第39話 ワガママ言う子は大人じゃない
「あの、ナエドコさん」
「はい?」
「誠に申し上げにくいのですが、クエストにそちらの少女を連れて行くのはお勧めしません」
「......。」
と言われましても......。
現在、僕らは冒険者ギルドの受付コーナーにて、クエスト受注の手続きをマーレさんにしてもらっている最中だ。クエスト受注の手続きをしている最中に、マーレさんからそんな忠告を受けてしまったのである。
「わ、我を子供扱いするな!!」
「ご、ごめんね? でも子供には危険なお仕事だから、ね?」
普通に冒険者ギルドにルホスちゃんを連れて来ちゃったけど、やっぱり一緒に依頼を受けるのは駄目らしい。
「我だって魔法は使えるぞ!」
「そ、そういう問題じゃなくてね......」
「ルホスちゃん、やっぱり宿でお留守番していようよ」
「おるすッ?! スズキも我を子供扱いするな!」
「な、ナエドコさん」
「わかった、帰りに美味しいもの買って帰るから。お利口にしててくれない?」
「だ、だからッ!!」
僕らは日銭を稼ぐために王都周辺で達成できるクエストを受けに来たのだが、ルホスちゃんが我儘言って事が進まない。君の食費が稼がないといけない理由の大半なんだよ。
『こんなことなら一旦宿にガキンチョを置いてくれば良かったな』
『ええ。ここで揉めるよりは後で宿の方で合流した方がマシでした』
二人はルホスちゃんを連れて行くことに賛成みたい。
まぁ、元々こうして連れて来たのは、ルホスちゃんを一人にさせるのは危ないからって結論に至った訳だけど。
でも、理由を知らないギルド職員のマーレさんからしたら、少女をクエストに連れて行くのはアウトらしい。当然っちゃ当然か。
「いいか人間! 我の
「『『ストーップ!!』』」
「?」
こ、このガキ、公共の場でなんてことを口走ろうとしたんだ。
いや、“蛮魔”だけなら勘づかれないかも。どっちにしろ言わないに越したことは無いので、僕らは必死にルホスちゃんの口を塞いだ。
「ふがふが!!」
「え、えーっと」
「あ、あはは。とりあえず、この子は宿でお留守番させることにします」
少女の口を塞ぐ光景にマーレさんは困り顔だ。
僕は苦笑いで受付コーナーを一旦離れた。
「ぷっはー! 待て! 勝手に我を置いて行こうとするな!」
『ガキンチョ、これはアレだ。
いや、普通に連れていきませんけど?
王都周辺と言ってもモンスターはちゃんと居るんだから危ないじゃん。
「それこそ嘘だ! スズキは我を置いていこうとしている!」
『んな訳ねーよ。な? 鈴木?』
『ええ。むしろあなた一人を置いて行ったら、それこそ危険です。また攫われたりしたらどうするんですか』
両手はルホスちゃんを連れて行く気満々だけど、僕は王都に居た方が安全だと思うから、置いていくつもりである。
たしかにどこで闇奴隷商の連中が聞いているかわからない。でも騎士さん達がちゃんと巡回しているから平気でしょ。
とりあえず、この子を落ち着かせたいから魔族姉妹に便乗しよ。
「そうだよ。後で合流するからさ」
「嘘だ嘘だ! スズキ、今“赤色”だもん!」
『『“赤色”?』』
今ルホスちゃん“赤色”って言った? どういう意味?
「嘘じゃないって」
「じゃあその“赤色”をどうにかしてよ?!」
だから“赤色”って何?
「スズキは嘘を吐かない良い奴だと思っていたのにぃ」
「と、とりあえず外出よっか」
「嫌だ! 連れて行ってくれないならここを離れない!」
そう言って、ルホスちゃんはギルドの床で大の字になって寝そべった。
「ちょ、こんな所でやめてよ」
「行きたい! 行きたい! 行きたい!」
『だから連れてくって』
『子供が駄々こね始めましたよ』
「我を子供扱いするなッ!!」
いや、その状態で言われても無理があるでしょ。
『ちゃんと鈴木も連れて行くって言ってんだろ』
「じゃあ“白色”にしてよッ!」
「さっきからその色はなんなの......」
『苗床さん、この子があなたに何をさせたいのかよくわかりませんが、とりあえずクエストには連れていきましょう』
「え? マジ?」
『ええ。今もそうですが、目立つ行動を少なからずしてきましたから、この子を一人にしては危険です』
『“とんでも亭”で暴食を続けていたら悪目立ちもすんだろ』
「でしょ?! 我の護衛も兼ねて連れてって!」
“でしょ”って。君のせいでしょうが。
まぁ、今回はクエストを簡単なヤツにして安全面を重視しようか。僕はルホスちゃんも同行するように方針を固めて、再び受付コーナーに向かった。
「すみません、簡単なクエストを受けるので、この子も連れていきます」
「そうですか......。責任を持って行動してくださいね?」
「はい」
こうして受けた依頼はゴブリン五体の討伐に変更して日帰りを目標に、僕らは王都を出発したのであった。
*****
「ゴブリン全然居ないなー」
『王都周辺だからな。しゃーねーからもうちょっと捜索範囲広げんぞ』
「うん」
現在、僕らは冒険者ギルドで受けた依頼を達成するため、王都から少し離れた森の中に居る。依頼内容はゴブリン五体の討伐で、正直今の僕らにとっては簡単以外のなにものでもない。それに以前受けた依頼と同じだし。
そして報酬は銀貨四枚である。大した足しにはならない。
「我ならゴブリン、いや、トノサマゴブリンくらい余裕だッ!」
そんな簡単な依頼を受けないと行けないのはこの子のせいでもある。
まるでピクニックでも行くかのような気分のロリっ子魔族は一人で燥いでいた。
「そういえばルホスちゃん、さっきギルドで赤色とか白色とか言ってたけど、あれの意味は?」
『あーしもそれ気になってた』
『苗床さんに対して言っていましたよね』
道中暇なので、僕は少し前のルホスちゃんの発言の意味を聞いてみた。
「ああ、ソレは我の【固有錬成】だ」
「『『っ?!』』」
ちょ、え、【固有錬成】?
『ガキンチョ、てめぇー【固有錬成】持ちかよ?!』
「うん」
『なんでそんな大切なことを先に言わないんですか......』
「だって聞かれてないし」
「あれ? でも【固有錬成】って唱えていなかったよね?」
「なんか生まれたときからいつもなっている」
“なっている”?
『【固有錬成】には常時発動型と単発型があるって言ったよな? おそらくガキのは常時発動型だ』
「すご」
「えへへ」
『内容にもよりますが、常時発動型にもメリットデメリットはあります。メリットは説明しなくてもわかりますね?』
「その常時発動が強みになるんでしょ」
『そうだ。デメリットは発動のオンオフの切り替えがいちいち必要なことだな』
『単発型は一回限りですので手段として応用が利きます。一方、常時発動型は“常時”という特徴から使い分けとそれによる戦法を考える必要があります』
「我はオフにしたことがない」
なるほど。常に発動しているものだから、波のある機能な訳ないか。ルホスちゃんの【固有錬成】がどういったものかわからないけど、オフにしないのはオンにしてても困ることがないからだ。
というのも、それはどの【固有錬成】にも共通して言えることで、その字の如く、“固有”な能力を“錬成”するからこそこのスキルは輝くのだ。
“錬成”とは錬って成すこと。つまり所有者はそのスキルを磨き続けることで、より強力なスキルへと練り上げることができる。
と、魔族姉妹から以前聞いた。
「で? ルホスちゃんの【固有錬成】はどういったもの?」
「教えてほしい?」
「うん」
「どうしても?」
「うん」
「じゃあしょうがないなぁ〜」
ちょっとウザいな。子供相手にムキになるなんて、僕はカルシウムが足りていないのだろうか。
「我の【固有錬成】は―――」
「『『“は”?』』」
焦らさないでほしい。そこまで勿体ぶる必要ないでしょ。
「視界に入れた者の感情がわかる!」
「『『......。』』」
なんかパッと来ないスキルだね。
というか、“感情がわかる”ってなに。
「どうだ? すごいだろ?」
「あ、うん。どうやって感情を判断するの?」
「識別ならぬ、色別だ」
「色?」
「うむ。例えば、その人が幸せな気持ちだったら、その人の周りは“黄色”のオーラが見えて、悲しい気持ちだったら“青色”に見える」
「へぇー」
さっき僕に対して赤色とか白色って言ってたよね。それもなんか意味があるのかな。
まぁ、戦闘向きじゃないことだけはわかった。
「ちなみに問いかけなんかに対して、正直な心の持ち主が答えると“白色”だ。嘘吐いたら“赤色”に見える」
嘘吐いたときの感情でそう判断されるのか。ってことはルホスちゃんには嘘が通らないってこと?
僕はこの子に対して今まで大した嘘を吐いたことがないから、ずっと“白色”に見えたのだろう。ギルドでは彼女を宿屋に本気で置いていこうとしたから“赤色”に見えたのか。
「ふーん?」
「な、なんだその微妙な反応は?!」
「え、いやまぁ、すごいスキルだなーって」
「また“赤色”になっているぞッ?!」
はは。そんなことないったらない。たぶん。
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