第36話 ロリっ子魔族は蛮魔の子

 「うおい! 指輪の宝石が赤色になっているじゃないか!」


 『おいおい。ガキがピンチってことだろこりゃー』


 『とりあえず光線を辿って向かいましょう』


 現在、僕らは王都の街中にて慌てふためている最中だ。


 理由は先程から探している魔族の子がピンチで、ラスボスリッチから預かった指輪の宝石の色がそれを教えてくれたからである。


 魔族の子がピンチ、もしくは何かあった場合、僕らはあのラスボスリッチに殺されることを意味する。


 「ちょ、ちょっと! 早く光線出してよ?!」


 『や、やってますよ! 魔力を込めてるから、ちゃんと光っているじゃないですか!』


 『宝石は光ってんな。なんであの光線が出ねーんだ?』


 たしかに。先程までは普通に魔力を込めれば、指輪が光線を発して魔族の子が居る方角を示してくれていた。


 と言っても、そもそもこの光線がその用途で合っているのかすら定かじゃないけど。


 『この指輪が発する光線は地面と平行するはずなんですけど』


 『おい鈴木! ちょっとここから離れろ!』


 「え、あ、うん」


 妹者さんにそう言われて僕は数歩来た道を引き下がった。


 するとその光線はまた僕らが居た場所の方へ発光した。不思議に思った僕は再び先程まで立っていた位置へ移動する。そしたらまた光線は長さを徐々に削っていって光線そのものを発さなくなった。


 試しに光線が消えた場所を中心にあっちこっち行くが、どこもその問題が発生した地点を示しているので意味がわからない。


 「???」


 『どういうことですかね?』


 『こりゃあアレだな』


 「『“アレ”?』」


 『上見ろ』


 そう言われて僕らは“上”を見た。


 普通に空しか見えないよ。雲一つ無い快晴だね。


 『上がなんとも無けりゃあ下を見てみ』


 「今度は下?」


 『っ?! まさか!!』


 依然として僕にはわからないけど、姉者さんは見当がついたみたい。普通に下は地面だから、それがどうしたの?といった具合で、僕の頭上には疑問が浮かんだままだ。


 そして左手は僕の意思に関係無く、真下の地面に突き出した。


 『【探知魔法】!』


 「うおッ?!」


 左手から直径五十センチ程の魔法陣が浮かび上がった。周囲の人が道中で何やってんだコイツって顔で僕を見る。


 『生体反応ありました! 数は三です!』


 「え? 地面?」


 『ばーろ。地下だよ、地下』


 え、王都に地下ってあるの?!


 というか、今普通に魔法使ったよね。アーレスさんにバレるんじゃないの。


 地下に生体反応があるのは姉者さんの【探知魔法】でわかった。その上、指輪が光線を発しなくなったということは――――


 『行くぞ、鈴木! ガキは地下に居んぞ!』


 「マジすか......」



*****



 「はぁはぁはぁ!」


 なんで私がこんな目に遭わなければならないのだろう。


 灯りなんて無い暗いここは、太陽の日差しとは無縁な場所である。地下―――ここでは下水道と呼ばれる迷路のような構造の空間で、少し先が見えない程その闇が続いている。水の流れる音はもちろんのこと、人間が生活で使った水が流れているみたいだからすごく臭い。


 「はぁはぁ......。ここまで来ればなんとか......」


 汚水が流れているのは真ん中の溝で、その両脇には人が通れるような道が少し高めに設けられている。


 私はその通路を走りながら、ある者たちから必死に逃げていた。


 「おーい、魔族ちゃーん、どこだーい!」


 「っ?!」


 私を探しているのは奴隷商人が雇っている用心棒の二人。奴隷商から逃げられたのも奇跡に等しい。持てる魔力を全部使って、命からがらこうして逃げてきた。


 私は再び走り出す。少しでも奴らから離れるために。


 「あ、くっ!」


 が、疲労が蓄積しているせいか、魔力も残りわずかという困憊状況では踏み出す足が思うように動かない。


 だから私は無様にも転んでしまった。


 「おいおい。大切な商品なんだぞ。逃げられたらどうすんだよ」


 「俺に聞かれてもなぁ。マイクの野郎があの魔族のガキを苛めるからだろ」


 「まさかあいつにあんな趣味があったのな」


 「それな。まぁ、そういう奴は一定数居るってもんだ」


 二人の声が良く聞こえる。跡をつけられてはいたものの、この空間はよく音が響くので、位置はわからずとも二人の男が近くに居ることは確かだ。


 ......そう。マイクとかいうクソ野郎は鎖に繋がれた私に暴力を振るった。何が楽しいのか、恍惚した笑みで殴ったり蹴ったりしてきた。なんであんなことしてくるのだろう。人間だからかな......。本当に残忍な生き物である。


 「なんで......なんでこんなことに」


 弱音を吐いていい状況ではない。ここに私が居ることがバレたらお終いだ。奴隷として奴隷の首輪をつけられて一生弄ばれる。そんな生地獄を容易に想像できてしまうので、恐怖心が余計煽られてしまう。


 今の私が力を出せないのは、捕まってから十分な休息と食事を得られなかったからだ。


 「こんなことならお爺ちゃんの言いつけを守っていれば良かった......」


 自然と瞳からポロポロと涙が流れ落ちる。


 私のお爺ちゃんはとっても強い。物心つく前から両親より私を大切に育ててくれた血縁関係の無いお爺ちゃんは最強のリッチだ。


 いつも口を酸っぱくして「外は危険だから」と言い聞かせてきたお爺ちゃんの忠告を無視して、私はよく外に出て森を歩き回っていた。


 ちゃんと夕食の時間までには戻っていたし、外は退屈な家の中と違って楽しかったからとても魅力的だった。


 「うぅ。帰りたいよぉ」


 でもそんな楽しかった時間も束の間。まさか森で奴隷商にばったりと遭遇するとは。


 もちろん抵抗した。お爺ちゃんから魔法の使い方も教わってたし、属性魔法は中級程度なら大体使える。


 そんな私でもまるで歯が立たなかった。原因は奴隷商が所持していた謎の魔法具。アレのせいで魔法が一切使えなかった。私の魔力がその魔法具によってどんどん吸われていったのだ。


 「お、分かれ道だ」


 「右に行くか」


 「っ?!」


 まずい! こっちに来ちゃう!


 でも、これ以上動けない......。


 どうしよう、このままだと確実に捕まる。二人が私の方へ近づいてくる足音が聞こえる。奴らは松明でも持っているのだろう、壁伝いで視認できるほどの明かりが見えた。もうすぐそこに奴らは居るんだ。


 そして――奴らと目が合う。


 「お? お! 居たぞ!」


 「っ?!」


 「倒れてんな。まぁ、こういう事態を見越して日頃からあんま栄養とか与えてなかったし」


 ああ、もう駄目か......。


 「このクソガキ、手間取らせやがって」


 「あぐっ?!」


 「おいおい。大切な商品だぞ」


 男の一人が私の頭を踏みつける。もう一方の男は私を商品としてしか見ていないので、私自身を心配していない。当然と言えば当然である。


 「しっかし珍しい魔族だよなー、このガキ」


 「二本角だからな。一本角ならごろごろ居るが、鬼牙種で二本角は貴重らしいぞ」


 「んま、どんな使われ方するかわからねぇが、まともに長生きできねぇわな」


 「はは。マジそれ」


 終わった。これで地獄の生活が始まる。


 そう思って絶望しきった私の目の前に――――


 「ちょっと失礼」


 「「「っ?!」」」


 一人の若い男性が現れた。


 その人は二人の用心棒の間に割って入って、私を見下ろしてきた。


 「な、なんだてめ―――」


 「わーお、マジか。本当に居たよ。......お二人さん、とりあえず死んでよ」


 『【凍結魔法:鮮氷刃】』


 『【紅焔魔法:閃焼刃】ッ!』


 若い男の人は用心棒たちの胸を、心臓をそれぞれ別の属性の刃で貫いた。む、無詠唱で魔法を......すごい。


 そして次の瞬間――――――


 「ぐああぁぁぁぁあああ!!」


 「ぐふっ。な、な…んだコレ? なんで凍って―――」


 片方は刺された個所から炎を噴き出して火達磨に。


 もう片方は一瞬で氷漬けにされた。


 無詠唱で、あのレベルの魔法を同時に発動するなんて......。


 「ああ〜。普通に魔法使っちゃったから、探知魔法具サイトフォーンを通してアーレスさんにバレたよね」


 『しゃーねーだろ。あたしらの命にも関わっていることなんだからよ』


 『まぁ、今度会ったときに適当な嘘を吐きましょう』


 『つーか、死んだコイツらアレか。闇奴隷商が雇っている奴らか。油断しきってたぞ』


 「今更だけど、こんな簡単に殺しちゃっていいの?」


 『騎士団に突き出せば、闇奴隷商に関係している次点で問答無用の斬首です』


 誰なんだろう、この人。もしかして私を......助けてくれたのかな?


 「まぁ、ならいっか」


 『逆に鈴木はよく平気な顔して殺せたな? ちょっと意外だわ』


 『大方、先程のこの者たちの暴力行為を看過できなかったのでしょう』


 「あ、あの.....」


 『かッー! 衝動でざっくり殺っちゃったのかー』


 『日本じゃアウトですよ、こういうやり方』


 「はは。幻滅しちゃった? でも僕、意外と無駄に正義感が強―――」


 「あ、あのッ!!」


 私を助けてくれたんだよね?


 なんで未だに倒れている状態の私を無視してを始めているの?


 「あ、ああ、ごめん。安心して。怪しい者じゃないから」


 『いや、あたしらさっきから声を隠す魔法使ってるから、独り言をしているヤバい奴認定されていると思うぞ、おめぇー』


 『それに怪しい者は大体自分のことを“怪しい者じゃない”って言うんですよ。わかってます? 相場って言葉』


 「......。」


 「ちょ、声を隠す必要無くない?! っていうか、怪しまれるなら君らのせいじゃん!」


 な、なんか両手に怒鳴りつけているヤバい人が居るんですけど......。

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