第26話 たまには魔族姉妹にお灸を添えます
「それ故、少なくとも王都ではその製造および利用を禁じている」
現在、僕らは関所の休憩室にてアーレスさんに事情聴取を受けている最中だ。
「“少なくとも”ですか?」
「ああ、魔族が居る国では禁止されていない」
そりゃあ自分たちの命だもんな。なら複製して少しでも保身・延命に利用するか。
『言っとくが、“核”だからってあたしらが関わってると思うなよ?』
「私にはそれを信じる道理がない」
『ならどうします? 無実の少年を檻に閉じ込めますか?』
「証拠が無いのは認めよう。あまり無鉄砲に捕まえては世間体が悪くなる」
じゃあどっちなんだろう。当然、僕はこの禁忌とされる件に関わっていないので、一刻も早く釈放してほしい。
「そこである物を用意した」
「『『?』』」
そう言ってアーレスさんは机の端にあった小包を僕らの前に置き、中身を取り出した。
アーレスさんの手には楕円の形をした5センチ程の緑色の宝石だ。
「これは隊で使われている安否確認など情報を得るために使われる魔法具だ。コレはその“子機”になる」
「魔法具?! コレが?! 初めて見た!」
『あたしらをコレで監視するってか』
『悪趣味ですね。プライバシーもへったくれもありません』
君らが言っていいことじゃないからね?
魔法具、その名の通り魔力の籠った、または魔法が使える道具である。少し興奮しちゃったけど、まさか異世界に来て初めてお目にかかる魔法具が監視するための物だなんて......。
ちなみにこの宝石の名称は“サイトフォーン”と呼ぶらしい。
「後ろめたいことなど無いのだろう? ならコレを肌身離さず、所持していろ」
「ちなみに他には、どんな機能があるんですか?」
「持ち主の位置情報と魔力感知を。微力な魔法は感知できないが、戦闘に入った場合などの魔力の流れの急変を自動で“親機”に知らせる」
「会話は聞かれないのですね」
「盗聴までの機能は無い。これで少年がいつどこに居るか、魔法を行使したのかがわかる」
「なるほど」
盗聴が無いのなら別にいっかな。正直、後ろめたいことが無い僕にとって、これはお守りみたいな物でしょ。
だって街中で襲われたりしたときに、僕が抵抗して魔法を使えば、コレが騎士さんたちに知らされる訳でしょ? 自動で通報してくれるなら身の安全が多少なりとも保障されるってもんだ。
「わかりました。コレを常日頃から持っていればいいんですね」
「ああ。ちなみに範囲は王都内だ」
意外と親切に教えてくれるな。でも決して優しい人だと思ってはいけない。僕のことを加減間違えて断頭した人だからね。優しさとは正反対の行為だよ。
こうして僕は疑似GPSみたいな物の所持を強要され、関所を後にした。
*****
「今日は何しよ」
『クエストを受注しに行きましょう』
『狩りの時間だー!』
僕がアーレスさんに断頭されてから一晩が経った。今は宿屋にて今日の予定を魔族姉妹たちと話し合っている。
姉者さんからギルドに行こうなんて提案は珍しいな。よし、Eランク冒険者初の依頼は完璧にこなそう!
僕はそう意気込んで冒険者ギルドに向かった。
「あ、こんにちは! ナエドコさん!」
「あ、先日はお世話になりました」
「いえいえ、お仕事ですから」
ギルドに入った僕はさっそく掲示板に向かって、面白そうな依頼が記載された張り紙を一枚取り、受付コーナーへ足を運んだ。依頼の紙を持っていったら、先日僕の冒険者登録の際に色々と手続きをしてくれた受付嬢さんが居た。
「調子はどうですか? 回復魔法が得意と聞きましたが、どこか痛んだり....」
「いえ、絶好調ですよ! ご心配なさらず! えーっと」
「あ、申し遅れました! 新人職員のマーレです!」
受付嬢さんの名前はマーレさんというらしい。茶髪で中分けした前髪が特徴的で二十代前半と思しき美人さんだ。
『鼻の下伸ばすな! さっさとクエスト受けろ!』
『あなたオ〇禁生活何日目だと思ってるんですか? 変に意識しては治まりつきませんよ』
「....。」
少しはイチャイチャしてもいいじゃんね。イチャイチャかどうか童貞の僕にはわからないけど。
するとマーレさんが片手を自身の口に添えて、小声で何か言ってきた。
「ナエドコさんのお陰であの二人は大人しくなりましたよ」
「あ、あはは。それはなにより......」
あの二人というのはジーザさんとデンブさんの中年おっさん二人組のことだろう。
「まさかCランク冒険者を続けて二人も倒せるなんて....すぐにランク昇格しますよ絶対!」
「まぁ、あの二人が弱すぎたんですよ。あと二、三ジーザくらい余裕ですね」
『ふふ、なんですかその単位(笑)。怪我してただけで、よく調子に乗ったこと言えますね』
『おい、童貞。あっち見てみろよ』
うるさいなぁ。今は美人さんとの会話に花咲かせてんだよ。僕は邪魔してくる二人に呆れながら妹者さんが言った方向を見た。
「....。」
『あっちの髪がチリチリになってんの、昨日焼いたおっさんじゃね?』
『二人共、めっちゃこっちを睨んでますね』
ここより少し離れた、食堂コーナーの一席からジーザさんとデンブさんが僕のことを血眼で睨んでいた。二人は怪我が完治していないのか、包帯やら傷跡やらが所々見受けられた。
「....二、三ジーザって言ったの聞こえたかな?」
『たぶんな』
『また今度あっちから絡んできたらコテンパンにしてやりましょう』
姉者さんって意外と容赦ないよね。まぁ、僕もやられたくないから抵抗するけど。
「ナエドコさん?」
「あ、いえ。えーっと、この依頼を受けたいのですが.....」
「こちらは.....Eランククエスト、オーク討伐ですか」
「はい」
先程、掲示板に貼られた面白そうな依頼とはオークの討伐である。オークとは、ゴブリンのように肌は深緑色で、全長約二、三メートル程の巨大モンスターだ。以前、トノサマゴブリンを倒せた僕だから大丈夫だろうと踏んでの挑戦である。
「ナエドコさんはEランクスタートですので問題ありません。こちらを受注ということでよろしいですね?」
「お願いします」
こうして僕は日帰りを目標に、オークを討伐するため王都を出発した。
*****
『グアァァァアアア!』
「これがオークッ?!」
『いや、‟フグオーク”だ』
だからなんでまたフグッ!!
現在、僕は王都を出て、周辺の森を半日くらい散策していたら、お目当てのオークと思しき一体のモンスターと遭遇した。両者素手で対峙している。
見た目は想像していたオークのまんまだが、両の頬が多少膨らんでいるように見える。アレがフグ系モンスターたる所以か。
「うおッ?! こっち来た!」
『フグオークはフグ系モンスターのくせに不味いんだよなぁ』
『まぁ、依頼達成には亜種でも構わないとのことですので、フグ系でも該当します』
魔族姉妹は悠長に喋ってるし。
フグオークは肉弾戦しか戦法が無いのか、僕目掛けて突進してきた。
『【
『【烈火魔法:火逆光】!』
「ちょ、まぶッ!!」
やるならやるって言えよ!!
『オアッ?!』
「ぐああぁあぁあああ! 目が! 目がぁぁあああ!!」
『あ、わり。つい』
『安心してください。苗床さんが見えてなくても、私たち姉妹の視界は鮮明ですから』
いや、宿主をもっと労われって話。
魔族姉妹は未だ目の前の光景が定かじゃない僕を置いて勝手に戦闘に入った。
『おらぁ!!』
『さて、今日は試したいことがたくさんありますので、早々に死なないでくださいね? オークさん』
ジャラジャラと鉄鎖を眼前の敵にぶつけた音が聞こえる。
てか、失明案件レベルの閃光だったんだから、妹者さんの【固有錬成】で回復してくれてもいいじゃんね。なんで宿主の僕を置いてけぼりにするの。なんなの。
『【冷血魔法:
「いだッ?! なんか足に刺さった?!」
『【紅焔魔法:爆散砲】!』
「あづッ?!」
『【冷血魔法:
「ざむいざむいざむいざむい!!」
『【紅焔魔法:螺旋火槍】!』
「だから熱いってッ!!」
『【凍結魔法:
「肌がくっついて痛冷たい!!」
『【紅焔魔法―――』
『【冷血魔法―――』
僕の知らない魔法めっちゃ使ってる!
僕に説明なんかせず、視覚情報も無いまま僕の知らない魔法めっちゃ使ってる!!
「ハァハァハァハァ....」
『ふぃーすっきりしたわー』
『最初の一撃で、もうオーバーキルでしたね』
戦闘は僕の知らないまま終わった。自分勝手な魔族姉妹が宿主に代わってドンパチやったおかげだ。
見れば姉者さんの言う通り、オーバーキルだったのでフグオークは原型を留めることなく、見るも無残な状態に。辛うじて核だけは綺麗に露出していた。コレを持って帰ればクエストクリアらしい。
『苗床さん、何をぼさっとしてるのですか?』
『おい、さっさと核を回収―――』
「ねぇ何なの?! 君ら敵だけじゃなくて僕にも容赦無さ過ぎ!!」
『『え゛』』
僕は我慢の限界だったので二人に怒りをぶつけることにした。ブチギレとも言う。
「人が視力回復してないのに、勝手に戦闘に入っちゃってさ!」
『お、お前が目を瞑ってないのが―――』
「『目眩まし使う』って予め言えば良いじゃん! そんでもって人の身体をそこら中焦がすし!」
『ま、まぁ、落ち着いてください。前にも言いましたが、成功に犠牲はつきものです』
「君成功してないじゃん!! 最後の方のアレ何?! 【鮮氷刃】って!! なんか刀の柄を握っていた感触あったけど、氷でできてるから肌にくっ付いたじゃん! まともに振れなかったじゃん! なんで自分で発動させて『冷たいッ!』って言ってんだよ!!」
『す、すみませんって......』
しばし勝手な魔族姉妹に説教すること一時間弱。僕の正論の畳み掛けに、二人は反省というかたちで受けるしか他に術は無かった。今日、この瞬間だけ、ヒエラルキーが逆転したのは言うまでもない。
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