第38話 我が名はルホス!とか絶対黒歴史になるわ

 「す、スズキは生きてて楽しいの?」


 「......。」


 現在、僕は王都にある大広間にて四つん這いになって落ち込んでいる。先程まで例の自虐ネタ腹話術のパフォーマンスをしていたのだ。


 今は賢者タイム以上の虚しさを感じているところである。


 そしてロリっ子魔族に追い打ちをくらっている。この子と一緒の生活をして数日が経った。大分仲良くなった気がするのは僕だけじゃないと思う。


 『ぶははははははは!! ガキンチョ、鈴木に失礼だぞ!』


 『いいですか、これは食べていくために必要な仕事なんですよ』


 「で、でも二人にボロクソ言われて、なんも言い返さないのはどうかと思う」


 「もういいんだ、そっとしておいてくれ....。慣れたからね」


 そもそも君が食堂で毎度毎度大人顔負けの量を食べるからでしょ。毎回金貨一枚近く失うんですけど。目の前の君が料理を注文する度に、僕はお会計が気になって食欲失せるよ。


 自炊したほうが良いかな......。まさかこんなに食べる子だなんて思っていなかった。


 最初はてっきり奴隷生活のせいで空腹だったのかと思ったけど、毎回大人十人前以上は食べるから「食欲はこれで普通なのね」って悟ったよ。


 『お、今日は全部で大体九万円稼いだぞ!』


 「“九まんえん”?」


 『こっちの話です。というか、よくあの腹話術の内容わかりましたね? 教育上よろしくないと思ったのですが、子供だから大丈夫と判断して続けちゃいましたよ』


 それね。以前ルホスちゃんから聞いた話では、この子の年齢は十歳とのこと。マジで小学生だったよ。


 「わ、我は大人だッ! 子供扱いするな! 内容は最初よくわからなかったけど、観客の人がわかりやすく説明してくれた」


 わからなかったんかい。というか、周りの連中はなんで小学生相手にそんな十八禁用語を丁寧に教えてんだ。道徳を教えろ。


 『腹減ったー。飯食いに行こーぜ』


 『賛成です。今日は稼ぎましたからね。ちょっとは贅沢したいです』


 「スズキが元気出るような料理を注文してあげる!」


 「......。」


 それ僕のお金だけどね。


 そんでもって稼ぐ理由は君の食費がほぼ原因だから。


 こうして小学生に自虐ネタを見られた上に励まされるという意味分かんない罰ゲームを経て、僕らは大広間を去った。



 *****



 「スズキ! このステーキ食べたい!」


 「それ、昨日も食べたよね......」


 「美味しいからまた食べられる!」


 “食べられる”じゃなくて“食べてほしくない”んです。君、遠慮なくステーキ食べるとか正気?


 少しでもさっきの僕に同情してくれるなら、そんな高価なもの普通注文しないよ?


 僕らはいつも通り、“とんでも亭”にて夕食をしている最中だ。ここでほぼ毎日食事を済ませているので、店員さんからは僕らはもう常連さんだと思われている。


 「はい、お待ち遠様」


 「っ?!」


 「あ、ありがとうございます」


 先程注文した品が僕らの席に届いた。届いた品はシチューである。そのシチューを届けてくれた店員さんにびっくりするロリっ子魔族。


 ウエイトレスの人は二十代と思しき女性で、このお店に働きに来ているアルバイト的な存在の人だ。空いたお盆を胸に抱いて、皿が山積みにされた僕らのテーブルを見て唖然としている。......眺めてないで、皿を下げてくれないかな。


 ロリっ子魔族の暴食行為はまだ続くだろうから、しばらく皿は積み重ねられていく一方だ。


 「よく食べるね? この子、人の子?」


 「......。」


 「はは。普通にです。すみません、バカみたいに頼んで」


 「いやいや。うちとしちゃあ毎回金貨一枚以上払ってくれる良いお客さんだから助かるけど、こんなちっちゃな子が大人顔負けの量を食べるんだもん」


 「実はこう見えて結構な魔法の使い手なんですよ。どうにも魔法を使いすぎるとお腹が減るらしくて」


 「......スズキ、ステーキ」


 「ああー、はいはい。すみません、メニューにあるこの“ズルムケ牛のステーキ”をウェルダンでお願いします」


 「ほーい」


 「......。」


 そう言って厨房に追加オーダーを伝えるべく、ウエイトレスさんは僕らの席を後にした。


 ルホスちゃんって僕らの前だと年相応の燥ぎ方をするけど、他人が居ると消極的になるよね。無理もないか。つい先日まで奴隷生活を送っていたのは、人間のせいなんだから。


 「我、人間嫌い......」


 「知ってる。ところでさ、よくそんなに食べられるよね?」


 「そう? お爺ちゃんと住んでいたお城では、我と一緒にご飯を食べてくれる人は居なかったから、この食欲が普通だと思ってた」


 「なるほど。正直、人間は普通そんなに食べないからね。種族が関係しているのかな?」


 しかしこれじゃあ食事しているだけで、めっちゃ目立つぞ。小学生が食べる量じゃないもん。


 「前も言ったけど、我の種族は魔族の中でも数少ない“鬼牙種”だ。半分人間である我でも、この暴食ではその血が原因だと思う」


 「へぇー。そういえば奴隷商から助けたときは、黒い角が二本生えていたけど、今は出ていないよね?」


 「よくわかんないけど、気持ちが昂ったり大袈裟な魔法を使おうとすると出てきちゃう」


 「大変だね」


 “鬼牙種”って名前からして鬼みたいな種族だよね。ちなみにあのラスボスリッチことビスコロラッチさんは見たまんまリッチ種である。


 人間は核を持たないが、獣人族や魔族は核があり、その種族で分けられている理由は魔力や魔法を使うか否かによるらしい。


 鬼っ子かぁ。あのときはこの子を観察するような余裕が無かったからあんま気にしなかったけど、できればあの角をまた見てみたいなぁ。


 超萌えるじゃんね。角が生えたロリっ子とかさ。これじゃあただの可愛い小学生だよ。


 せめて食事代くらいはサービスしてほしいものだ。


 「......。」


 「ん? なに?」


 「......別に。それよりスズキはもう食べないの? シチューだけ?」


 君が目の前でバクバク食べるとお会計が気になってしょうがないんだ。そりゃあ食欲も失せるでしょ。


 「まぁね。あんまお腹減っていないし」


 「......そう」


 僕がそう告げるとルホスちゃんは落ち込んだ様子で視線を落とした。フォークの扱いに慣れていない子供のように、グーでそれを握ったまま動かなくなった。


 僕、なんか気に障ること言ったかな?


 『おい、スズキ。ちゃんと食べろよ』


 「え?」


 『金額のことより目の前の少女のことを考えなさい』


 今まで静かにしていた魔族姉妹が僕に対してそう言ってきた。ルホスちゃんの様子だと、彼女らの声は聞こえていないみたい。内容が内容だしね。そりゃあ例の魔法で自分たちの声を隠すか。


 『おそらくこの子の今までの生活では、このように誰かと食事をすることが多くなかったのではないでしょうか?』


 だからシチューしか食べていない僕じゃ一緒に食事を楽しめないってか。


 『それとアレだ。心配してんだよ』


 「“心配”?」


 ああ、よく食べる自分と比べて少食な僕を心配しているのか。そんなことで落ち込む、普通?


 ......なにそれ。金額ばっか気にしている僕が馬鹿みたいじゃんか。


 超可愛いじゃんかぁぁぁぁああぁあぁぁぁ!!


 「すみませーん! ズルムケ牛のステーキもう一人前追加でッ!」


 「っ?!」


 「いやぁ。そういえば最近碌に飯食ってないや」


 「そ、そうだよね!」


 「うん、だから僕もルホスちゃんと一緒にたくさん食べるよ」


 「それがいい!」


 ルホスちゃんは満面の笑みでぱぁーっと明るくなった。良かった。元気出してくれたみたい。


 こうして僕はロリっ子魔族のご機嫌を取りつつ、一緒に食事を楽しむのであった。しかしこんなに食べる子だったのなら、これからは自炊も視野に入れよう。どうしてもお店で食べると高くつく。


 『あ、じゃあ、あーしらの分のズルムケ牛もテイクアウトしといてくんね? ソースで』


 『私塩だけでいいです』


 「はは、御冗談を。君らは食わなくても生きていけるんでしょ?」


 『『......。』』


 「節約、節約。ルホスちゃんのためだと思って」


 決して君らに意地悪したいんじゃないよ? ないったらない(笑)。

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