第44話 一難去ってまた一難はこの世界の常
「スズキッ! スズキッ!」
「はは。僕が首を刺されただけで死ぬわけないでしょ」
『ルホスちゃん、こちらへ』
『相手が泣き叫んでいる今がチャンスだぞー』
ルホスちゃんが僕たちの無事を知って燥ぎながらこちらへ駆けてきた。良かった大した怪我は無いみたい。
というか、角生えてんじゃん、君。くそぉ、こんなときじゃなかったら鑑賞したのにぃ。
現在、僕らは<
というかなんだ、<
「す、スズキはゾンビなの......か?」
「いや、人間です」
『あーしの【固有錬成】よ』
「すごッ! 蘇生効果もあるのッ?!」
『まーな』
「そんな大声でネタバレしないでよ。あいつにバレちゃうじゃん」
まぁ、そんなこと言っても一回限りしか騙せないズルみたいなもんだし。
僕らが仮面の男の【束縛魔法】によって拘束されてから、文字通り手も足も出なかったので、大人しく殺されてしまったのだ。代わりに相手から情報を引き出せたけど。
なぜすぐ妹者さんの【固有錬成】で回復しなかったのかと言うと、妹者さん曰く、あの【束縛魔法:羈束影】という上級魔法が意外に厄介だったとのこと。で、死んだ後も中々効果を失わなかったから待っていたらしい。僕は気を失っていたからわからんかったけど。
仮面越しでもわかるくらい男は脂汗をかいて余裕が無さそうだった。
「お前! 【蘇生魔法】を使える魔力なんか無かっただろ! そもそも死んだ後に魔法を行使するなんてあり得ないッ!」
「うんうん。そうだね」
『こっからはルホスちゃんと協力して奴を屠ります。そこでルホスちゃん、あなたに一つ頼みがあります』
「?」
『ガキンチョはあそこに転がっている黒い結晶石を取ってこい』
僕は相手の怒鳴り声で何か言っていることをテキトーに相槌を打って対応していた。その間、魔族姉妹がルホスちゃんにも戦闘の協力を要請する。
と言っても、ルホスちゃんには直接戦ってもらうのではなくて、仮面の男より向こう側にある、魔力を吸収する黒い結晶石を取ってきてもらいたいのだ。
「それはかまわないけど、
『私の鉄鎖であの中に貯蓄された魔力を吸収できるかもしれません』
『いくら右腕を斬り落としたからって油断なんねー敵には変わりねー。あたしらが相手するから頼んだぞ』
ルホスちゃんに手短に用件を伝えて、僕らは再び臨戦態勢を取った。
相手もそんな僕らを見ても諦めて撤退することはなく、戦闘をこのまま続ける模様。片腕を失った箇所は僕らがもたもたしていた間に止血したみたい。
あそこ突いたら絶対痛そう。......狙ってみるか。
「はッ! 一撃で殺さなかったことを後悔するがいい! 【固有錬成:水面隠蔽】!」
そう唱えた仮面の男は姿を一瞬で消した。
「どこ行った?!」
『落ち着いてください。なんでも隠すって言ってたじゃないですか』
『隠れているだけでどっか近くに居んだよ』
逆によく落ち着いて居られるね?!
見えない敵ほど怖いもの無いでしょ?! AVP知ってる?!
『さっきあの仮面野郎がガキンチョを捕まえて言ってただろ』
「え? なんて?」
『「隠せるのはこの子だけ」みたいなことです』
「うん。我にそう言ってた」
「それが?」
『音も気配もねーし、【探知魔法】も【索敵魔法】も役に立たねーほどの優れもんだが、欠点がある』
「あ、もしかして!」
『ええ。あの【固有錬成】の対象の数は一つだけです』
なるほど。僕たちに気づかれないように近づいて来たのは、あの仮面の男が自身に【固有錬成】を使っていたから。魔法を発動するまでバレなかったのは、魔法だけにしか【固有錬成】を使っていなかったからか。
逆に言えば、自分自身を隠す場合、行使する魔法は隠せないってことだ。
つまり、自分を隠した場合は魔法が使えない。使えたとしても、魔法陣や術式を展開した時点で僕らに位置がバレる。
『おそらく気絶させたルホスちゃんを隠すために「大きめの袋を持ってきた」といったのは触れた物までなら隠せるのでしょう』
『なら対処は簡単よ。魔法はバレるから使えない。が、道具なら―――』
「剣かッ――」
僕がその結論に至った瞬間には、胸から一本の剣が血を撒き散らしながら生えてきた。
案の定、仮面の男による背後からの突き刺しだ。
「ごふッ?!」
「す、スズキッ?!」
「はは! 剣に猛毒を塗り込んだ! これなら君の身体に毒が残るから生き返ってもすぐ死ぬ!」
僕の死が確定したからか、仮面の男は【固有錬成:水面隠蔽】を解いて、僕に毒を塗った剣で刺したことを嗤いながら語った。
ルホスちゃんはそんな僕を見て青ざめた表情になる。この世の終わりかのような顔だ。
―――大丈夫。そんな顔しなくていいから。
『【
「っ?! な、なんだッ?! 鎖?!」
「ぐふッ。クソいてぇー? 痛みとかもう無いな!......はは、残念だけど君の負けだ」
『おい、ガキンチョ。もうあそこの結晶石取って来なくていいぞ』
未だ剣を突き刺して離れない仮面の男の隙を突いて、姉者さんは透かさず鉄鎖を吐き出して、僕ごと男をぐるぐるに巻きつけた。
もうこれでもかってくらい巻いてあるのだが、この状態だと僕の胸に剣が刺さったまんまだ。
「魔力が吸われている?! というか、なんで君は自分ごと巻きつけているんだッ?!」
「......僕にもわからない」
「はぁ?!」
男が先程までの余裕を無くして怒鳴りつけてくる。
だってしょうがないじゃん。姉者さんが勝手に鉄鎖で僕ごとあんたを捕らえたんだからさ。で、姉者さんはとりあえず巻きつけた鉄鎖で仮面の男から魔力を吸収しているのだろう。
『ふぅー。これで一安心です。【固有錬成】で身を完全に隠せても、実体はありますからね』
「あの、僕の、胸に、剣が、ですね」
『あーしが【
死ぬ死なないじゃなくて胸に剣が突き刺さったまんまだから、そのせいで忘れていた痛みが徐々に蘇ってきてんだけど!!
「解けッ! 解けよッ?!」
「わ、我はどうすればいい?」
『ルホスちゃんは離れていてください』
『物陰にでも隠れてろよ。あとは【自爆魔法】で終わらせるから』
“【自爆魔法】”?!
なんすかそのヤバそうな魔法!
絶対そのまんまの意味だよね?!
「ちょ、ちょっと! 【自爆魔法】って自爆するの?!」
「“【自爆魔法】"だと?!」
『うん。このまま爆散すれば確実に敵を殺せるぜ?』
『サイバ◯マンならぬ、バイバイマンです』
上手くねーよ!!
「わ、わかった。初級の【防壁魔法】くらいなら使えるから。少し離れている」
「ちょっとルホスちゃん?!」
このロリっ子、僕を見捨てようとしていない?!
『ガキンチョはあたしらを信用してんだよ』
「そういう問題じゃなくてッ!」
『大丈夫です。【自爆魔法】って言っても、痛みとか感じる間も無く弾けますから』
「どこも大丈夫じゃないよッ?!」
駄目だ! マジで仮面の男を殺すのに僕ごと爆破しようとしていやがる!
『『はい、三、二、一』』
「ちょ―――」
瞬間、身体の内側から爆発しようと無理やり肉体が膨張し始めて、その後、激しい爆風とともに僕は爆発した。
電子レンジでトマトをチンしたら、きっとこうなるであろう弾け方をした僕であった。
*****
「き、きったね」
「......ルホスちゃん、そういうことは冗談でも言わない方が良いよ。自爆してまで敵を屠った僕が報われない」
「ご、ごめんッ!」
僕――というより妹者さんの【自爆魔法】によって、僕は仮面の男ごと爆発した。目が覚めると辺り一帯には血が飛び散っていて、おそらくそこら辺に落ちている臓物は仮面の男のモノだろう。
うぷっときた。
ちなみに最初に戦った巨漢の男と小柄な男は気を失ったままで、二人はルホスちゃんが、自身を守るために張った【防壁魔法】のついでに守ってくれた。この後は彼らを衛兵さんに付き出す予定である。
『すげぇーな。通路の両端に【氷壁】出したから肉片が大して飛び散らずに済んだぞ』
「【自爆魔法】とか最悪だよ。もう二度と使わないで」
『結構良い作戦じゃありません? 【自爆魔法】って魔力と威力のコスパが良いんですよ?』
『芸術は爆発だッ!!』
「その姿でそれ言ったらアウトだよ」
『デイ◯ラですしね』
言うな。
魔族姉妹は特に詫びること無く、言い訳を言うわけでもなく、一件落着した感を醸し出している。
「す、スズキ!」
「?」
「そ、その」
今度はルホスちゃんがもじもじしながら視線を落として僕に何か言おうとしている。
......もしかしてお礼だろうか。
少なからず僕がルホスちゃんの救出に貢献したのを自負しているつもりだ。全くもって可愛いロリっ子魔族である。そんなこと気にしなくていいのにね。
彼女を見れば額から二本の黒光りに輝く角がまだ生えていた。......お礼をするなら、その角をしばらく鑑賞しちゃ駄目だろうか。というか、触ってみたい。
僕がそんなことを考えていたら、
「なんというか、ず、ズボンくらい履いた方がいいぞ」
「っ?!」
「わ、我も一応女の子だから......」
と言われたので、僕は慌てて物陰に隠れた。
そうじゃん。【自爆魔法】で肉体は疎か、服すら爆発で吹き飛んでしまった僕じゃないか。全裸はアウトだよ。
『苗床さん、あなた、幼女を前にしてボロンとは......』
「ち、ちがッ!」
「わ、我は幼女ではない! “れでぃー”だッ!!......でも今はどっちでもいいから、女の子の前だと思って早くソレを隠してほしい」
『
なんてこった、これじゃあ衛兵を呼んだら僕まで捕まっちゃうじゃないか。しかもルホスちゃんが居るから絶対にペド犯罪者扱いされる。
「とにかくなんか布かなんか無い?!」
「ここにあるぞ」
「あ、どう―――もっ?!」
僕は後ろから差し出された大きめのタオルを受け取るが、誰からもらったのか、その声を聞いて青ざめてしまい、そのまま振り返った。
そして驚愕する。
そこには二人の騎士が居た。一人は路上パフォーマーである僕の大ファン、ザックさんだ。全身鎧だが、ヘルムのシールドを上にズラしているため、見ただけですぐわかった。
もう一人はザックさんより半歩前に出て僕にタオルを渡してくれた人である。
「あ、アーレスさん......」
頭から爪先まで鎧に身を包んだ女性騎士のアーレスさんが居た。
「署までご同行願おうか」
「......あい」
「『『......。』』」
「ナエドコ、おめぇフルチンじゃねぇか......」
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