるの?! 宿だよッ?!
そんなことを考えていたら相手は本当に容赦なく僕ら目掛けて襲いかかってきた。
『【固有錬成:祝福調和】ッ!』
「くッ!」
「はッ! 細ぇ身体に見えて意外と力があんじゃねぇか!」
僕は今しがた姉者さんに出してもらった鉄鎖を両手で掴んで、相手が振り下ろしてきたハンドアックスを受け止めた。
妹者さんの【固有錬成】で僕の身体能力は一時的に飛躍する。異世界に来てから続けていた筋トレのおかげではない。相手の身体能力をコピーしたんだ。
これで膂力の面では相手と互角になる。
「【紅焔魔法:螺旋火槍】!」
「くッ!」
「『『あぶなッ?!』』」
この狭い部屋で相手と接近戦を繰り広げようとしていたら、後ろに居たルホスちゃんが火属性魔法を敵に向かって僕ごと攻撃してきた。
これに対して、相手は後方に飛んで避けたので無傷である。アレ避けるとかスゴイな。不意打ちにも程があった一撃だったのに。僕も当たらなかったのは偶然に近いし。
「ちょ、やめてよ。僕に当たるとこだったじゃん」
「す、スズキは生き返るって妹者から聞いたから思い切って......」
「ふざけんな。もっと他の方法を考えてくれない?」
「カカ◯ットは魔貫◯殺砲で自分ごと敵を倒す、という“こじせーご”があるらしい。我にはよくわからないが」
ほんっと魔族姉妹は碌なこと教えないよな。故事成語でもなんでもねぇし。よくわからないならすんなよ。
ルホスちゃんに呆れていたら強面のおっさんが僕らに向かって怒鳴ってきた。
「こんな狭い部屋で火属性魔法とか正気かッ?!」
「そ、そもそもこんなとこで襲ってこないでくださいよ」
『おい、ガキンチョ。おめぇーのさっきの魔法が部屋に着弾して燃え始めたじゃねーか』
『あなたの好きなプリンがある冷蔵庫が燃えてますよ』
「ああぁぁああああ!! こ、このクソ人間がッ!」
いや、君が招いた結果だから。
「と、とりあえず我は水属性魔法で鎮火するッ!」
「「......。」」
魔法の目的は相手を撃退することにあるのに、火事をどうにかしないといけないとか何がしたいの君。足しか引っ張ってないよ。
「というか、なぜあなたはここに居るんですか? さっき僕らを発見したからって行動に移すの早くありません?」
「あ? 俺は依頼されてここに来たんだ。それ以外は知らねぇな」
『あ、じゃあ偶々ですか』
『しっかし宿で待ち伏せされるとはなぁー』
悠長に話し合っている魔族姉妹からは若干の余裕が感じ取れる。きっとこの相手もそんなに強くないのだろう。
そんな間にもルホスちゃんは鎮火のために、必死に燃えている箇所に水属性魔法を当てている。空気読んでくれないかな。こう言っちゃなんだけど、君の為に戦っているんだよ。
ルホスちゃんを横目に見ていたら、目の前の強面が再び僕らに接近戦で攻めてきた。
「んぐッ!」
「てめぇの情報は入ってるんだぜ! どうやら相当な魔法の使い手らしいな! だがそのほとんどの手段が範囲攻撃なんだろッ! 規模のデケぇ魔法はこんな狭い所じゃ不利だからな!」
「そ、そうだぞ! スズキ! 下手に攻撃して冷蔵庫の中身が台無しになったら困る! 非常にッ!!」
「宿を壊す勢いで魔法を使っても良いんだぜッ?! 下の階に居る奴らが下敷きになっても良いんだったらよ!」
「うおぅ! もうちょっと左に行け! 下に居る人間はどうでもいいが、冷蔵庫から少し離れて戦えッ!」
「どうしよう、もうルホスちゃんを引き渡してもいいんじゃないかって思う自分が居る」
僕の呟きに『『禿同』』という魔族姉妹の許可も下りてしまった。それを聞いてルホスちゃんの顔が真っ青になる。じょ、冗談だよ。
しかし相手が振り回すハンドアックスが厄介だな。何とか妹者さんの【固有錬成】と姉者さんの鉄鎖を駆使して、受け流すくらいで留まっているが、油断したら切断されるのも容易い。
鉄鎖とハンドアックスが激しくぶつかり合うことで、近所迷惑なんてもんじゃない金属音が部屋全体に鳴り響く。
騒ぎを聞きつけて下から誰か来たら、それこそヤバいな。一般人が狙われたら守り切れる自信が無い。
『なら私の氷属性魔法を使い、近接戦に挑みましょう。【凍結魔法:鮮氷刃】』
「ひゅー。接近戦もできるって? そいつは楽しめるなぁ!」
左手が発動した氷の剣の柄を掴んだ。相変わらず氷でも握っているかのような冷たさである。この剣を武器にして僕は黒いハンドアックスによる攻撃を受け止めた。
接近戦はあっちに分があるのか、先程から防戦一方だ。余裕そうにしていた妹者さんは何をしているのかね。恒例の【
「しかし頑丈にできてんなッ!」
「『?』」
黒いハンドアックスが大振りの構えをし、大胆にも僕にその一撃をお見舞いしようとするが、そんな見え透いた一撃、先程と同じように【鮮氷刃】で受け止められる。氷の剣は頑丈にできているからね。
それに膂力は互角なんだ。そう簡単に力負けは―――
「こういうことだよッ!!」
「『っ?!』」
敵の攻撃を受け止められたと思ったが、黒いハンドアックスの攻撃を受けた瞬間、氷の剣がガラス細工を地面に落としたかのように呆気なく砕け散った。
やばい! 斬られる―――
「あばよ―――」
『【烈火魔法:火逆光】!』
「ぐあッ?!」
―――ことを覚悟したが、妹者さんの目眩ましの魔法のお陰で敵に一瞬の隙ができた。
僕も予期せぬことで眩しかったが、妹者さんが単独で右手だけの支配権を有効活用して強面のおっさんにボディーブローを炸裂したようだ。
そして目眩ましを食らった僕だが、その隙の一瞬で妹者さんの【固有錬成】により視力が回復する。見れば、強面のおっさんは先の鉄拳により後方数メートル先に吹っ飛んでいった。
『感謝しろよ! 気が利く女で良かったな!』
「マジで助かった。ちょっと! 姉者さん! もしかして燃費考えて、あんなヤワな剣作ったの?!」
『ち、違いますよ! むしろいつもより魔力を込めましたから、あんな簡単に壊れるなんておかしいです!』
『ありゃあ奴のハンドアックスが原因だな』
「?!」
『ま、まさかあの黒いハンドアックスはッ!』
僕も言われて気づいた。あの黒いハンドアックスの攻撃で姉者さんの【鮮氷刃】を砕いたのなら、アレはもしかしたら―――
「魔力を吸うあの結晶石の類か!」
『だろーな』
『そ、そんな......』
「ああ?! なんで知ってんだ―――って一度似たようなもんを見たことあるんだっけか。そうだ、この武器はプロトタイプだが同じ役割がある」
どうやら合っていたらしい。あの黒いハンドアックスは以前、闇奴隷の刺客と闘ったときに使っていた魔力を吸収する黒い結晶石と同じような役割を果たしているようだ。
そう言われると、たしかに似たような色合いと光沢がある気がする。
視力を早々に回復させたおっさんが僕を睨む。
「くっくっく。こりゃあ魔法使い殺しに持ってこいのアイテムさ」
『“
「真面目にやってよ......」
『......。』
妹者さんって頼りになりそうなときに限ってふざけるよね。
「さぁ来いッ!! 役に立たない魔法で何ができるか見せてみろッ!」
『わ、ワンチャン、鈴木があーしの縦セタ姿見たらメロメロになるかもしんねぇーな! なんちゃって!』
「.......。」
ふざけてる場合じゃないんですけど.......。
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