第27話 フグは貰って喜ばれる贈り物
「え、もうクエスト達成してきたんですか?!」
「あ、あはは。取るに足らないモンスターでしたね」
現在、オーク討伐のクエストを受けてその日のうちに達成してきた僕は、ギルドの受付コーナーにてその報告をしているところだ。
本来ならクエストが終わってギルドに戻ってきた場合、鑑定コーナーがギルドには設けられているので、そこで任務達成の証拠などを預けるらしい。
僕は初のクエスト達成ということで、どこに行けばいいのかわからなかったから、とりあえず、かかりつけの受付嬢さんに相談した。
「これが証拠の核です。....って鑑定コーナーに行くんですよね。それでは失礼します」
「いえ、今は受付の方も空いてて余裕があるので、こちらで鑑定しますよ」
なるほど。こっちでもできるのね。僕はそのままフグオークの核を受付嬢さんに渡した。
「え、ちょ、コレってフグオークの核じゃないですか?!」
「はい。亜種でも構わないって依頼書に書いてませんでしたっけ?」
「いや、そうですけど....」
え、駄目なの? こっちは馬鹿な魔族姉妹たちに精神的苦痛を強いられたから、これで達成されないとストレス溜まる一方なんですけど。
『今回のフグオークはあたしらが一方的に攻撃しまくったから簡単な依頼だったが、フグオークは通常のオークと異なって防御力が高ぇーのよ』
『フグオークには初級程度の火力じゃ、まともなダメージを与えられません。加えて体液は有毒ですから接近戦になった場合厄介です。ですから、フグオークはEランクのクエストの域ではなく、一つ上、Dランク冒険者からが対象です』
なるほど。でも亜種でもいいって書いてあるなら別にいいじゃんね。
「その、せっかくの討伐ですが、この依頼を受けての報酬額はあまり変わりません。フグオークが対象のDランククエストなら、まだ多少高額になるのですが....」
「あ、いえ、通常のオークの報酬額で構いません! 偶々森で遭遇しただけですから」
「そ、それがフグ系モンスターでも挑むとかすごいですね」
「そ、そうですか?」
「はい。接近戦は戦いにくいですし、魔法耐性がフグ系モンスターには備わっていますから。そのくせ、その難易度に反して通常種と報酬がそう変わりませんので......」
「さっき多少高額って言いませんでしたっけ?」
「この件の場合だと銀貨三枚上乗せくらいです....」
「それはなんと言うか....しょっぱいですね」
有毒モンスターで銀貨三枚だけ増加って....。まぁ、僕には妹者さんの回復スキルがあるから変わんないけどさ。毒食らったら痛いだけだし。
こうして僕は銀貨六枚を報酬額として受け取ってギルドを後にした。
「あ、マーレさん。よろしければ道中で狩ったフグカモのお肉いかがですか?」
「え?」
僕はそう言って、リュックの中から捌いたフグカモの肉を包んだ麻袋を取り出してマーレさんに見せた。
「帰りにフグカモを見かけたので狩猟したんです。ちゃんと捌いてますので、毒の心配は要りません」
「いいんですか?! フグ系の食材って結構高価なんですよ?!」
『おいおいそんな賄賂渡したって、お前にワンチャンなんか来ねーよ』
『ああー、せっかくのフグカモがぁ』
「色々とお世話になってますので」
魔族姉妹め、反省の証としてこれくらい許容してくれたじゃないか。
当然、童貞冒険者こと苗床のこの行為も下心が八割、残り優しさ二割といったところの贈り物である。
マーレさんは僕がフグカモを出してから目を合わせてくれない。フグカモに一点病のようだ。
「私はお仕事ですし....」
「たくさんあるので、早く食べないと腐らせてしまうかもしれません」
「そ、そんな! で、でしたら、ありがたく頂戴します」
こうしてやっとフグカモを受け取ってくれたマーレさんは、軽く会釈してソレを他の職員に見られないように奥へ持って行った。
ちなみに、Sランク冒険者以外の冒険者の場合、ランク昇格の条件は現段階のランクのクエストを最低でも十回、そしてギルド側の査定の下、一つ以上上の冒険者と実戦試験を行って、ある程度基準を満たせば昇格できるらしい。
そしてそれは前衛担当の冒険者の場合である。後衛担当の冒険者は後衛としての役割を見られるので、誰か別の人に協力してもらって、受ける側二人、対戦相手一人という実戦形式になる。後衛の人はその際に相方をサポートして評価してもらうのだとか。
まぁ、僕は一応、前衛担当だから前者の試験になる訳だ。
*****
「ふぁーあ。今日は散々な目にあったなー」
『悪かったって。次はちゃんと目眩まし魔法使う瞬間に「瞑れ」って言うからよー』
「“瞬間”じゃなくて、もっと前に言って?」
森でフグオークだけじゃなくてフグカモも狩ったからもう夕方だ。日銭も入ったし、以前、路上パフォーマンスで稼いだお金が大分残っているから、あと数日は自堕落な生活ができるぞ。
「あ、ドーテーだ!」
「あら本当にあのドーテーじゃない」
ギルドから帰宅途中の僕に後ろから声をかけられた。“ドーテー”って童貞って意味だろうか。じゃあ反応しなくてもいいよね。振り向いてしまったら童貞を認めてしまうことになる。
と、頭で考えていたのに、身体は自然と反応して、声をかけてきた見知らぬ人たちの方を振り向いてしまった。
見ると十代前半と思しき男の子とその母親と思しき人妻さんが居た。この親子が僕に向かって“ドーテー”と呼んできたのか....。失礼すぎでしょ。
「ドーテー! また路上ライブやってよ!」
「あの時はすっごく楽しめたわ。すばらしい腹話術ね」
「は、はぁ」
以前の路上パフォーマンスの観衆の中に居たのね、この人たち。
「お、あそこに居るのはドーテーさんだぞ」
「え、お前が言ってたあの自虐パフォーマー?」
「おいおい。まだこの国に居たのかよ。どんな神経してんだ」
「わかる。あんな自虐披露なんて国で一回限りしかできねぇと思ってた」
このクソガキが大声を出したからか、他の人も僕を見て周囲にどんどん集まってきた。そこには老若男女問わず人集りができてしまう。
「おい! あそこに居るのドーテーだぞ!」
「ドーテーさん、次のパフォーマンスはいつするのですか? ぜひ見に行きたいのですが」
「うちもー。従弟に人生の教訓として見せたいから教えてほしいんですけどー」
「ああ、アレはすっごくタメになるよな」
「童貞が悪しき文化のように思えてきたよ」
皆酷過ぎない? たしかに腹話術として、嬉々として語ったよ? 魔族姉妹が、だけど。
皆して公衆の面前で童貞、童貞って......。僕、そんなことで有名になりたくないんですけど。
『どんまい童貞』
『童貞の人ってなんで童貞であることを隠すんでしょうね? こうして笑い話にすれば、皆さんに笑顔をお届けできるのに』
「....。」
じゃあ君らも処女だったときの体験談を語れよ。僕のストーリーだけ赤裸々に語ってさ。
「おい! 今腹話術したぞ!」
「え」
と、周囲に集まった人のうちの一人がそう叫んだ。僕は腹話術した覚えがないのでびっくりしてしまった。
もしかして、いやもしかしなくとも、この魔族姉妹共は例の話声を隠す魔法を使っていないのだろうか。
『さぁさぁ皆さん! とりあえず、一旦広間に向かいましょう! ここじゃあ通行人の邪魔になります!』
「ちょ!」
『今宵は皆様のご期待に沿えて、特別ライブを開催致しまーす!』
ふざけんな! なに勝手なことしようとしてんだッ!!
「やったー!」
「今夜はどういった話が聞けるんだろうな!」
「ああ、でもきっと面白いことには変わりない」
「楽しみですね」
「でもどうしましょう、うちは夕飯の支度がまだでして....」
「でしたら広間の近くに飲食店とか的屋があったでしょう。今日はそれでよろしいのでは?」
「俺、ちょっくら先に行って周辺のお店に出店とか座席の貸し出し頼んでくるわ!」
「私も行きます!」
「俺らも!」
......。
人の童貞を娯楽にしないでよ。
こうして僕は逆らえずに路上ライブをすることとなった。またこの騒動につられて広間付近のお店はいつもより集客できて僕に感謝したことは、これより少し先の話である。
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