第30話 闇の支配者
『小僧、選択肢を与えヨう。儂を楽しませるか、その体内にある核を寄越セ』
そう告げたのは不思議な格好をした骸骨だ。
身長は二メートルかそこら。特徴的なのは頭に乗せた白銀色の王冠、地面を引きずる程の真っ黒な厚手の外套を身に付けている点に加え、五指それぞれに豪華な装飾品がある。重そうな金色に輝くネックレスも首に掛けており、もうそれだけでひと財産築けそうだ。
ぱっと見でスケルトンのようだが、骨だけというスカスカなイメージが無い。マントのせいか、未だかつて無いほどの重圧感を漂わせるスケルトンだ。
いや、僕でもわかる。絶対ヤバい奴だ。ラスボス感やべーよ。
「すみません、少しタイム」
僕は急な展開に思わず、両腕でTの時を作ってそんなことを言ってしまった。
『ほほ。少しだケな?』
あ、意外と話通じそう。
僕は目の前のラスボススケルトンから少し距離を取って、魔族姉妹に小声で話しかけた。
「ちょ、あのヒトなに? スケルトンじゃないよね?」
『ったりめーだろ。ありゃ魔王に匹敵するリッチだぞ』
「‟リッチ”?! そんな存在に異世界生活序盤で会う?! あとめっちゃ人語ペラペラじゃん!」
『交渉してなんとかこの場を乗り切りましょう』
「あ、やっぱ? 僕らじゃ歯が立たない感じなんだ」
『戦っても勝ち目ねーし、見逃してくれねーよ、絶対』
「なんでそんな他人事みたいに言えるの?! 君らも死ぬかもしれないんだよ?!」
『ええ。ですが、変に攻撃して怒らせたら皆殺しにされません? あの骨、視認するまで、全く気配を感じませんでした。【探知魔法】、【索敵魔法】、【隠蔽魔法】を使っていたのに、です』
マジすか。ステルス性能兼ね備えているんですか、あのリッチさん。というか、スケルトンとリッチの違いが判らない。スケルトンにはまだ遭遇していないけど骨でしょ。じゃあどっちも骸骨じゃないか。
『もーいーカーい?』
「ちょ、まだです! すみません! もう少しだけ待ってください!」
『あと十秒ネ?』
めっちゃ軽いんですけど。なんか譲歩してもらってるからラスボス感が薄れてきた。つか十秒って。
「....確認するけど逃げ切れない?」
『『無理(です)』』
即答かよ。
僕は魔族姉妹に言いたいことが山程あるが、時間も迫っているのでラスボスリッチに向き直った。
『若いウちから独り言多いとは大変ヨのぉ』
『とりま時間稼げ。‟独り言”って言った時点で、あたしらの声は聞こえてねー』
『その間に少し作戦を立てますから』
「はは。あの、‟楽しませる”というのはどういうことでしょう?」
僕は魔族姉妹の指示に従い、ラスボスリッチに話しかけた。
『体内にアる核を寄越してもいいんヨ?』
「そうしたいのは山々ですが、核を取り出すと僕は死んじゃいますので......」
『『“そうしたいのは山々”?』』
ごめん、つい本音が。
『まぁ、核は
「ではそろそろ帰ってもよろしいでしょうか?」
『カエるってどこヘ? 土に? ほっほっほっほ。骸骨を前に面白いこトを言う』
「....。」
そりゃあ王都に帰す気無いよね。
例の擬似GPS魔法具を強制所持させられているから、王都に行けばワンチャン、アーレスさんに助けを求められるのだが、こんな王都から離れた森じゃ範囲外だ。別の策を考えないと。
「腹話術ができるんですけど、それで勘弁してもらえないでしょうか?」
まさか自分から童貞をネタに命乞いをしなきゃいけない日が来るなんて....。
『いや、興味ナい。まぁ、儂を楽しませてくれたら命まデは奪わん』
「まさか戦うとかなんとか言っちゃったり―――」
『その‟まさか”じゃ。ほれ、踊レ』
「っ?!」
突然僕の足下の地面が盛大に爆発した。その威力で僕は後方へ吹っ飛ばされる。
「ぐっ」
『【固有錬成:回復】ッ!!』
『無詠唱であの威力ですか.....』
地雷を踏んだことは無いけど、足が吹っ飛ばされるってこういうことなんだろう。僕の左足はまだ繋がっていたが、右足はどっか行った。
不意を突かれたが、瞬時に妹者さんの【固有錬成】によって全回復する。姉者さんにそう言われて前方の被爆地を見たら、直径五メートル程の焼け跡とクレーターのような跡が残っていた。
『ほぉ。面白イ。回復魔法の速度が並みジャないな』
「くそ! 姉者さん!」
『わかってます。【
左手から際限無く鉄鎖が生み出された。ジャラジャラと流れるように出てくる鎖を見て、不思議そうな顔をするラスボスリッチ。人間の仕草のように顎に手をやっていた。
『物体生成とハ....魔法か? 先程から魔力の流れを感じヌ。ガ、他に何かを媒体にしている訳でも無イ。ふむふむ』
『童貞! 今回はお前を気遣っている余裕がねー! 痛みは我慢しろ!』
いつも気遣ってないでしょ。ダメージに関しては君らも立派な僕の身体の敵だよ。
『距離を取んな! 相手は遠距離攻撃を得意とするリッチだ!』
「ええい!
『むむ? 前進してくルか』
どっちみち逃げられないんだ。とりあえず、言われた通り近づくことにした僕である。もし鉄鎖が当たる範囲内ならば定石で攻めよう。
突っ込んできた僕に対してラスボスリッチは特に慌てた様子も無く、骨だけの片足をすうっと少し上げた。
『ホれ、避けてミぃ』
『ヤバッ?! 童貞! 右! 右に避けろ!』
「え?! ちょ!」
宙に浮かした白骨の片足は、歩き始めのように地面へ接地した。
そして次の瞬間―――
「『っ?!』」
勢いよく骨の片足から僕目掛けて地面が隆起し出した。
そして
『【冷血魔法:氷壁】!!』
右方へ避け遅れた僕に黒い棘が刺さると思ったが、透かさず姉者さんによって生み出された防壁のおかげでそれは阻止された。
あ、相変わらずの強度だね。
『回復魔法に生成魔法、ソして氷属性魔法とは.....器用ジャな?』
「楽しめました?! もう終わりでいいでしょうか?!
『ホっほっほっほ』
そう笑ったラスボスリッチは自身の周囲から十個以上の黒い火の玉を生み出した。
勘弁してよ.....。
『苗床さん! あの火の玉食らってでもあの骨に近づいてください!』
「え?!」
『あたしが回復すんよ! いいか?! 生き返っても全力疾走だ! 奴は蘇生効果もあることを知らねーはずだから、油断したところに一発ぶち込む!』
マジ?! 自分から焼死しなきゃいけないの?!
『来ます!』
『走れ童貞ぇぇええぇぇええぇえ!!』
「う、うおぉぉおおお!」
『がんバれがんばレ』
黒い火の玉が僕に向かって飛んできた。これに対して僕も大胆に突き進む。案の定一発食らっただけで火達磨と化した僕である。
「ぐっあああぁぁあぁぁああああぁあ!!」
『あーちーちーあーち♪』
『燃えてるんだろうか♪』
コイツらほんっとなんなん。余裕かよ。超うぜぇ。
火の玉が僕に着弾する度、盛大に爆発し続けるので視界は爆炎や土煙などでよく見えない。今は夜だが、リッチが次々と火を放ってるから、そこら中明るいことだけはわかる。
『加減間違えタか。いやはや、自殺志願者とは思わなんだ』
「げほっげほっ!」
『む?』
接近に成功した僕は、煙の中から左手でリッチの肋骨のうちの一本を掴んだ。掴む所が他に無かったからだ。
『あれ程の致命傷で生きてイるだと―――』
「ハァハァ。.....さぁ、今度は僕の番だ」
『全魔力解放! 【紅焔魔法:天焼拳】ッ!!』
右手による全力の一撃は、空洞である肋骨の中をアッパーするように炸裂した。
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