第24話 善行と利己を違えるな!
『【天焼拳】ッ!』
拳は視界に広がる氷の壁を殴りつけた。激しい音と共に氷壁に自身の拳の痕が残る。
「ぐぅッ?!」
左手から炸裂される拳は炎を纏っていた。当然、宿主である僕は身を焦がされる思いをするが、そんなことより目の前の氷壁を殴ったことによる衝撃で生まれた痛みの方が辛い。
見れば左腕は肘から骨が突き出ており、あらぬ方向に曲がっていてぐちゃぐちゃだ。
【天焼拳】によってぶん殴られた氷の壁は一部破壊されたものの、ほぼ原形を留めたままデンブさんへと直行した。
そして、
「ぐはッ!!」
勢いを失うことなく、氷の地を削りながら真っ直ぐ飛ばされた氷壁は、デンブさんに直撃した。きっとトラックで轢かれたような悲惨な状況だろう。
『うっしゃ!』
「くっそいったい!!」
『あ、わりぃわりぃー』
妹者さんは悪びれた様子もなく、ぐちゃぐちゃになった僕の左腕を例のスキルで回復させた。
「すっごい威力だったけど、痛みがこの世のものとは思えないくらい酷かったよ!!」
『火傷、骨折、裂傷などなど。これはさすがに痛そうですね』
『でも加減すると意味無いんだよなー』
それもそうだけど、もう戦う意味無いんだからここまで身体を張らなくてもいいじゃん。
デンブさんを見ればさっきの攻撃で気を失ってるし。.....死んでないよね?
「な、ナエドコさん」
「あ、いや、えっと、あははは」
受付嬢さんの顔はあまり優れていないようだ。それもそうか、適正試験なのにCランク冒険者倒しちゃったもんな。接待とか心掛けない系の男子高校生です。すみません。
「お、おい! あの新人やりやがったぞ!」
「Cランク二人を無傷で倒しやがった.....」
「片方は丸焼きだぞ。合法的殺処分じゃねぇか」
観客席で呑気に僕の適正試験を鑑賞していた観客がざわつく。
‟合法的殺処分”ってなに。何度も言いますが、ジーザさん生きてますよ。たぶん。っていうか、僕は無傷じゃないし。めっちゃ怪我しまくったじゃん。回復したけど。
「な、ナエドコさんってお強いんですね」
「そ、そんなことないです」
「えーっと、ちゃんとEランクスタートですのでご安心ください」
「ありがとうございます」
これにてオヤジ狩りを終え、中年共は医務室へ運ばれて僕の昇格適正試験は幕を閉じた。
Eランク冒険者ってどんな仕事できるんだろう。少し楽しみのような、不安のような気持ちを抱えて僕は帰宅する。
*****
「いやぁー。これで僕も晴れて冒険者かぁ」
『前にも言ったが、ソロプレイヤーだからな』
「ああーはいはい。わかってるって」
『この男、全然わかってないですよ。今度ギルド行ったら絶対‟メンバー募集掲示板”に行って、女の子とのマッチングを狙ってますよ』
言い方はあれだけど、否定しづらいのが本音だ。
現在、僕らは帰宅途中で宿まで続く一本道を歩んでいる。あと十数分くらいで着く距離だから移動に苦労しない。
「明日、さっそくクエストを受注しようかな」
『賛成です。街の外に出たいですよね』
『フグ系モンスター狩ろうぜ! 食えるモンスターは高値で売れるし、うめぇーから一石二鳥だ!』
じゃあ明日の予定はこれで決まりかな。やっと異世界ファンタジーらしいことができるぞ! できればモンスター討伐より、最初なんだから薬草採取とかがいいな。
でもそれは二人が許さない気がする。僕がそんなことを考えていたら、
「退けッ!」
「うおッ?!」
正面から疾走してきた男性が僕を突き飛ばした。僕はそれにより尻餅をついてしまう。その際、両手を地面に突いたのだが、いつも手のひらが定位置の彼女らは、いつの間にか手の甲に避難していた。
男の人相は覆面していてよくわからなかった。声だけで男性と判断できたくらい。
「いててて」
『んだぁ? あたしらを突き飛ばしてあの態度はよー』
『さぁ? 見たところ引っ手繰り犯のようですね』
「え、なんでわかるの?」
『手に宝石のような物を握ってましたから』
『へー。ま、盗まれる奴がいけないよな』
いや、盗む奴が悪いだろ。元の世界の価値観からか、どうしても被害者寄りの意見になってしまう僕である。僕は回れ右した。進行方向は先程の覆面男に向いている。
『何してるんですか? 早く夕飯を買って帰りましょう』
「え、追いかけないの?」
『お、お前ってなんで変なことに首突っ込むんだ』
「宝石ってことは結構な値打ちもんでしょ? 捕まえたらお礼に報酬金的な物貰えるんじゃない?」
『見返り目的ですか。なら好きにしてください』
『あたしは別にいーけどよー。早く帰って飯食いたーい』
駄々をこねないでよ。一応人助けだと思ってさ。
「よし! バチクソ盛り上がってきた!」
『『....。』』
「ちょ、なに? そんな目で見ないでよ」
目なんてどこにあるかわからないけど、二人は何か言いたげな表情である。
わかってる。僕の決め台詞化を狙った発言に引いているんでしょ。
『いや、別に......』
『まぁ、ええ、ほら、早く追いかけましょう』
「....。」
なんかあんなら言えよ!!
*****
「ここがアイツらのアジトか」
『さっさと捕まえちば終わる話だったろ』
『大方、あの覆面男の後ろにも何人か居ると見て、一攫千金を狙っているのでしょう』
そゆこと。
僕らは覆面男を追いかけて、人気の無い路地裏までやってきた。覆面男は僕でも追いつけるくらい足が遅かったのだが、あの男、土地勘があるのか所々曲がって追っ手の警備兵たちを撒いていた。
でも、姉者さんの鉄鎖を使って住宅の屋根の上を走る僕には関係無い。終始丸見えだった。
「姉者さん」
『【索敵魔法:敵数察知】発動....ええ。苗床さんの言う通り家に何人か居ますね』
『おっしゃ、じゃあとっと降りて中に入んぞ』
姉者さんの使った【索敵魔法:敵数察知】はその名の通り視覚では捉えられない対象者の座標値を得る魔法だ。壁越しでも人数の情報を得たらしい。
ちなみに普段弱気な僕がここまで積極的に行動したのは何も見返り目的だけじゃない。リープさんたちを助けたあの盗賊たちとの一件から判断したのである。
盗賊であんなんなんだから盗人とか余裕っしょ(笑)。
それが本音である。これで報酬貰えるなら最高じゃんね。
「中に居る人の数は?」
『六人です』
『あーしの目眩まし魔法で先手打つか!』
僕はドアを開けるためドアノブを握った。あ、蹴りが良いかな? 派手に蹴破って登場した方が良いかな?
『一応言っておきますが、蹴破らないでくださいね?』
「っ?!」
『おめぇーそんな良い蹴りできねーだろ。
「....。」
どうやら格好つけちゃいけないらしい。
僕は手動で勢いよくドアを開けた。
「動くな! 大人しく捕まれば、怪我をしないで済む...........ぞ」
『『あ』』
魔族姉妹の口から間抜けな声が漏れる。と言いつつ、僕もきっと人のこと言えないような表情をしているに違いない。
だって、目の前には―――
「む? なんだ、思ったより早く来たじゃないか」
「あ、アーレスさん」
倒れている盗人一味と思しき人たちと他に、スパルタ女騎士ことアーレスさんが居るんだもん。
今度は私服姿じゃなくて鎧着こんでるし。
めっちゃこっちに敵意向けてくるし。
「貴様で最後の一人だな」
「ちょ、待っ―――」
「話は署で聞こう」
その言葉を最後に、視界に入っていたアーレスさんは姿を消し、僕の意識を刈り取った。
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