第34話 違和感を感じるのは呼ばれ方と接し方が変わったせい
「で、僕たちが代わりに、この王都に居る魔族の......“蛮魔の子”を救出せよと」
『そうだ、
『はい。ですので早急に解決しましょう』
現在、僕らは王都のとある安宿にて、今後の予定を決めている。
昨晩は“
どうやらクソリッチからの依頼を緊急に達成しないといけないらしい。僕が気を失っている間に何があったって言うんだ。
『そこで、だ。あたしらだけじゃ、この王都内を探すのも大変だから、あの騎士共を頼ろうっつーのが一つ目の提案だ』
「でもその子は魔族なんでしょ? 捜索依頼出して見つけられたら危なくない?」
『ばーか。
「と、言うと?」
いまいち要領を得ない僕は聞き返す。あのラスボスリッチとの戦闘から一夜が明け、僕は昼に至るつい先程までぐーすか寝ていたからか、まだ頭が上手く働かない。
『苗床さん、王都では許可が出てない奴隷売買は禁止されています』
「“許可が出てない”?」
『ええ。許可された奴隷売買の対象となる奴隷の多くは犯罪者で、主に重労働やボディーガードなどの理由を下に正式な手続きから購入が可能です』
「今回の件は明らかに不正によるものってことか」
『あのクソリッチの話を鵜呑みにするならな。どっちにしろあたしらには拒否権がねーから、まずは真っ当な奴隷商人から探さないといけねー』
「なるほど。そこで売られていなかったら、裏で売られている可能性が高いのか」
『はい。ですので、そこを調べ上げてからもし目的の人物が居なかった場合、あの騎士団に報告します。極力面倒事には関わらないことに越したことは無いので』
「なるほど。王都で不正な奴隷売買が行われてますよーって通報するのね」
『間違っても魔族の子が居るなんて言うんじゃねーぞ、
「うん。状況はわかったから、さっそく探しに行こうか」
まずは公に行われている奴隷商の下へ向かって調べる。手がかりが無ければ、騎士団たちに協力をお願いするという方針に固まった。
「はぁ。休む間も無いよ」
『
「......。」
『あ?』
「.....精神的なダメージだよ」
『それはこれから鈴木自身で鍛えろ』
そろそろツッコんでいいだろうか。
彼女の“鈴木”呼びが気になってしょうがない。
どうしたの急に。リッチとの交戦から目を覚ました僕に向かって鈴木鈴木って。本来の苗字でも全然しっくりこなくなったわ。
「妹者さん、なんかあった?」
『は? 別になんもねーぞ。それより腹減った!』
「ああ、そう......」
正直、こっちの世界に来てから妹者さんからは“童貞”呼びされて、姉者さんからは“苗床”呼びされているから、もう“鈴木”呼びが違和感の塊に思える。
好きに呼ばせてていいのかな。
「今はちょうど昼時だし、“とんでも亭”に行こうか」
『いいですね。戦闘の疲れはやはり美味しいご飯で癒されます』
『さんせー。
鈴木、鈴木、鈴木。.....うーん、鈴木かぁ
******
「あ、アーレスさん」
「ん? ザコ少年君か」
『『......。』』
全然気が休まらないんですけど。
僕らは予定通り、食事をとるべく“とんでも亭”という飲食店に向かった。
が、入店したと同時に出口に足を運んでいたアーレスさんと遭遇してしまった。彼女は赤髪ポニーテールで私服姿という非番のときの格好だ。
そんな彼女を見ると、頬にソースのような汚れが付いていることに気づく。.....気づいていないのかな?
「き、奇遇ですね。では僕はこれで」
「待て」
「っ?!」
待てと言ったアーレスさんは、通り過ぎようとする僕の肩を掴んで立ち去るのを阻止した。
そしてついてこいと言わんばかりに、僕は近くの席に連れて行かれた。僕に何か用があるんだったら、その前に注文しちゃ駄目かな。時間が勿体ないよ。
「昨晩、王国周辺で大規模な交戦が確認された」
「.....僕は知りませんよ」
「嘘を吐くな。察知した私が王都の外壁の上から様子を見たが、貴様が現場に居たのを知っている」
マジかよ。知ってたんなら助けに来てよ。死にかけたんだぞ。
『んだよ。王都周辺であんな戦闘があったなら、てめぇーが来ても良かったじゃねーか』
『職務怠慢ですね』
「こ、こら」
「私が行ってどうなる? 私が参戦したら、おそらく貴様ら以上に戦えて、それと同時に王都にまで被害が出たはずだ」
街を守らなきゃいけないのに、変に戦いに巻き込んで被害を出したら、それこそ本末転倒だ。だから彼女は向かってきた敵だけを相手にする。近辺で僕と誰かが戦っていても知ったこっちゃないみたい。
「アーレスさんの言う通り、あの場で“
「“
『奴はビスコロラッチって名乗ってたぞ』
『あなたと面識があるそうです。覚えていますか?』
え、ビスコロラッチって名前なの? 初耳なんですけど。なんでそういう重要なことを宿主である僕に言わないのかな。
っていうか、彼女らは声を隠す魔法使っているのかわからないけど、普通にアーレスさんに話しかけているし。
「ああ、覚えている。あの無駄に装飾品を身に付けた‟ザコ骨”だろう?」
「ざ、ザコ骨......」
『あなたと対峙したときは昼だったそうですね。リッチのような魔族は夜間に最大限力を発揮できます』
『てめぇーが戦った時は雑魚だったかもしれないが、うちらんときはクソ強かったぞー』
「ふっ。昼夜問わず雑魚に変わりない。いつ戦っても私が勝つさ」
「『『......。』』」
あのリッチさんも同じようなこと言ってたけど、あんたらなんなん。
正直、どっちを相手にしても手も足も出なかった僕にとって、アーレスさんとビスコロラッチさんのどちらが強いかなんてわからない。
「それにここ、王都では私より強い者があと三人居る。この国に敗北は無い」
あ、さいですか。頼もしい限りです。
「で、ザコ少年君がこうして生きているということは、例の【固有錬成】のおかげか」
『『......。』』
「そうですよ。回復して今は健康そのものです」
なぜか魔族姉妹が黙り込んでいるけど、どうしたんだろう。僕はそんな二人を無視して、アーレスさんに事情をほぼ全て話した。言っていないのは、魔族の子の件だけ。
「なるほど。大体わかった」
アーレスさんは金貨を一枚、テーブルの上に置いて席を立った。
「あの、コレは.....」
「情報が手に入ったからな。好きな物を食えばいい」
『お? あたしらの話を鵜呑みにするのかよ』
『
「いや、こっちが得た情報とほぼ一致している内容だったからな。正当性がある」
昨晩のことなのによく情報集まったな。
「‟得た情報”?」
「ああ。以前、‟魔核”の話をしたな?」
「ああ、王都では売買や所持、利用が禁じられている件ですか」
『再三言うが、あーしらはその件と関係ねーぞ』
『.....ん? ‟魔核”は以前、あなたたちが回収したのではないのですか?』
「あの一件以外にもまだ他所で流通している。情報と言うのは、貴様らがリッチと交戦する前に、何らかの手段で
「『『‟肉体”?!』』」
魔族の肉体って死体ってこと?! いや、死体なら死体って言うか。おそらく肉体と呼ぶ辺り、‟核”を移植するための‟肉体”のことだろう。アーレスさんはここ、王都でそれが流通していることを懸念しているんだ。
「おそらくザコ骨が王都にその肉体を運んだのだろう。その帰りに貴様らが遭遇して交戦したと視ている」
「な、なるほど」
『王都で空の核と肉体が.....』
『この街で一体何が起こるって言うんだぁ?』
「私が聞きたい」
アーレスさんにはラスボスリッチが王都まで来た理由を話していない。魔族の子を救出するためだって事情を話すのは、その子自身を危険な目に遭わせてしまうかもしれないからだ。
それを良い感じにアーレスさんの方で、今回の事件との接点から結び付けてくれたらしい。都合が良くて助かった。しかし同時に事情を知っている僕らだから、その危険性もわかる。誰かがこの国に魔族の肉体を運んだってことが謎のままだ。
「最後に聞きたい」
「?」
『鈴木は現在進行形で童貞だぞ!』
『そして未来永劫もです』
うるさい! 美人さんに言うことじゃないだろ!
アーレスさんは持ち前の銀色の瞳で僕の目をじっと見つめてくる。それにつられて僕もドキリと緊張してしまった。
「どんな怪我も回復ができるその【固有錬成】は、
「へ? あ、いや、僕自身だけです」
『鈴木だけ瞬時に治せんだぜ? すげぇーだろ!』
『自慢の妹なんです』
妹者さんが以前言っていたのは、回復する対象の‟情報”が一定量必要らしくて、それを考慮すると他者でも【固有錬成:回復】は使えるのだとか。
でも基本自己対象だし、『他者にも使える』と口外するのは面倒事に繋がるから、極力隠しておきたい。
「そうか.....」
「『『?』』」
「いや、なんでもない」
なんとなくだけど、アーレスさんは今、少しだけ残念そうな顔をしていた気がする。
そして僕らはお互い、特にこれ以上会話すること無く、アーレスさんは食堂を後にして、僕らは食事にありつくのであった。
「よくわからないけど、これでゆっくりご飯が食べられるね」
『そうだな! フグ系のもん食おーぜ!』
『賛成です。もうお腹ペコペコですよ』
いや、君らは店で食わせないよ? テイクアウトするから我慢しててよ。
こうして僕らは久方ぶりに感じるご飯にありつくのであった。
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