第23話 中年は可燃か不燃か
「あああぁぁぁぁあぁあああ!!!」
「『『お、おおー』』」
数メートル離れている僕たちにも熱気が...。
火柱が上がっていたのはほんの数秒に過ぎない。火が消えた後にはジーザさんと思われる焦げた中年冒険者が現れ、バタンと倒れた。
「って、これ火力おかしいでしょ?!」
『ほら、姉者と
『立派なおやじ狩りですよ』
僕は受付嬢さんに視線を送った。
「え、あ、えーっと、お疲れ様です?」
「あ、はい」
「ま、まさか圧倒してしまうとは思っていませんでした」
「す、すみません」
「ナエドコさんは文句無しでEランクからスタートです。や、やりすぎですが」
「ほ、本当にすみません」
でもこれでやっと冒険者登録が終わるぞー。
「お、おい! 俺はこんなの認めねーぞ!!」
「「......。」」
と思っていたけど、こんな結果で黙っていられるような中年野郎ではない。だよね。相方が無様にやられたら怒るよね。
「で、デンブさん、もう試験は終わりましたから」
「は?! こいつは油断したジーザを倒したんだぞ! 実力とは言えねぇだろ!」
いや、言えるだろ。普通に実力で勝っただろ。油断した奴が悪い。
『まぁ、クソ童貞自体には力なんてねーからな』
『ついでにやってはどうです? 新作の魔法を試したいですし』
「え、ええー」
少しは僕の味方してよ。帰ろうよ。
「あ、あの、ナエドコさん」
「?」
すると少し離れた所に居る受付嬢さんが僕に対して手招きした。僕は受付嬢さんの所へ向かった。
「すみませんが、ついでにデンブさんも殺ってくれませんか?」
「あの、ジーザさんは気を失ってますが、
「正直、最近あの二人はギルド内でも新人いびりが酷くて......」
「僕が勝ったのも偶然のようなものですし」
「そこをなんとか。審査にはもう影響しませんのでお願いします」
「は、はぁ」
ならいいかな? 姉者さんもなんか試したい魔法があるって言ってたし。
「おい! 無視するな!」
「できるだけ致命傷なヤツでお願いします」
「......。」
少し離れた所に居るデンブさんが僕に怒鳴ってくる。
さっき受付嬢さん、「今後の活動に影響するような怪我は~」とかなんとか言ってなかったっけ。ギルド職員がそれでいいんか。
僕はデンブさんの所に向かった。
観客席の方を見るとさっきよりも人が集まっている。ジーザさんの断末魔やデンブさんの怒鳴り声のせいだろうか。どっちにしろ面白がって見学してる気がする。
「え、えーっと、よろしくお願いします」
「ジーザのようにはいかねーからな!!」
ふむ。こうも警戒されてはどう倒したものか。目眩まし魔法も受付嬢さんが巻き込むだろうし。火属性が付与された鎖なんておっかなくて使えない。バッサリいったら笑うしかないよ。
「それでは始めてください! ファイト! ナエドコさん!」
「っ?! このくそ女がッ!」
「......。」
やめてよ。そういう火に油を注ぐ行為。全部僕に来るじゃん。
「死ねッ! 【土築魔法:土人形】!」
「でかッ?!」
戦闘開始と同時にデンブさんが土属性魔法を発動した。彼の前に一体の高さ四、五メートルにも及ぶデカゴーレムが。
そのゴーレムが僕ら目掛けて走ってきた。
『ゴーレムかぁー』
『ああいう召喚系魔法は召喚する際に多大な魔力を消費しますから、素早くゴーレムを倒せば後が楽です』
「“素早く”?」
『術師はゴーレムに戦わせて、支援魔法か魔力回復に努めるからな』
『ですので、時間がかかってしまっては不利になります。一気にいきましょう』
「い、一気にって」
結構迫力あるな。大きさに圧倒されて防戦一方になりそうだよ。
「術者本人を叩いてもいいんでしょ?!」
『そんな余裕あんのか?』
『ほら、この巨体、デカい割には素早いんですから、隙を突かれたら大怪我ですよ』
たしかにこのゴーレムのせいでデンブさん本人に近づきづらいな。
僕は必死にゴーレムの暴力行為を回避しながら作戦を考える。
「で?! さっきの試したい魔法って?!」
『【冷血魔法】を使いたいと思います』
「なにそ―――れッ?!!」
余所見していたつもりはないけど、ゴーレムの蹴りを腹部に食らって吹っ飛んでしまった僕。血反吐をまき散らし、全身に痛みという電撃が走った。骨もたぶん何本かいってる気がする。
「ナエドコさん?!」
『【回復】っと』
「はぁ?! なんで回復できんだよ?!」
「ハァハァハァ....。自己回復魔法は得意でして」
魔法じゃなくて
『【冷血魔法】ですが、どちらかと言うと支援特化の魔法になります』
「あのゴーレムを破壊するんじゃないの?!」
『するには攻撃特化の【凍結魔法】が向いてます。ですが、前にもお伝えした通り、苗床さんの身体がもちません』
「OK! もう痛いのは嫌だからその【冷血魔法】でお願い!」
あれ? そういえば、あのゴーレムは魔力を消費して召喚したのだから、姉者さんの【固有錬成】で作った鉄鎖で魔力吸って、より強固にしてから縛れないのかな? 僕はそれが気になったので姉者さんに聞いてみた。
『できないこともありませんが、私が【固有錬成】を使うと他の魔法が使えません』
「ゲロしてるときは確かに他のことできないもんね!」
『げ、ゲロじゃないですって! それにここは人が多すぎます。この特性鉄鎖に魔力吸収以外も可能だと情報が流れるのは避けたいです』
たしかに。下手に鉄鎖に補助効果を加えたら鎖が万能だと怪しまれるかもしれない。それに【冷血魔法】を試したいのだから、余裕がなくてギリギリの僕でも姉者さんに協力しなきゃ。今後のためになると思えば平気さ。
「ってさっきから黙ってるけど妹者さんはどう?!」
『....っし。かかッ! 聞いて驚け! ちょうど今、【紅焔魔法】を使えるようにしてやったぞ!』
「え、あ、そう」
『んだよ! もっと喜べ! 今までの補助したり、媒体を必要とするような火属性系統の魔法じゃねー』
「お、じゃあ直接ダメージを与えられるんだ」
『おうよ! デメリットは使った箇所の肉が焦げる』
「攻撃特化になると僕の身体を壊すデメリットどうにかならない?!」
きっとそんな文句言っても「お前が弱いからいけない」とか言うんだろうな。地球人なんだからしょうがないじゃんね。
今まで支援の役割は妹者さんが担って、攻撃は姉者さんが担当していた。でも今回は互いの役割が交換される。
「ちょこまかとうぜぇ奴だな! いい加減くたばれよ!」
「うおぅ?! ゴーレムの速度が上がった?!」
『術師がゴーレムに補助魔法でもかけたのでしょう。さて、苗床さん、止まってください』
未だこっちを追っかけてくるゴーレムを無視して、姉者さんの言う通り急停止した。
「はッ! 馬鹿がッ!」
『【冷血魔法:氷凍地】』
姉者さんが唱えた魔法によって、一般的な学校の体育館ほどあるこの試験場の地面が一瞬で凍り付いた。アイススケート場と違って綺麗な平面になっている訳ではないが、それでもそんな印象をこの場に居る全員に与える光景だった。
「お、おおー!」
『ふぅ。成功ですね』
こっちを追いかけてきた巨体ゴーレムがこの擬似アイススケート場によって足を滑らせ、走行のバランスを崩した。こうならないように姉者さんは僕を停止させたのか。
「うおッ?!」
『『あ』』
そして巨体は転がり滑って、勢いよく僕の方へ突っ込んできた。そりゃあそうだ。力のベクトルはこっちに向いてたもんね。
もうちょっとタイミングとか立ち位置考えて発動させようよ。
「あぐッ?!」
案の定、大型トラックのような巨体に轢かれる僕。避けようと思えば避けたのだろうか。そんなことを考えるくらいの若干の余裕はあったが、如何せん擬似アイススケート場のせいで慌てて動いたら僕まで滑ってしまう。
ゴーレムは僕を轢き殺した後、壁に勢いよく激突してその身を崩壊させた。
『【回復】ぅー』
「っつう。これ使うの禁止ね?! 僕も動けなかったじゃん!」
『苗床さん、成功に犠牲はつきものです』
「君ほんっと謝らないよね!」
『でも、今の勢いでゴーレムは壁にぶつかって砕けたでしょう?』
『おい、童貞。アイツを見ろ』
妹者さんにそう言われたので、姉者さんを叱りつけることより僕はデンブさんに視線を移した。
「な、なんだこりゃ?!」
「あ、あの人も身動きできないのか」
『そりゃあ下手に動いて転んで怪我したら危ねーもんな』
『さて、ここからは遠距離攻撃に移りますよ』
よし、デンブさんが魔力回復してしまう前にこちらから仕掛けよう。
「【土築魔法:土石砲】!」
『【冷血魔法:氷壁】』
「あぶッ?!」
ズドンという鈍い音が。
あちらも動かずに遠距離攻撃をぶっ放してきた。
【土石砲】と呼ばれる魔法はボウリングボール並みのサイズの石の塊を撃ってくる魔法だ。そんな当たったら危ない魔法も姉者さんが氷の壁を作って阻止してくれた。
「ちょ、この壁消してよ!」
そんでもって氷壁の強度が敵の魔法より勝っていたため壁が残ってしまった。これにより、僕の視界は遮られることに。両者動かず、各々の魔法で敵を倒す戦況と化した。
『馬鹿ですか? 相手も私たちのこと視認できないんですよ?』
「僕たちも視認できないじゃん!」
『ばーろ。こっちは魔力に余裕がある』
「魔力があっても動けないと攻撃当てられないよね?!」
『もうこっから動かねーよ。姉者』
『はい。【冷血魔法:補氷芯】』
え、なに? どういうこと? 左手は目の前の氷の壁になんか魔法をかけてるし。右手は拳を強く握ってるし。
『いーか。姉者の魔法でアイツもあたしらも動きづれぇー』
『ですが立ち位置はお互い直線上です』
「あっちはまだ壁の向こう側で魔法を撃ってきてるからね。動いていない証拠だよ」
『そこで今からこの氷の壁をぶっ飛ばす』
「は?」
『念には念を入れましょう。【冷血魔法:補氷芯】』
そう言って、姉者さんはまた魔法を氷の壁にかけているし。聞けばこの【補氷芯】は氷属性魔法を補強するものだとか。つまりこの壁をさらに硬度な壁へと補強させているのだ。
正直、いくら【土築魔法】を何発も撃ち込まれようと、びくともしないくらいの強度だからこれ以上魔法をかけてもしょうがないと思う。
『んじゃいくぞ!』
「え?! こっから魔法ぶっ放すの?! って熱ッ!!」
『【紅焔魔法】―――』
宿主である僕を無視して拳を力強く握った妹者さん。右手は僕の半身を焼き殺す程の熱気を纏っている。見れば、右の拳は火種のような、それでいて決して低くない灼熱を宿しているような炎を纏っていた。
今から火属性魔法を行使するのだろう。それしかわからない僕は焼かれ続けている痛みを我慢することしかできない。
『【天焼拳】ッ!!』
そして右拳は敵に直接攻撃することは無く、目の前の視界を塞ぐ氷の壁を思いっきりぶん殴った。
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