第50話 黒髪ロリっ子は珍しい?

 「久しぶりに冒険者ギルドに来たぁ」


 「ぶ、武器を持った人がいっぱい......」


 「俺なんか3年ぶりだぜ?」


 『モンスターを狩るより、女を狩って子作りしてましたからね』


 『あ、そうだ! 鈴木、童貞のお前に失礼なこの男の奥さんを寝取ろうぜ!』


 失礼なのは君ね。


 現在、僕らはクエストを受けるため、冒険者ギルドに来た。


 ルホスちゃんは武器を持った強面の冒険者たちに恐怖したのか、僕の後ろに隠れてしまった。可愛いけど、正直、すごく歩きにくいので離れてほしい。


 僕らはそのまま大量のクエストが貼られている大きな掲示板のとこまで向かった。


 「さっきも言ったが、あくまで情報収集になりそうなクエストを受けてくれよ。クエストなんかであまり期待はできねーがな」


 「ええ。わかっています」


 そう。ザックさんが僕らと居る理由は例の件、闇奴隷商と<幻の牡牛ファントム・ブル>の情報を少しでも集めるために、クエストを受けに来た。


 ギルドのクエストと関係があるかわからないけど、することもないし、お金も稼がないといけないので、とりあえずここに来た次第である。


 「お、こんなのはどうだ?」


 「ああ、王都内ですし、いいんじゃないですか? 個人的にはもうちょっと稼げる奴がいいですね」


 「んんー、つってもお前Eランクだろ。どれも似たような金額だしなぁ」


 ちなみに情報収集が目的だから、王都に出ては意味が無いので王都内で受けられるクエストというのが最低条件だ。報酬金額が低いなら、いつものように数を熟すしかないが、今回はザックさんも居るのでスケジュール的に余裕を取りたい。


 それから僕らは色々と話し合って受けるクエストをとりあえず一つだけに絞り、それを受付コーナーに持って行った。


 向かう先はもちろん新人受付嬢のマーレさんの所だ。スレンダーな美人さんだからクエストを受ける前に会話すると元気が貰える。


 「マーレさん居るかな」


 『まーたあの女かよ。美人でも貧乳じゃねーか』


 『鼻の下伸ばすなんて......少しは下心を抑え込んだ方がいいですよ』


 「スズキ、あの女は人間だぞッ! 魔族の方が良いに決まってるッ!」


 両手とロリっ子魔族がうるさい。


 ルホスちゃん、魔族の受付嬢なんているわけないでしょ。それに魔族とか人間は関係無いから。見た目麗しければ誰でも良いから。それが童貞の性だから。


 というか、いい加減離れてよ。さっきから僕の後ろに引っ付いてると、歩く度に足が当たらないように気を配んないといけないから面倒なんだけど。片足怪我した人みたいに引きずってるよ。せめて横に来て。


 「あ、居た」


 『ったく。......あーしの方が胸大きいし』


 『......。』


 「行くなッ! スズキッ! 人間と取引するなッ!」


 無茶言わないでよ。クエスト受けらんないじゃん。


 「あ、ナエドコさん。こんにちは」


 「こんにちは」


 「ちーす」


 「そちらの方は......新規登録でしょうか?」


 「いえ、今日は自分のクエストに付き合ってもらう人です」


 「あれ、元冒険者の俺って結構有名な方だと思ってたんだけど......ああ、新人さんか」


 「はい。そうでしたか、失礼いたしました。それで今日はどのようなクエストを?」


 「この、“逃げた猫を探してほしい”という依頼を受けようかなと」


 「今更だけど、久しぶりのクエストが猫探しかよ」


 そう。僕らが受けようとしているクエストは、とあるセレブの邸宅から脱走した飼い猫を見つけて捕まえることである。クエストの紙には“セレブ”とは記載されていないが、報酬金額がやべぇーの。


 報酬金額は驚異の―――金貨十枚。


 これがFランクから受けられるんだって。ただの猫探しでこれはマズいでしょ。一攫千金すぎる。


 このことについてザックさんに聞いたら、この広い王都の中で一度逃げたペットなんてそう見つかるはずが無いし、もしかしたら既に他の人が野良猫と勘違いして保護したかもしれないから、探すだけ無駄とのこと。


 でも残念、姉者さんの【探知魔法】はある一定の情報があれば効果を発揮するのだ。その情報もこのクエストの紙に書いてある。探知範囲も広いらしいから、歩いていればそのうち引っかかるはずだ。その猫が王都に居ればの話だけど。


 「かしこまりました。ついでに、またこちらのクエストをご用意いたしました―――がッ?!」


 と、いつものように机の引き出しから依頼内容と報酬金額が釣り合わないしょっぱいクエスト、“棘クエスト”を僕に勧めようと、マーレさんが書類の束を出してきたが、なぜか僕の後ろを見て驚いた。


 「う、嘘ですよね」


 「「『『?』』」」


 「な、なんだッ! 我がどうかしたのか?!」


 僕の後ろには隠れるようにしてルホスちゃんが居る。マーレさんの反応だとルホスちゃんを見て驚いた感じだ。


 今回は猫探しだし、王都の外でモン〇ンする訳じゃないから、堂々と連れて来ちゃったよ。別にいいよね?


 「ということは、ナエドコさんが例の? いや、しかし―――」


 「あ、あのー」


 「っ?! も、申し訳ございません! 取り乱してしまいました! え、えーっと、このクエストは特に問題ありません! 今手続きをしますね!」


 「は、はぁ」


 一体どうしたんだろう。ルホスちゃんを見てからすごく動揺しているみたいだけど......。


 「お、おい! 人げ―――」


 「ルホスちゃん」


 「“けんしゅーちゅー”の女! 我を見て驚くとか失礼だろッ!」


 急に怒鳴りつける君も失礼だからね。


 普段は大人しい雰囲気の子じゃん。どうしたのさ。まさか相手が下手に出ているからって、ここぞとばかりに強気になっているわけじゃないよね?


 「お、驚いていません......ほほ」


 「“赤色”だぞッ! 不気味な女めッ!」


 「ちょ、こら! マーレさんを困らせちゃ駄目でしょ!」


 “赤色”って......嘘吐いているときに出る、ルホスちゃんにしかわからない【固有錬成】の力の話だよね。なら尚更こんな大勢の人が居る所で叫ぶのをやめさせなきゃ。


 口は禍の門と言うに等しいルホスちゃんの口を、僕は自身の右手で無理矢理塞いだ。


 「フガフガ!」


 『んちゅ?! む!』


 『苗床さん、妹者とルホスちゃんがキスしちゃってます』


 「あ、ごめ」


 僕はルホスちゃんの口から右手いもじゃさんを解放した。無理矢理キスさせちゃったよ。ごめん。


 マーレさんがそんな僕らを見て不思議そうな顔つきになる。


 「どうされました?」


 「は、はは。なんでもありません」


 「は、はぁ。手続きはこれでお終いですので、お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 『が、ガキンチョの口って甘ぇーのな』


 『さっきまでプリンを食べてましたからね、この子』


 「わ、我のファーストキスが......」


 こうして僕らは猫探しに勤しむのであった。



******



 「あ、飼い主はここみたいですよ」


 「住所あってんのか? どう見てもセレブのそれじゃねぇだろ」 


 「た、たしかに」


 冒険者ギルドを出発してから僕らはさっそく依頼主の下へやって来たのだが、辿り着いた場所は一般的な住宅地が建ち並ぶうちの一軒家だった。むしろちょっとボロいくらい。


 こんなんで本当に報酬金額の金貨十枚払えるのかな。いや、ギルドが虚偽を防止するために報酬は既に預かっているんだっけ。


 とりあえず玄関の前で突っ立っていてもしょうがないので、ドアをノックしてみた。すると中から足音が聞こえてきて、こちらへ近づいてくることがわかった。


 「あ? なんだ?」


 中から出てきたのは強面のおっさんが一人。なぜか彼の手には物騒にも鉈のような刃物が握られていた。防犯のためですかね......。


 「ね、猫探しの依頼を受けた冒険者です」


 「“猫”? ああー! アレか! 依頼をギルドに出したアレをあんちゃんが受けてくれんのか!」


 「はい。時間はかかるかもしれませんが、頑張って探します」


 警戒心を解いてくれたのか、強面のおっさんの表情が少し和らぐ。


 さっきからザックさんたちは黙っているけど、こういった面倒なことは僕に任せる気なんだろう。まぁ、僕が進んで受けた依頼だからいいけどさ。


 「では、確認も終わりましたし、さっそく探したいと思います」


 「大丈夫かよ? そんなちょっとやそっとで見つかるもんじゃねぇぞ」


 「ふふ。実はそれに長けた魔法があるので大丈夫です」


 僕らは猫探しを開始することになったのだが、強面のおっさんが僕の後ろをじっと見つめて動かなくなった。僕の後ろには、ルホスちゃんが隠れるようにしてポジションを取っているのだが......どうしたんだろ。


 マーレさんといい、このおっさんといいなんなの。ルホスちゃんがそんなに変? 黒髪だから? 今は角が生えていないから普通の女の子だと思うけど。


 ちなみにそんな彼女は目の前のおっさんが強面だからか、少し怯えているようで震えていた。


 「あんちゃん、そのガキ―――」


 「っ?!」


 「ルホスちゃんが何か?」


 「いや、。気にしないでくれ。じゃあな」


 「あ」


 「......。」


 バタンとドアを閉められてしまった。なんか最後、急に僕の扱いが雑になった気がしたんだけど。


 それに“知らない”? なんでそう言ったの?


 まぁ、別にどうでもいいか。早く猫探そ―――


 「す、スズキッ!」


 「?」


 ちょいボロの一軒家から少し離れた僕は姉者さんに【探知魔法】の発動をお願いしようとしたら、ルホスちゃんに声をかけられて憚られた。


 もう強面のおっさんは居ないのに、彼女はまだ震えている。そんなに悪い人には見えなかったけど、大丈夫かな?


 「あ、あの者、“赤色”だった」


 「え?」


 「“赤色”ってなんだ? 嬢ちゃん」


 『あーしも怪しいと思ってたわ』


 『ええ。あんな身なりで猫探しに金貨十枚はやはり胡散臭すぎます』


 ザックさんが今更なことを聞いてくるが、ルホスちゃんの【固有錬成】について知らないから無理もない。後で説明しよ。


 「スズキがあいつに我のことを聞いたとき、『知らない』と言ったら“赤色”になった」


 「嬢ちゃんが何言ってるかわかんねーが......正直、あの男はきな臭せぇな。血の臭いも微かにした」


 「ちょ、それって」


 『ルホスちゃんを知っているということは、闇奴隷商に関わっている可能性が高いということです』


 『ひゅー。金欠がこんな幸運を呼ぶとはなぁー』


 いや、どこが幸運ッ?!

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