第40話 嘘を見抜くロリっ子魔族

 『グギャギャギャ!』


 「ルホスちゃん! そっち行ったよ!」


 「任せろ!」


 現在、僕らはルホスちゃんと一緒に冒険者ギルドの依頼を熟している最中だ。


 内容はゴブリンを五体討伐すること。最後の一体を逃した僕は、その先で待ち伏せしていたルホスちゃんに後始末を任せた。


 「“混沌より出でし邪悪な希望よ、灼熱の炎で漆黒の者を焼き尽くし、敵に敗北を―――”」


 『グギャァァァァアァァァア!』


 「――齎せろ! 【紅焔魔法:爆散砲】!」


 詠唱の途中で魔法撃ってんじゃん。詠唱要らないだろ、それ。


 てかなんだ、“邪悪な希望”って。


 ルホスちゃんの放った火属性の一撃は僕の目の前で繰り広げられた。最後のゴブリン一体は為す術もなく、いとも簡単に絶命に至った。魔法の威力が高かったのか、ゴブリンは跡形もなく飛び散って核すら残っていない状況である。


 『ガキンチョ、威力考えろよ。ここ森だぞ』


 『オーバーキルにも程があります』


 「ご、ごめん」


 「少なくとも君らが言っていいことじゃないよ?」


 僕と魔族姉妹は先立ってゴブリンの群れを相手にしたのだが、この二人は全員跡形もなくぶっ殺しちゃったのだ。


 「ゴブリンを討伐した証明が残ってないんですけど」


 『私の【凍結魔法】で二体は氷漬けのままですから、私は言いつけをちゃんと守っています。セーフです』


 『姉者のもどーせ取り出したら核まで砕けるくらい凍っているだろーよ』


 「またゴブリンを狩ればいい話じゃないか」


 うっわ、ルホスちゃんも全然反省しないタイプの子か。見つけるの手間なんだよ?


 「というか、なんでスズキは【凍結魔法】を使ったら自分も凍ったの?」


 「ああー、僕の場合、姉者さんがその魔法を使うんだけど、元々人間だった僕には、その耐性が無くて諸刃の剣になるんだよね」


 『まったくですよ。思うように魔法が使えないとか最悪です』


 『まぁでも、ガキンチョに合図を送ったら魔法で凍った鈴木を破壊してくれるから、あたしの【固有錬成】で治せるし、これも協力プレイの一種だろ』


 どこが? 毎回身体を凍らされたり焦がされたりする僕にしては、これは協力プレイなんかじゃない。自爆プレイだよ、自爆プレイ。


 ちなみに手のひらが凍る程度で済む【凍結魔法】は今のところ【鮮氷刃】だけ。柄しか持っていないからな。


 「あ! そういえばスズキも【固有錬成】を持っていること黙っていたじゃん!」


 「聞かれていないからね」


 「わ、我だけ言わせてせこいぞ!」


 目の前をぷんすかと怒るロリっ子魔族は今日も元気だ。


 たしかにいつもの戦法で、とりあえず姉者さんの【固有錬成:鉄鎖生成ムゲンゲロ】を出してゴブリン共を蹴散らしたな。


 「もしかして妹者も【固有錬成】を?」


 「うん。【固有錬成:回復】って言ってね。その名の通り何回でも回復できるんだ」


 『『......。』』


 「すごッ!」


 「でしょ。心臓を潰されようが、頭が吹っ飛ぼうか妹者さんが健在なら全回復するんだよ?」


 『『......。』』


 「だからこの【固有錬成】は防御力が無いに等しい僕にとってありがたいスキルなんだ」


 「でも回復する必要があるってことは傷つくってことだろ? 痛くないの?」


 まぁね。そう僕は苦笑いしてルホスちゃんの問いに頷いた。慣れは無いけど、すぐに回復してくれると思えば少しばかりの我慢で済む。


 というか妹者さんのことなのに僕が説明しちゃったよ。怒ってないかな? 黙ってるからわかんないんですけど。


 「妹者! それはスズキだけじゃなくても我も回復できるのか?!」


 『できないこともねぇーが......対象の情報が一定以上必要だ』


 「あ、その情報って詳しく知らないけど、ルホスちゃんのも君が取得すれば、もしこの子に何かあったとしても回復できるじゃん」


 そうじゃん。ルホスちゃんはまだしばらく僕たちと一緒に居るんだからできることは何でもやっておかないと。


 『まぁそうだが......』


 「我はなんでも教えるぞ!」


 「ほら、ルホスちゃんもこう言っているんだし」


 何を勿体ぶっているんだろう。


 『その、なんだ......情報には名前、体重、体型、体格、魔力量、血液、年齢が必要だ』


 『口頭で与えられる情報ならある程度の条件は満たせます』


 「「?」」


 僕とルホスちゃんは未だに魔族姉妹の言っていることの意味が理解できない。全部口頭じゃ駄目なの?


 「口頭って名前とか年齢とか?」


 『口頭だとそれだけですね』


 「他の情報はどうするの?」


 『アレだ。直に触って測る。例えば体重とかは持ち上げる必要があるし、血液は採取しなきゃならねー。魔力量は魔力譲渡ディープキスだ』


 「「っ?!」」


 『こればっかしはあたしが実際にこの手で触んないとわかんねー。右手だけだからか、実際に肌で感じないと情報が確実に得られねぇーんだ』


 『ええ。要するに気が済むまで苗床さんの手でベタベタとルホスちゃんを触るんです』


 ちょ、言い方!


 ルホスちゃんもうわぁって顔で僕を見るな!


 「す、スズキが我のむ、胸とか脚を触るのか......」


 「あの、局所的に言わないでくれません?」


 『ああ、乳首とか必須項目だ』


 『普通に裁判モノです』


 乳首とか敢えてここで言うな。


 小学生相手にそんなことしたら性癖疑われる。もちろん僕自身ペドでは無いので、できればシたくない。というか、そこら辺はまだ未開拓だから、もしかしたら目覚めてしまうかもしれない。息子が。


 それだけは避けたい。


 『全回復をしてほしければ、ガキンチョの貞操を鈴木に渡せって話よ』


 「やめろ。僕が性犯罪者みたいじゃないか」


 『まぁ判断はお任せしますが、もしってしまった場合は、私達も失望をあらわにします』


 「わ、我も一応回復魔法使えるから遠慮します」


 クソガキ、敬語やめろ。僕が催促しているみたいじゃないか。


 「「......。」」


 変なこと言うから気まずい雰囲気になっちゃったじゃん。



******



 「ぐっ!」


 『【固有錬成:回復】』


 『【冷血魔法:凍霧】及び【氷棘】』


 『グギャ?!』


 姉者さんの氷属性魔法によって、ゴブリン数体が氷の棘で串刺しになる。


 現在、僕らは予定のゴブリン五体の討伐のクエストを遂行中である。この場に居るゴブリンは八体だが、僕らのうち誰かさんがオーバーキルで台無しにするので、多いに越したことはない。


 ルホスちゃんには僕らの護衛ということで、少し後方に位置する所から遠距離攻撃をしてもらっている。


 「我のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ! ばぁぁああくねつッ! ゴッド・フィ―――」


 「ルホスちゃんそれ絶対遠距離攻撃じゃないから!!」


 魔族姉妹がいらんこと教えただろ。


 僕らの圧倒的な蹂躙ペースに敗北を感じたのか、ゴブリン二体が逃げ出した。本当は狩ってもクエスト的には意味が無いので見逃したいが、奴らを逃すとこの戦闘での経験から知恵をつけたり、もしかしたら仲間を呼んでくるかもしれないので看過できない。


 『鈴木、走れ!』


 「わかった!」


 僕はゴブリン二体を逃さないために跡を追う。元々このモンスター自体足が速くないからか、僕の全力疾走であっという間に距離をつめることができた。


 異世界だからか、レベルアップでもしたかのように僕の身体能力が上がった気がする。


 「間合いに入った!」


 『石◯ッ! 天驚けぇぇぇえええ――』


 「それもういいっつってんだろッ!!」


 右手が馬鹿やってるよ......。


 『鎖出しますよ。【固有錬成:鉄鎖生成うぷっ】!!』


 『おう! 【烈火魔法:抜熱鎖】ッ!』


 『『グギッ?!』』


 右手が左手から鎖を抜火属性を付与エンチャントしながら抜刀のように引き抜いた。


 そしてその灼熱の鉄鎖は、まるで熱したナイフでバターでも切っているかのような滑らかさでゴブリン共を横真っ二つにした。


 「ふぅ。これで終わったな」


 『あまり森に被害を出さずに済みましたね?』


 『あたしの火力調整のおかげだな。感謝しろッ!』


 手加減出来て嬉しいよ。正直、そこら辺は二人に任せているので、僕じゃどうすることもできないし。


 「うん。ありがと」


 『っ?! ん、んだよ、こんにゃろー!』


 『......。』


 な、なんでちょっと怒ってんの? 感謝しろって言われたから、素直にお礼を言っただけなのに。


 「スズキ、こっちの処理は終わった!」


 そう言って、戦闘が終わってこちらに向かってきたのは、頬が返り血で染められたてしまったロリっ子魔族である。


 元気そうな眼差しをこっちに向けるが、両手にはゴブリンの死体から取り出したと思われる核が四つあった。


 「う、うわ、ルホスちゃんが核取り出したんだ」


 「え、駄目なのか?!」


 だ、駄目じゃないけど、年齢の割には抵抗感なしですごい豪快にやったね......。


 「あれ、四つ?」


 「うん。取り出せたのは四つで、あとの二つは砕けてた」


 「なるほど」


 まぁ、あと1つは今しがた真っ二つになったゴブリンから採取すればいいだろう。おそらく核は傷ついていないはず。


 「というか我は?!」


 「?」


 「そっちの二人だけ褒めるのか?!」


 ああ、褒められたいんすか。そこら辺はやっぱり小学生だなって思ってしまう僕である。これで子供扱いするなとか無理でしょ(笑)。


 僕はグロという偉業を成した小学生を褒めるべく、ロリっ子魔族の頭に手をぽんと置いた。


 「ありがと。(代わりに解体してくれて)助かったよ」


 これでまだ慣れていない生き物の解体をしなくて済んだよ。


 「う、うん!」


 『うっわぁ、ロリコン』


 「どこがッ?!」


 こうして僕らはクエストの達成条件として最後にゴブリン共の核を回収して王都に戻るのであった。ちなみに得た核は全部で六個と必要分以上あるが、きっとギルドで買い取ってくれるのだろう。捨て値だけどね。


 「そういえばスズキがさっき逃げたゴブリンを追いかけるとき」


 「『『?』』」


 「微妙に、身体能力に【強化魔法】使っていたよね?」


 『っ?!』


 「え? そんな魔法使っていなかったけど?」


 どゆこと? 僕はあの二体のゴブリンの所まで、ただただ全力で走っただけだけど。


 「うーん。でも肉体がなんからかの手段で強化されたような感じがしたんだけど」


 「二人はなんか魔法でも使ったの?」


 『『......。』』


 「ちょ、なんで黙るの?」


 『べ、別になんも隠してねーよ』


 『あ、こら』


 「あ、今右手が“赤色”になった!」


 え、その感情が見える【固有錬成】って僕に寄生しているこの二人のも見れるの?


 つーか、“赤色”って......それ嘘吐いているって意味でしょ。


 なんか穏やかな雰囲気じゃなくなってきたぞ。

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